宮﨑あおいが見せないけれど持っているモノとは? 『怒り』李相日監督インタビュー

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2010年、吉田修一の原作を李相日が監督した『悪人』は、日本アカデミー賞を始めとした国内の映画賞を総ナメにしたほか、海外でも高く評価され、興行収入は19億円を超える大ヒットを記録。人間の善悪に深く切り込んだドラマは日本中で感動を呼びました。

 

あれから6年、再び吉田修一の原作を映画化した『怒り』は、1つの殺人事件をきっかけに、人を“信じる”とは何なのかを問いかけるヒューマンミステリー。千葉、沖縄、東京を舞台に、家族や友人、愛する人でさえ簡単に疑ってしまう人間の根幹に迫ります。

 

作品には日本を代表する豪華俳優陣が集結! 今回のインタビューでは、李相日監督が登場人物に託したものを軸に、物語に込めた思いをお聞きします。第1回では、千葉の漁協で働く槇洋平を演じた渡辺謙さん、その娘の愛子を演じた宮﨑あおいさんについて伺いました。

 

 

 

■表情以上に何かを物語っている渡辺謙さんの“佇まい”

――まずは人を信じる力を試される側のキャストのことから聞かせてください。槇洋平役の渡辺謙さんですが、これまでは重厚でかっこいい人物を演じられることが多く、こんな“無力な親父”感のある役は初めて観ました。渡辺さんが最初に決まったそうですが、どうしてオファーされたのですか?

前回『許されざる者』(2013年)でご一緒して、終わった時に、謙さんが「次も何かあるんだったら、何でもやるから」とおっしゃってくれたんです。だからというわけではないんですけど、僕自身も渡辺謙という人をまさにそういうある種オーラを放っている、正しさを纏った人というイメージを持っていたのですが、前作の撮影を通してそれとは違う陰の部分を垣間見ることができて、その印象が結構残っていました。

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よくよく考えたら当たり前のことなのかもしれませんけど、謙さん自身の中にも洋平のような要素はあるんじゃないかと、誰にでもある心の弱さというかね。他のキャストに関しても全員そうなんですけど、キャスティングをする上で、役者の普段のイメージとは違う資質というか、本人の中にある資質と役との掛け合わせを全体的に意識してたので。

 

 

――劇中では、娘の愛子に関して「もしかして愛子が幸せになれないと思い込んでない?」と指摘された時のショックを受けた様子とか、ほかにも重々しさや人間の押し殺した強さの表現は渡辺さんならではだと感じました。たとえば渡辺さんの表情などで注目してほしい部分はありますか?

表情もそうなんですけど、全身から滲む佇まいですね。分かりやすく言うと「親父の背中」じゃないですけど(笑)。その“背中”というものは、よく言葉では聞いて分かったような気になっていますけど、「こういう事か」という説得力を生み出してますよね。とくに肩口のあたりとか、表情はうかがい知れないけど表情以上に何かを物語っている佇まいというのはありますよね。

 

 

――田舎の固定観念や周りからの視線にさらされてきた人の堪えてきた重みをあの背中には感じました。

そうですね。自分や娘に対しての、信じる気持ちの足りなさであったり、長年解決できない、消化できない気持ちが、纏わせている部分もあると思うんですよ。

 

 

 

■宮﨑さんの中にも「どこか自己愛が希薄な部分」があるんじゃないか

――対して宮﨑あおいさん演じる娘の愛子は、洋平とは対象的に天真爛漫でいつもニコニコしていて、それもまたこれまでの宮﨑さんのイメージとは違うものでした。

一見、愛子と宮﨑あおいというイメージはかけ離れていて、確かに違うところは違うんですけど、それは表層的な違いであって。いつもニコニコしている人って、実は何を考えてるかわからないところもあると思うんですけど、そういう表には見せない根づいた性質ですよね。そこは僕なりに、宮﨑さんには愛子と共通する部分があると思ってたんですよね。宮﨑あおいは見せないけど、持っている部分。

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自分より人を大事にしたいというか、単純に自分が幸せになりたいということじゃなくて、自分の存在で大切な人を幸せにすることにより重きを置いている。どこかしら自分に対して自己愛が希薄であったりとか。

 

 

――自己犠牲のようなものでしょうか?

きれいに言うと自己犠牲なんですけど、モラルや道徳としてそう考えてるんじゃなくて、自分を大事にしない、できないという感覚が、ほんの僅かだけど存在するんじゃないかという、僕の思い込みですけどね。

 

 

俳優その人の資質と役柄の化学変化で、豪華俳優陣の新しい面が見られる『怒り』。次回のインタビューでは、沖縄編で女子高生・小宮山泉を演じた広瀬すずさんについて伺います!

 

【李相日監督インタビュー(全4回)】
(1)宮﨑あおいが見せないけれど持っているモノとは?
(2)「怒り」李監督が広瀬すずに厳しかった理由
(3)妻夫木聡が『怒り』で魅せた怪演
(4)殺人犯を疑われる3人がそれぞれに抱える『怒り』

 

■『怒り』公開情報

2016年9月17日 全国ロードショー

監督・脚本:李相日

原作:吉田修一

出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、

広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、

宮﨑あおい、妻夫木聡

音楽:坂本龍一

主題歌:坂本龍一 feat.2CELLOS

公式サイト:http://www.ikari-movie.com/

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