RADWIMPS/野田洋次郎さんに脚本をお渡しして3、4ヶ月後に「前前前世」が上がってきたんです 『君の名は。』新海誠監督インタビュー
『君の名は。』はイメージぴったりな配役も魅力で、立花瀧役の神木隆之介、宮水三葉役の上白石萌音をはじめ、長澤まさみ、市原悦子と実力派の役者陣が名を連ねます。そして音楽は、ロマンティックな世界観で大きな支持を受けるRADWIMPSの描きおろしという豪華な布陣なのです!
■演技指導、作画の設計図…すべての役割を担う「ビデオコンテ」とは?
――瀧役の神木隆之介さんの女の子と男の子の“入れ替わり”の演技を絶賛されていましたが、事前に演技指導や打ち合わせなどはされたんですか?
瀧役を神木さんに決めさせていただいた後は、アフレコまでは何回か会ってるんですけど、脚本を読みながらの演技指導などは一切していないんです。まあ色んな話はするんですけど、演技に関することは、どれぐらい女の子っぽい声の華やかさとかトーンの高さにすればいいですかね、ぐらいで。
今回は、絵コンテだけではなく100分ちょっとのビデオコンテも作ったんです。「とにかくこれを観れば、一通り把握できる」というものです。直接デジタルで描いて音も同時に作っていって、時間軸に合うものとして作っていったんですね。その中では、セリフのニュアンスやテンポ感を最初に固めるために、セリフも仮で全部自分でしゃべったんですよ。
――完成度が高すぎて見入ってしまうという噂の「ビデオコンテ」ですね!
『言の葉の庭』以降も小説などの作品を作ってきて、「物語ること」ということがようやく身についてきて、107分間をコントロールできるという自信のようなものがありましたし、その自信を形にするためにビデオコンテを作りこもうと。
そのビデオコンテも、今まではPhotoshopで描いた画像を編集ソフトで読み込んで並べて…というやり方だったんですが、それだと行程が多すぎるので、ソフト選びからやり直しました。作るのに時間がかかりすぎると、何かが麻痺しちゃうと思うんですよ。
で、そのビデオコンテは作画のための最初の設計図でもあるし、劇中の曲を担当したRADWIMPSの音楽のための設計図でもある。そういうことの全てのベースにビデオコンテを使っていったので、俳優さんへの演技指導のようなものにもなりました。たぶん皆さん何回も繰り返し観て、僕のつたない芝居を何倍にも膨らませてアフレコに臨んでくれたんだと思います。
――想像を超えるものが返ってきた?
はい、返ってきましたね! アフレコ後、たまに必要があってビデオコンテを見直すと本当に貧弱なものに見えます(笑)。キャストの声が入ったことで何倍にも楽しい作品になりましたし、コミカルにもなったしカラフルにもなったし、長澤まさみさんとか一人ひとりの役者さんの個性で世界が広がったとシンプルに思いました。元の状態よりも何倍も感情を揺らしてくれるものになったと思います。
■凄すぎることになったRADWIMPSの書きおろし曲
――音楽も印象的ですが、4曲の主題歌のほか22曲の劇伴を作ったRADWIMPSさんとはどういうやりとりをされましたか?
一番最初にリーダーの野田洋次郎さんにお渡ししたのは脚本ですね。2014年の秋ごろには第1稿ができていたので、それをお渡ししました。ですから、映画制作の割と早い時期に一緒にやることを決めたわけです。
その3、4ヶ月後に、洋次郎さんから何曲かラフが上がってきたんですね。その中には主題歌になった「前前前世」や「スパークル」っていう曲も含まれていたのですが、それがあまり素晴らしくて! 僕はRADのファンでもあったんですけど、RADの曲としても新鮮だったし、映画から切り離しても凄すぎるものになってしまったという気持ちになりました。そして、こんな曲があるのなら、ミュージカルじゃないですけど、ある時間軸音楽がそのシーンを支配するような部分を作らなければという気持ちになっていって。
そこからはもう並行作業でしたね。ビデオコンテを描きながら、彼らの曲が来たらその曲をビデオコンテにはめていって、いやこうじゃないかもしれないと戻したり、「もうちょっとこれはこうなりませんか」と戻したり、それに対して「分かりました」という時もあるし、「それはちょっと音楽的にはできないから、違う手を一緒に見つけましょう」とか、そういうやりとりを一緒に、ひたすら1年半やりました。
キャストや音楽の話を聞くだけで、とにかく細部までこだわったことが伝わってくるこの作品。しかしこだわりはそれだけではない! 次回は作画監督の安藤雅司さん、キャラクターデザインの田中将賀さん、そしてほかのアニメーターにより生み出された数々の思わぬ感動についてお伺いします!
【新海誠監督インタビュー(全4回)】
(1)「僕たちは可能性の直前にいる」それを全力で語れるような作品にしたいと思ったんです
(2)RADWIMPS/野田洋次郎さんに脚本をお渡しして3、4ヶ月後に「前前前世」が上がってきたんです
(3)『君の名は。』には、日本のアニメーションの文脈が豊かに含まれている
(4)強烈な「ロマンチック・ラブ」に憧れがあるんだと思います…
■『君の名は。』公開情報
2016年8月26日(金) 全国ロードショー
原作・脚本・監督:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS
声の出演:神木隆之介、上白石萌音、成田凌、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音、長澤まさみ、市原悦子