オリジナル脚本で東映配給100館を勝ち取った『バースデーカード』

 

天国から毎年届く10枚のカードには母の愛が生きている――。余命迫る母(宮﨑あおい)がとった行動は、子どもたちが成人するまでの年数分「バースデーカード」を書くこと。引っ込み思案で臆病だけど優しい長女・紀子(橋本愛)が、天国からの母の愛に支えられて成長していく姿をゆっくりと見守る物語『バースデーカード』。メガホンをとるのは『キトキト!』で監督デビューして以来、オリジナル脚本にこだわってきた吉田康弘監督(*「吉」の字は「土」に「口」です)。「母を亡くす」という重いテーマを軽やかに描いた監督は、インタビューでも軽妙な関西弁でサービス精神を発揮して話してくれました!

 

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■オリジナル脚本へのこだわり

――最近では珍しいオリジナル脚本ですが、そこへのこだわりを教えてください。

映画は5本目なんですけど、全部オリジナルなんですよ。というのも、強い原作はちゃんとキャリアのある監督の方がプロデューサーも安心するでしょうし(笑)、オリジナルじゃないと撮らせてもらえないんじゃないかという気持ちすらあって。監督が本を書くからこそ「コイツに撮らせよう」と思うんじゃないかとも思いますし。オリジナル脚本だと書いた人間が一番良く分かるし、役者に対して説明する時にも説得力が増しますよね。ある意味ズルさと言うんでしょうか(笑)。そういう気持ちもあって、僕にとってはオリジナルの方がやりやすいんですよ。

 

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でも、こういう東映配給の全国100館以上の規模で公開されるような映画は初めてで、それがオリジナル脚本として成立したことはすごくありがたいし、周りからも「よく成立したね」と言われます(笑)。そこはやっぱりキャストの力ですね! 本を読んでくれた橋本愛さん、宮﨑あおいさんが「やる!」と言ってくれたことが、企画を実現させる上で大きな要素だったと思います。

 

――脚本の時点で物語に「出たい」と思わせる力があったということですね!

原作がない場合、役者さんが頼りにするものは脚本しかないし、じゃあ監督の名前でというほど僕もキャリアがないので(笑)。やっぱり脚本が面白いと思ってくれないとやるとは言いづらいですよね。そこが実現するかどうかのキモだったと思います。

 

 

■どの時代を切り取っても「幸せな家族」にしたかった

――さて、この作品を作る上では、お涙頂戴にはしたくなかったのだとか?

はい!

 

――いつのまにか「泣ける!」が最大級の賛辞になっているような風潮がありますが、そこで「泣ける映画にしない」とおっしゃるとは、もう反逆心のようなものすら感じます!

“泣け泣け映画”に対するアレルギーみたいなものは、僕自身の中にもあると思うんですよ(笑)。感動を押し付けられるようなものがちょっと苦手というのがあって。それよりもやっぱり映画って、ワクワクドキドキ、ハラハラしながら観る物だと思うので。今回もどんなバースデーカードが送られてくるのかワクワクしながら観て欲しい、ちょっと冒険のような映画にしたいという思いはありまして。だから、母親が亡くなる話ではあるんですけど、その後の娘がどう成長していくかに物語の視点を置いていましたね。

 

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――母が死ぬという悲劇は、受け入れた子供達を映すことでさらっと描いていました。

ええ、その死んでしまう「いまわの際」みたいなところは絶対に見せないっていうかね(笑)。

 

――そこにほっとすると同時に、懸命に生きる姿を見つめる視点が温かい作品でした。

どの時代を切り取っても、結果として「幸せな家族」にしたかったんですよ。母親が若くして亡くなったとしても、じゃあその後の家族は不幸になるのかと言うと絶対にそうじゃないと思うんです。たとえ母親が亡くなっても残された3人は幸せな家族でいてほしい、そういう形を描きたいというのがあったので、「明るさ」とか「楽しさ」は大事にしました。それは願望でもありますよね。亡くなった後も子供や家族にこういう形で関わり合えるという考え方は、この映画で提案したいなという気持ちもあります。

 

――それはご自身の経験もあるのでしょうか?

そうですね、僕も母を亡くしていますし。手紙なんかを残してもらっているわけじゃないけど、その存在ってやっぱり、兄弟の間でも事あるごとに思い出して話もするし、亡くなってからも僕らは子供だし親は親なんです。そういう風にずっと「家族」は続くんですよね。そういうことが表現できたらと。ただ、それを重たくやるのではなく、爽やかにね(笑)!

 

――橋本愛さん演じる主人公の紀子が自分で考えて成長する姿をゆっくり見守る物語ですが、そこで親ができることの少なさを感じたりはしませんか?

そうですね、勝手に子供が見て育つっていうかね。やっぱり完璧な親なんかいないじゃないですか。バースデーカードを残すのは「押し付け」でもあって、母親の芳恵自身もそれに気づいて、自分が子供だったら嫌だろうなと19歳の手紙を書いた時は一度それを破り捨ててしまう。そんな時があっても、一生懸命何かをやることで伝わるんじゃないかということもこの映画では描きたくて。親はかっこ良くやろうとしなくて良くて、無我夢中で等身大で、不器用でも子供のことを思うその気持ちを発信することが、大事な気がしています。

【『バースデーカード』吉田康弘監督インタビュー(全4回)】
(1)オリジナル脚本で東映配給100館を勝ち取った理由とは?
(2)主演・橋本愛の指摘で足されたシーンとは?
(3)木村カエラの主題歌「向日葵」は「ヘイ・ジュード」の"女性版"

(4)子役時代の撮影現場にも足を運んだ主演・橋本愛の想い

 

■『バースデーカード』公開情報

2016年10月22日(土) 全国ロードショー

出演:橋本 愛 ユースケ・サンタマリア 須賀健太 / 中村 蒼 / 谷原章介 木村多江 宮﨑あおい

監督・脚本:吉田康弘(*「吉」の字は「土」に「口」です)

主題歌:「向日葵」木村カエラ(ELA / ビクターエンタテインメント)

公式サイト:http://www.birthdaycard-movie.jp/

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