映画『バースデーカード』橋本愛さんの指摘で足された大切なシーンがあるんです
『バースデーカード』吉田康弘監督インタビュー第二弾!
天国の母・芳恵(宮﨑あおい)から毎年届くバースデーカードを受け取る娘・紀子(橋本愛)。毎年楽しみにしていたはずなのに…19歳の誕生日…初めて読むのをためらってしまいます。そんな紀子の心情の変化には、主演の橋本愛さんからのひとことがあったのだとか。じつはこの『バースデーカード』はその他にも、宮﨑あおいさん、ユースケ・サンタマリアさんからの提案もたくさん盛り込まれたということで…インタビューその経緯について吉田康弘監督に伺いました。
■1つ1つのエピソードが「人生の切り取り」なんです
――脚本読みの時点から、キャストからもたくさん意見があったそうですね
撮影前の脚本をあえて不完全な物にしようというのはありました。100点満点ではなく余白を残した台本にして、現場で足されていく形の方がいいんじゃないかと思ったので。この映画自体が、ある3日間などではなく15年ぐらいの長いスパンの出来事を描く訳で、1つ1つのエピソードが「人生の切り取り」なんですよ。そんな映画だからこそ、切り取った瞬間瞬間のディテールが大切になってくる。それは想像で書き込むより、実際に動いている人間とその「場」で発想を膨らませた方が豊かなものになるんじゃないかという気持ちですね。
――なるほど。キャストの方の意見はそれなりに自分の経験に基づいたことかもしれませんし
そうですね。あと、自分の役の部分だけじゃなく、1本の作品として意見を出してくれてる感じがありました。
――では本当の家族のような感じになっていた?
まあ、チームですよね。ものづくりのチームとして意見をしてくれている感じですかね。だから頼もしいというか、頼りがいがありますよね。
――芳恵という「母親像」について、宮﨑あおいさんからは提案がありましたか?
それは「完璧なお母さんじゃない」ということですね。ちょっと背伸びした母親、強がりを言って、なぜこういう手紙を残したかというところに関して。そんな「娘を思う母の気持ち」の部分は、宮﨑さんは脚本を読んで最初から掴んでくださっていて。またそれ以上に「夫との関係性」は、現場でディスカッションしながら作っていったところはありますね。
――たとえばどんなところですか?
夫役がユースケ・サンタマリアさんだからこそというのもありますけど、「母性」で夫に接している感じでしょうか。どっちが引っ張っているのかとか、夫のピュアなところに惹かれて一緒になったんだとか。でも妻が弱音を吐いた時には懐の深さを見せる夫というエピソードもある。そういう大人の関係の部分をあの2人が演ってくれたことによって、深みが出たなと思っています。
――ユースケさん演じる宗一郎は「黙ってこらえる」ところが印象的でした。そんな人となりに関しても、ユースケさんから提案があったのですか?
「余計な台詞は言いたくないね」というのはユースケさんからも言われたことで、表情で「背負う」とか、そういう感じがすごくありますね。最初は説明過多な台詞も書いていたんですけど、「彼はこういうことは言わないんじゃない?」という話をしてもらったり。あと、20年前の若い頃の回想もあったんですけど「それは自分が演じるとお客さんが冷めるんじゃないか」と言われたり。そういう部分は僕もどこかで「いらないかもな…」と迷っているような部分だったので、潔くシェイプした部分はありますね。そのへんはけっこう意見が合ったんですよ! 衣装や小道具のこともいろいろ提案してくれるんですけど、どれも「あっ、イイ!」ということだったりするので、それはよかったですね(笑)。
■「いい子ちゃんすぎる!」という橋本愛さんからの指摘
――ほかにもキャストからの提案で付け加えられた部分はありますか?
橋本愛さんが言ったのは、紀子が母親に対して素直に「いい子ちゃん」でありすぎるんじゃないかということ。だからどこかで「もう手紙を読みたくない!」と思うような展開を作ろうという話になって。反抗する気分になるとか母親に対して劣等感を持つとか、そういう展開を作ったのは、話し合いで得たヒントをもとに改編していったところですね。
――あのシーンは橋本さんからの提案だったとは! 弟の正男を演じた須賀健太さんも、自分探しに出るなどいい味を出していましたね。
須賀くんはやっぱり子役からやっているのでキャリアがしっかりある俳優さんで、もう、求められていることがすごく分かる人。センスとしてあるんだと思います。こちらが欲しい表情とか正しい「間」とか、そういうことが身に沁みついているというか。編集している時に気付くんですよ、須賀くんの芝居がどれだけ安定しているか(笑)。
家族のグループショットを撮っていると、紀子と宗一郎に注目していて、正男をちょっと疎かにするような時もあるんですけど、そのカットを後で見直すと必要なリアクションをやってくれていて「ああ、間違いないことやってる!」っていう感じがある。それがあるから編集を変えたところもありますし。このポジションでこういう役で必要なのはこういうことだろうというのが染み付いている。経験値ですね。
――キュートな弟キャラですが、実は円熟の演技だったわけですね! 本当は年齢も逆なんですよね?
そうそう、愛ちゃんの方が1つ年下なんです。でも、ものすごく「弟」っぽいでしょ(笑)?
――現場ではキャスト同士の関係はどうだったんですか?
須賀くんは普段から明るい子で、ユースケさんと須賀くんはずっと映画の中の関係性そのままにギャグを言い合ったりしてたし、愛ちゃんとユースケさんもそんな感じ。ユースケさんがよく喋って、愛ちゃんが「ちょっと、もうやめてください(笑)」みたいな。でも愛ちゃんと須賀くんは、お芝居の中では完全に兄弟に見えますけど、現場では愛ちゃんがお姉ちゃんっぽいかというとそうでもなく。だからやっぱり芝居ですよね。
【『バースデーカード』吉田康弘監督インタビュー(全4回)】
(1)オリジナル脚本で東映配給100館を勝ち取った理由とは?
(2)主演・橋本愛の指摘で足されたシーンとは?
(3)木村カエラの主題歌「向日葵」は「ヘイ・ジュード」の"女性版"
(4)子役時代の撮影現場にも足を運んだ主演・橋本愛の想い
■『バースデーカード』公開情報
2016年10月22日(土) 全国ロードショー
出演:橋本 愛 ユースケ・サンタマリア 須賀健太 / 中村 蒼 / 谷原章介 木村多江 宮﨑あおい
監督・脚本:吉田康弘(*「吉」の字は「土」に「口」です)
主題歌:「向日葵」木村カエラ(ELA / ビクターエンタテインメント)