「怒り」李監督が広瀬すずに厳しかった理由
李相日監督インタビュー第2回では、母娘2人で引っ越してきた地「沖縄」で悲痛な事件に巻き込まれる高校生・小宮山泉を演じた広瀬すずさんについて伺いました。
■「痛み」が泉のものとして伝わらない限りOKにはできない
――役者さんが口をそろえて「厳しい現場だ」とおっしゃいますが、テイクを重ねることで、役者から何が出てくるのを待っているんですか?
それは「本気」が出てくるのを待っているんです。そういう事を言うとみんなから「本気でやってるよ!」って怒られると思うんですけど(笑)。本気かどうか演じている人が分からないぐらいの「本気」ですね。
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――先ほどおっしゃった「役者のイメージとしてはないけれど、素の部分では持っているんじゃないか」という部分でしょうか。
そうですね。
――とくに小宮山泉役の広瀬すずさんは別のインタビューで「『監督のバカヤロー』と叫んでいいよ」とフォローしてもらったと話されていました。撮影初日は同じシーンで何度もテイクを重ね…結果、その日は一度もカメラを回さなかったそうですね。なぜ、そこまで厳しく演出されたのでしょうか?
なんであんなに厳しかったか自分でも思い出せないぐらい(笑)。
――そうなんですか!?
いや、それだけ期待をしていたんだと思います。彼女の可能性にですよね。役の上では普通の17、18歳が経験し得ないことを経験するし、それはたぶん彼女自身の想像力も及ばない「痛み」だと思うんですよね。そこをどう、頭だけじゃなくて心として寄り添うことができるかというのは、本当に簡単なことじゃないので。
――確かに、当事者でないとその痛みは分かり得ないことでもあります。
僕としてはその「痛み」が泉のものとして伝わらない限り、OKにはできないので。そこまで行くためにかなり攻めたんだと思うんですよ。
■希望は与えられるものではなく見出すもの
――「信じるとは?」というのがこの映画のテーマですが、この泉という人物は最後まで人を信じる力を持っていたと思いますが、そんな人が大きな現実的ダメージを負うというのはヒドすぎです…!
残酷ですけど、信じてしまうことで失うこともありますから。
――原作では最後に強さを持つような描き方でしたが、映画の中では現実を受け止めきれていないようにも見え、個人的にはどう捉えようか迷った部分です。そこは観客に投げかけている?
捉え方次第じゃないでしょうか。泉の最後の姿を暴力に屈した絶望と捉えるか、信じることを捨てずに、孤独にこの世界と対峙する姿と捉えるか。
まあ、わかりやすく言うと、「希望」みたいなものは、与えられるものではなく見出すものですから。どこかで映画もそうあるべきだと思っているんです。なので、「彼女は立ち直りましたよと見せなきゃ希望を感じ取れないのか?」っていうことなんですけどね(笑)。
例えば、映画が終わった後も彼らの人生が続くとしたら、観客の想像次第で幾らでも希望を見出すことが出来るはずです。少なくとも、その余地はあると思っています。
観客の皆さんは、小宮山泉の姿に何を見出すことになるのでしょうか…? 次回は、同居する恋人に疑いを抱くことになる同性愛のエリートサラリーマンを演じた妻夫木聡さんについて伺います!
【李相日監督インタビュー(全4回)】
(1)宮﨑あおいが見せないけれど持っているモノとは?
(2)「怒り」李監督が広瀬すずに厳しかった理由
(3)妻夫木聡が『怒り』で魅せた怪演
(4)殺人犯を疑われる3人がそれぞれに抱える『怒り』
■『怒り』公開情報
2016年9月17日 全国ロードショー
監督・脚本:李相日
原作:吉田修一
出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、
広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、
宮﨑あおい、妻夫木聡
音楽:坂本龍一
主題歌:坂本龍一 feat.2CELLOS