「僕たちは可能性の直前にいる」それを全力で語れるような作品にしたいと思ったんです 『君の名は。』新海誠監督インタビュー

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『秒速5センチメートル』、『言の葉の庭』など意欲作を次々と送り出してきた気鋭のアニメーション映画監督・新海誠。その最新作『君の名は。』は、少年・立花瀧(たちばな・たき)と少女・宮水三葉(みやみず・みつは)が夢の中で“入れ替わる”ことに端を発する恋と奇跡の物語。

 

アメリカの有名誌で『注目すべきアニメーター10人』に日本人として初めて選ばれるなど注目の新海監督だけに、緊張しながらお話を伺ったところ、ひとつずつ丁寧にお答えいただき、温かく誠実な人柄が伝わるインタビューになりました!

 

 

 

■「僕たちは可能性の直前にいる」ことを全力で語れるような作品に!

――小野小町の和歌「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを」をモチーフにされたということですが、作品を撮られることになった経緯は?

企画書を書いたのが2014年7月だったのですが、ちょうどその年の2月に、今回キャラクターデザインをしてくれた田中将賀さんと一緒にZ会のCMを作ったんです。その手応えがすごくあって、田中さんのキャラクターで、もう少し長いものを作りたい気持ちになったのが、大きなきっかけの一つでした。

 

【クロスロード動画/Z会公式チャンネル】

 

――『クロスロード』と題された2分間のアニメーションですね。

離島に住んでいる女の子と東京に住んでいる男の子が、共に一つの方向を見て行くということを受験をモチーフに描いたんですけど、そのモチーフそのものもまだ語り足りないという気持ちがありました。彼らはお互いをまだ知らないのですが、おそらく未来には会うことになるだろう。きっと人生そのものも、そういうものだと思うんです。明日あるいは1年後に誰に会うか分からないし、出会った人の中にすごく大事な人がいるかもしれない。

 

先日、作家の川上未映子さんと話した時に「常に私達は何かの前日にいる」といったことをおっしゃってましたけど、そういう感覚に近くて、「僕たちは可能性の直前にいる」ということを全力で語れるような作品にしたいと思ったんです。

 

じゃあどういう道具立てができるかと探した時に、夢で出会うというヒントにさせてもらった小野小町の「夢と知りせば――」という和歌があったり、男の子と女の子を取り替えて育てるという平安時代の「とりかへばや物語」をヒントに、じゃあ夢で入れ替わらせようかとか、だんだん組み立てていったんです。

 

 

■「自分たちが美しい場所にいるんだ」ということを描きたかった

――その男の子と女の子が入れ替わる物語は、日常のシーンで始まりそこから思わぬ展開を見せた後、また2人の高校生の日常を丁寧に描くことに戻っていきます。その「日常」という部分にはこだわった?

今回ひとつやりたかったのは、自分の生活空間と育ってきた風土を描くこと。愛国心のようなものとは違うんですけども、みんなやっぱり出身中学を自慢したりとか「おらが町自慢」みたいなものがあるじゃないですか(笑)。僕自身も田舎から上京して来たわけですが、やっぱりどっちも好きだし、どちらの風景も美しいと思うんですよね。

 

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そういう自分の生活実感の中での「自分たちが美しい場所にいるんだ」っていうのを描きたかったんです。それは過去作にもずっと共通してあることなんですけど、今回の作品では、物語構造の中でもそういう見せ方をできるようにしたんですね。

 

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――物語構造の中で、というのは?

彼らは入れ替わってお互いの目を通じて、まだ知らない町を見ることになります。三葉は瀧の目を通して、初めて東京を目にする。するとすごく東京がキラキラして見えるわけです。そこは意図的に美しく描いているんですけど、朝の渋滞の車列ですらも朝日を反射して白い雲を映していて、キラキラとしたゆったりした流れのように見せているんです。

 

だからこそ、こんな輝いている東京という場所にいる男の子ってどんな子だろうと、まだ会ったことのない瀧に少しずつ惹かれていくわけですよね。瀧も同様で、初めて三葉の目を通して来たことのない田舎町を見て、やはり何度か風景に見とれるわけです。

 

 

――お互いが暮らす場所、取り巻く環境をだんだん知っていきますね。

やっぱり人って、ただ単純に1人で立っているわけじゃなくて、周囲の風景や人間の関係性も含めて、その人が形作られるじゃないですか。だから今回は、入れ替わってお互いを取り囲む世界を見ることでだんだんと惹かれていくという話を作ることで、僕がずっとやりたかった「自分の住んでいる風景をいかに魅力的に美しく描くか」ということを、より物語に深くリンクした形で扱える作品にしたかったし、そうなったと思います。

 

 

 

■楽しかったのは、107分間コントロールし切ったという手応え

――以前は男女のプライベートな感覚で語られていたものが、今回は作品として一気に拡がった感じがありますが、ストーリーの作り方などであえて変えたところはありますか?

そうですね、僕の映画作品を続けて追ってくださっている方には、前作の『言の葉の庭』から『君の名は。』へは大きなジャンプがあるように見えるかもしれませんが、僕の中では連続感があるんですね。

 

 

――というのは?

『言の葉の庭』と『君の名は。』の間にも、Z会のCMや大成建設の30秒のCMなど、たくさん手がけた映像があるんですよ。

 

あと大きかったのは、雑誌『ダ・ヴィンチ』で『言の葉の庭』の小説を8ヶ月ぐらい連載したことです。毎月オムニバス形式で完結させる形でしたので、1本書くにあたって毎回数冊の本を読み、数人に会い話を聞いて…ということをずっと繰り返していたので、今思えばそれがすべて物語作りの訓練になっていた。

 

そこで得た手応えあるいは手つきのようなものを、自然に『君の名は。』の中で使ったという感じで、連続感はすごくあります。作品として繋がっているということは全くないんですけど、僕自身がやってきたことという意味では自然な変遷として『君の名は。』に入っていったということです。

 

 

――完成した『君の名は。』は107分とこれまでで2番目に長い作品ですが、苦労されたところは?

今回は1650カット近くあり、カット数で言うと僕の作品の中では一番多くて、107分という尺のアニメーション映画の平均から見ても相当多いと思うんです。ですから一番きつかったのは単純な作業量なんです(笑)。ただ、107分という時間軸をいかにコントロールするかが一番大きな仕事でしたので、そこは楽しいところでもありましたし、やりきったと思える作品なんですね。

 

自分で言うのも情けないですが、過去作品を振り返ると時間軸を「把握し切れていなかった」という感覚が強くあるんです。また、それを観ている間の観客の気持ちの変遷みたいなものもシミュレーションし切れなかった。今回はそれをとことんやりきろうと思ったんです。今ならば以前やろうと思っていて力量不足でうまく行かなかったことが、もっとクリアにエンターテイメントにできるという感覚がありました。

 

だからとにかくお客さんの気持ちになって、その107分間を退屈させない時間にできるように、予想外の展開とスピード感をキープしようと思いましたし、それをやり過ぎてお客さんを置いて行かないように、時々映画が立ち止まってお客さんに「ああ、そうだったんだ」と追いついてもらう瞬間もこのへんで準備しないといけないということを、明確に目標設定してやってましたし、音楽の使い方も含めてコントロールし切ったような気持ちはあります。

 

 

 

――そんな自信作『君の名は。』は、作中でもモチーフとして使われる「組紐」の模様のように整然として見事な構成です。ここは作り込んだので観て欲しいという部分などはありますか?

本当にたくさんのスタッフが携わってますので、それぞれのスタッフにたくさんそういう所があると思います。作画監督の安藤さんで言えば芝居を観て欲しいと言うかもしれないし、キャラクターのシルエットを観て欲しいという人もいるだろうし、この作品はそれぞれのこだわりの総体なんですよね。

 

僕に関して言うと、やっぱりそれはもう脚本であり、107分という映画の時間軸そのものです。その107分間で観客の喜怒哀楽の全てを動かして観てもらえるものになっていると思うんですよね。そのためにいろいろ考えて、それこそ組紐のように精緻に組み上げていったので。脚本作りはパズルのようなものですから。

 

 

監督の思惑通り、絶望と希望の間をジェットコースターで走るような喜怒哀楽を感じさせる『君の名は。』。全4回に渡るインタビュー記事の第二弾はキャスト、そして音楽を手がけたRADWIMPSについて伺います!

 

 

【新海誠監督インタビュー(全4回)】

(1)「僕たちは可能性の直前にいる」それを全力で語れるような作品にしたいと思ったんです
(2)RADWIMPS/野田洋次郎さんに脚本をお渡しして3、4ヶ月後に「前前前世」が上がってきたんです
(3)『君の名は。』には、日本のアニメーションの文脈が豊かに含まれている

(4)強烈な「ロマンチック・ラブ」に憧れがあるんだと思います…

■『君の名は。』公開情報

2016年8月26日 全国ロードショー

原作・脚本・監督:新海誠

作画監督:安藤雅司

キャラクターデザイン:田中将賀

音楽:RADWIMPS

声の出演:神木隆之介、上白石萌音、成田凌、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音、長澤まさみ、市原悦子

 

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