「怒り」李監督が広瀬すずに厳しかった理由

th_ikari07.jpg

李相日監督インタビュー第2回では、母娘2人で引っ越してきた地「沖縄」で悲痛な事件に巻き込まれる高校生・小宮山泉を演じた広瀬すずさんについて伺いました。

 

 

■「痛み」が泉のものとして伝わらない限りOKにはできない

――役者さんが口をそろえて「厳しい現場だ」とおっしゃいますが、テイクを重ねることで、役者から何が出てくるのを待っているんですか?

それは「本気」が出てくるのを待っているんです。そういう事を言うとみんなから「本気でやってるよ!」って怒られると思うんですけど(笑)。本気かどうか演じている人が分からないぐらいの「本気」ですね。

 

 

――先ほどおっしゃった「役者のイメージとしてはないけれど、素の部分では持っているんじゃないか」という部分でしょうか。

そうですね。

 

 

――とくに小宮山泉役の広瀬すずさんは別のインタビューで「『監督のバカヤロー』と叫んでいいよ」とフォローしてもらったと話されていました。撮影初日は同じシーンで何度もテイクを重ね…結果、その日は一度もカメラを回さなかったそうですね。なぜ、そこまで厳しく演出されたのでしょうか?

なんであんなに厳しかったか自分でも思い出せないぐらい(笑)。

th_印刷用_怒り_サブ04.jpg

 

――そうなんですか!?

いや、それだけ期待をしていたんだと思います。彼女の可能性にですよね。役の上では普通の17、18歳が経験し得ないことを経験するし、それはたぶん彼女自身の想像力も及ばない「痛み」だと思うんですよね。そこをどう、頭だけじゃなくて心として寄り添うことができるかというのは、本当に簡単なことじゃないので。

 

 

――確かに、当事者でないとその痛みは分かり得ないことでもあります。

僕としてはその「痛み」が泉のものとして伝わらない限り、OKにはできないので。そこまで行くためにかなり攻めたんだと思うんですよ。

 

 

 

■希望は与えられるものではなく見出すもの

――「信じるとは?」というのがこの映画のテーマですが、この泉という人物は最後まで人を信じる力を持っていたと思いますが、そんな人が大きな現実的ダメージを負うというのはヒドすぎです…!

残酷ですけど、信じてしまうことで失うこともありますから。

 

 

――原作では最後に強さを持つような描き方でしたが、映画の中では現実を受け止めきれていないようにも見え、個人的にはどう捉えようか迷った部分です。そこは観客に投げかけている?

捉え方次第じゃないでしょうか。泉の最後の姿を暴力に屈した絶望と捉えるか、信じることを捨てずに、孤独にこの世界と対峙する姿と捉えるか。

 

まあ、わかりやすく言うと、「希望」みたいなものは、与えられるものではなく見出すものですから。どこかで映画もそうあるべきだと思っているんです。なので、「彼女は立ち直りましたよと見せなきゃ希望を感じ取れないのか?」っていうことなんですけどね(笑)。

 

例えば、映画が終わった後も彼らの人生が続くとしたら、観客の想像次第で幾らでも希望を見出すことが出来るはずです。少なくとも、その余地はあると思っています。

 

観客の皆さんは、小宮山泉の姿に何を見出すことになるのでしょうか…? 次回は、同居する恋人に疑いを抱くことになる同性愛のエリートサラリーマンを演じた妻夫木聡さんについて伺います!

 

【李相日監督インタビュー(全4回)】
(1)宮﨑あおいが見せないけれど持っているモノとは?
(2)「怒り」李監督が広瀬すずに厳しかった理由
(3)妻夫木聡が『怒り』で魅せた怪演
(4)殺人犯を疑われる3人がそれぞれに抱える『怒り』

 

 

■『怒り』公開情報

2016年9月17日 全国ロードショー

監督・脚本:李相日

原作:吉田修一

出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、

広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、

宮﨑あおい、妻夫木聡

音楽:坂本龍一

主題歌:坂本龍一 feat.2CELLOS

公式サイト:http://www.ikari-movie.com/

Related Post

インタビュー

2016.09.17Sat

殺人犯を疑われる3人がそれぞれに抱える『怒り』

手配写真が公開され、人々の胸に浮かんだ容疑者は3人。優馬(妻夫木聡)が新宿で出会った無職の男・大西直人(綾野剛)。千葉の漁協にふらりと現れ、愛子(宮﨑あおい)と同棲を始める田代哲也(松山ケンイチ)。泉(広瀬すず)が沖縄の無人島で出会...
インタビュー

2016.09.16Fri

妻夫木聡が『怒り』で魅せた怪演

東京で大手通信会社に勤める藤田優馬は、新宿で出会った直人と一緒に暮らすことになる。しかしある報道をきっかけに彼に対する疑いが生まれ――。藤田優馬を演じたのは、『悪人』でも名演を見せた妻夫木聡さん。「怒り」でも、その「藤田優馬」がこれ...
インタビュー

2016.09.14Wed

宮﨑あおいが見せないけれど持っているモノとは? 『怒り』李相日監督インタビュー

2010年、吉田修一の原作を李相日が監督した『悪人』は、日本アカデミー賞を始めとした国内の映画賞を総ナメにしたほか、海外でも高く評価され、興行収入は19億円を超える大ヒットを記録。人間の善悪に深く切り込んだドラマは日本中で感動を呼び...