『メアリと魔女の花』米林監督がジブリから受け継いだ魂
ジブリ作品といえば、精緻で美しい風景。米林監督がジブリの制作現場で長年培ってきたその技術は、今作でもいかんなく発揮されています。制作にあたっては、なんとイギリスまでロケに出向いたのだとか!
(C)2017「メアリと魔女の花」製作委員会
インタビュー第3回では、美術へのこだわりを伺いました!
■「ディテールにこそ命が宿る」アニメならではの贅沢な見せ方
-画面を見ていると、魔法の本のデザインなどディテールにも凝っておられますね。
美術のスタッフが、ひとつひとつデザインしています。ディテールにこそ命が宿るということは、これまでの作品でもやってきたことですが。
-『借りぐらしのアリエッティ』のドールハウスも小さな鍋まで描き込まれていましたし、そういう意味では今回、マダム・マンブルチュークの部屋のディテールはすごいですね。
あそこはすごいですね(笑)! もう、最高峰の美術の人が絵を描いてくれているので。
-どんな魔法の道具が置いてあるのか、巻き戻して確認したいほど魅力的な部屋でした!
その価値はあると思います(笑)。贅沢なものですよ、アニメーションっていうのは。どのシーンもすごい時間をかけてデザインをしているし、描く時間もたっぷりかけているし。今回はお客さんにはもう、盛り沢山なお料理を味わってもらいたいような気持ちで、カツ丼にさらにエビフライを乗せるぐらいの勢いで盛り込んでいます(笑)。いろんなものを楽しんでもらいたいなという思いで作りました。
■日常を描けなければ、ファンタジーを描こうとしてもただの絵空事になってしまう
-今回も美しい背景は見どころのひとつです。実際に、イギリスのシュロップシャー地方にロケハンに行かれたとか。
こういったファンタジー作品というのは、ファンタジー世界を描くのも大変なんですけど、地上の世界を疎かにしたら本当にチープなものになってしまうんです。だから、こっち側の世界こそ美しく描きたかった。それで実際にイギリスにロケに行って来ました。日本とは全然違うんですよ。雲も違うし植わっている木々もまるっきり違うし、行ってみないと分からないようなこともいっぱいあって。
原作が自然描写にはすごく気を遣っているので、その原作を尊重して、自然描写に関しては力を抜かずに描きたいという思いがありましたね。
-やはり、背景こそが世界観を作るのだと改めて感じました。
そうですね。ジブリ作品が世界で上映されると、「Beautiful(美しい)」と言われるんです。ほかのアニメーション作品を評する際は、スゴイとは言われても、なかなかビューティフルとは言われない。美しいと言われるのは、やはり背景の美しさというのも大きいと思います。
そういった意味では今回、スタジオジブリを支えていた大ベテランの人から若手の人まで、世界最高峰の美術スタッフが集まっています。今回の美術監督は、31歳と若くて力のある久保さんという方なんですけど、若い力とベテランのすごい力とが合わさって、作品を作り上げています。
-それは、ジブリで大事にしてきたものを、受け継いでいくということでしょうか?
子供たちに見せる時に、いい加減なものを描いてはいけないし、それは受け継いでいきたいなと。外国だから誰も知らないし、適当に描くことだってできますけど、そういうのじゃないんですよね。そこに何が植わっているか、家具や扉はどれぐらいの大きさなのか。そういうものをきちんと知っていないと、日常は描けない。日常を描けなければ、ファンタジーを描こうとしてもただの絵空事になってしまう。
-日常をしっかり描くことによって、魔法の世界の説得力も出てくると。
そうです。スタジオジブリにいた時はそれが普通だと思っていたのですが…。そこは我々は、スタジオジブリでやっていた時と変わらず、やっていきたいと思います。
■手描きアニメならではの表現手法とは?
-作品を見ていて、ぐっと画面に引き込まれるような、まるで魚眼レンズで見ているような感覚を覚えることがあります。
それは、手描きで描くものの面白さだと思います。最近の作品では、写真で撮ってトレースするものも増えて来てるんですけど、絵だと歪めさせることができるんですよね。だから見せたいものを見せることができるし、逆に見せたくないものは省略できる。そういうことができるのは、手描きのいちばんの面白さだと思いますね。
例えば、机の上にあるコーヒーカップも、写真で横から見たらコーヒーが入っているのは見えない。でもちょっと傾けて見せたほうがいいっていうのが、手描きの絵だったらできる。写真ではできない、何を画面でみせたいかを表現できるのは、手描きで描く良さだと思いますね。だから今回は、手描きが多いですよね。大変ですけど(笑)。
-アニメーションならではというと、やはりホウキで飛ぶシーンの爽快感です。
飛ぶシーンはあまりやってこなかったんですけど、今回は「飛ぶってどんなことなんだろう」と考えて。ビューっと瞬間移動でCGを使って見せるよりも2、3メートルぐらいの高さでふわーっとなっている方が怖いんじゃないかとか。ああいう部分で、お客さんがメアリと一緒に飛ぶ感覚を体験できると思うんです。落ちて「痛そう」とかもね(笑)。
一緒になって体験するというのは、映画のひとつの魅力なんじゃないかと思っているので、それはいろんなシーンで意識しました。今回、美術スタッフの力は素晴らしいので、そのスタッフの力をいっぱい使って作ってみました!
【インタビュー全4回 】
(4)観客それぞれの魔法を感じて欲しい『メアリと魔女の花』米林監督インタビュー
『メアリと魔女の花』公開情報
2017年7月8日(土)全国ロードショー
原作:メアリー・スチュアート
脚本:坂口理子
脚本・監督:米林宏昌
出演:杉咲花 神木隆之介/天海祐希 小日向文世/満島ひかり 佐藤二朗 遠藤憲一 渡辺えり/大竹しのぶ