『メアリと魔女の花』米林宏昌監督がメアリに重ねた想い
『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』の米林宏昌監督の最新作、『メアリと魔女の花』。スタジオジブリの制作部門の解散後、設立された「スタジオポノック」として、記念すべき第一作目。
(C)2017「メアリと魔女の花」製作委員会
イギリスの女性作家メアリー・スチュアートによる児童文学が原作。天真爛漫な少女・メアリは、“魔女の花”との出会いをきっかけに、魔法の力を手に入れます。しかし、その魔法の力が続くのは、たった一晩だけ。魔法を失ったメアリですが、大切な人との約束を守るため、自分の力で歩みはじめます。
この原作を選んだ理由は何なのでしょうか? 米林監督に伺いました!
■コンプレックスは、思い次第でどんどん変化していく
-主人公メアリは勇気があり、少女らしい色気もあり、そして危うさのようなものも持つ魅力的なキャラクターです。どのように掴んでいかれましたか?
いちばん最初にあったのは、『思い出のマーニー』という作品を作り終えて、それと真逆のファンタジー作品を作りたいという思いです。『思い出のマーニー』はすごく内面的な作品で、主人公の杏奈は殻に閉じこもっている女の子ですし、すごく静かな作品だったんです。その逆の、キャラクターも表情が豊かで躍動的に動くものにしたいというところから、企画がスタートしました。
脚本の坂口(理子)さんと話しているうちに、「あれも入れよう」「これも入れよう」と、脚本がどんどん分厚くなっていくんですよね(笑)。でも映画をそれほど長くするわけにはいかないので、もうギュウギュウに盛り沢山な話にしよう、メアリは思ったらすぐに行動するキャラクターにしようということになっていきました。じっくり考えていると映画が終わらなくなっちゃうので(笑)。
その結果、すごく心配になってきたのは、お客さんはこの子について行ってくれるだろうかということです。ウソはついちゃうし、調子に乗っていろんなことをやって失敗するし、この子は嫌われないだろうかと。そんな心配はありましたが、杉咲花さんの声もあって、メアリを応援したいというキャラクターになったと思います。
-ウソはつくし失敗もする不完全な女の子で、最初から完成されたヒロイン然とはしていませんが、どんどん成長していきます。
先ほど言ってくれた「危うさ」というのも、メアリの魅力のひとつなんじゃないかなと。「失敗するんじゃないか」と思っていたら、案の定失敗する(笑)。そんな風にいろいろ不安定な中でも、立ち上がって進んで行くという。
-また彼女は最初、自分の容姿、特に赤毛にコンプレックスを持っています。
彼女がコンプレックスを持ったところから、物語はスタートします。それから、自分の価値はもっと別なところにあるんだと気付いていく。鏡の前で自分の顔ばかり見ていたんだけれども、他者のために力になるということに行き着いていくと、自分が赤毛だということにこだわらなくなっていく。そういう価値観の変化というか、思い次第で変化していくんだということを描くために、そうしました。
■映画なんてどう作ったらいいのか分からない状況の中、それでも作り始めるのは勇気がいることで
-第一印象は悪かったピーターとも、次第に心を通わせていきます。2人が協力することで生み出すパワーも、ある意味、魔法に近いのではないかとも思わされました。
目に見えないものっていうのは、たぶん魔法なんじゃないかなという風に思っていて。そこは、いろんな人が自分の中で「魔法って何だろう」と思いながら見てもらえると楽しいんじゃないかなと。魔法の力がなくなった時に、自分が何をできるだろうかとか。
-手助けしてくれる大人がいないのも、気を揉みます…。
「自分たちでやっていかなきゃいけない」と決意するのが、行動のスタートで。メアリって、思い立ったらすぐ、何の目算もなく歩き出すような女の子なので(笑)。でも今、それぐらいの気分の方がいいんじゃないかなとも思っていて。歩み出そうともしない人が増えていると思うんです。どこへ歩き出そうと思っても先行きは全く見えませんから。
そういう意味では自分たちの問題でもあります。僕自身もスタジオジブリを去ることになって、映画なんてどう作ったらいいのか分からない状況の中、それでも作り始めるのは勇気がいることで。無事に完成できてよかったです。
-まさに一作目にふさわしい題材だったとも言える?
僕らのスタートの1作でもあるし、それは多くの人にとってもスタートの物語になったら嬉しいなと思います。
【インタビュー全4回 】
(4)観客それぞれの魔法を感じて欲しい『メアリと魔女の花』米林監督インタビュー
『メアリと魔女の花』公開情報
2017年7月8日(土)全国ロードショー
原作:メアリー・スチュアート
脚本:坂口理子
脚本・監督:米林宏昌
出演:杉咲花 神木隆之介/天海祐希 小日向文世/満島ひかり 佐藤二朗 遠藤憲一 渡辺えり/大竹しのぶ