樋口監督がゴジラポーズで登場 第71回毎日映画コンクール授賞式レポート

th_DSC02247.jpg

第71回毎日映画コンクールの表彰式が2月15日、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)で開催された。ハリウッドと日本のアカデミー賞授賞式が終わり一通り昨年公開作品に関するお祭りは終了したところだが…Filmersではあらためて毎日映画コンクールの模様をレポートします(4回連載)。

 

毎日映画コンクールは1935年、毎日新聞が東京日日新聞と称していた年「全日本映画コンクール」として開催されており、途中、戦争のため中断を余儀なくされたが今回71回を数える、日本国内では「キネマ旬報ベスト・テン」に次ぐ歴史ある映画賞である。特筆すべきは各部門の多彩さだ。作品、俳優のみならず美術、撮影、録音などスタッフにも賞を贈っている点から、ハリウッドのアカデミー賞にもっとも近いといっていいだろう。過去の受賞歴を観ても、大手配給会社の作品に偏らない映画ファン納得の結果が並び、受賞に信頼と権威を与えている。

th_DSC02262.jpg

写真左から撮影賞「64ロクヨン」齋藤幸一さん、美術賞「シン・ゴジラ」林田裕至さん・佐久嶋依里さん、録音賞「聖の青春」白取貢さん

 

午後2時、表彰式に先立ち行われたオープニングセレモニーでは、各部門の受賞者が会場へ続く大階段の前に設けられたステージに登壇。映画祭ではおなじみのレッドカーペットに代わって「光の廊下」を歩いてステージに向かうという演出だ。廊下横にファンが並ぶなか、アニメーション映画賞、TSUTAYA×Filmarks映画ファン賞を受賞した「君の名は。」から新海誠監督が登場。にこやかに手を振り歓声に答えていた。

 

川崎生まれ、川崎育ちで、川崎が舞台になっている作品でドキュメンタリー映画賞を受賞した「桜の樹の下」田中圭監督は長編作品第一作での受賞。

th_DSC02283.jpg

歴代興行収入の記録を更新する「君の名は。」新海誠監督のあとに登場したことを受けて「ほとんどの方がご覧になっていないと思いますが、川崎生まれのわたしが川崎を舞台にした映画を撮ったので是非、観て下さい」とスピーチ。地元っ子に対してあたたかい拍手とエールが飛んだ。

 

さらにひときわ歓声があがったのが日本映画優秀賞、大藤信郎賞、音楽賞を受賞した「この世界の片隅に」。片渕須直監督、主役の声を務めた女優のんさん(本名:能年玲奈)、コトリンゴさんが揃って登場。

th_DSC02308.jpg

th_DSC02320.jpg

のんさんは「すっごく嬉しいです。作品も監督もコトリンゴさんも…みなさん受賞されていて、ホントに喜ばしくって嬉しくって…おめでとうございます」とコメント。本来は祝福を受けるべき立場なのに、祝福を贈っていることに会場内からは温かな笑いが起き、授賞式前の緊張した空気は一気に和やかなムードになった。

 

そして、毎日映画コンクール作品部門のグランプリにあたる日本映画大賞を受賞した「シン・ゴジラ」からは樋口真嗣監督が、両手のひらを上に向けて脇を締め…ゴジラのマネをして登場。カメラマンの求めに応じてゴジラポーズのまま右を向き、左を向き…旺盛なサービス精神を発揮!

th_DSC02328.jpg

「シン・ゴジラは、川崎の街に大変お世話になりました。お世話になった割には、東京の生け贄(いけにえ)として攻撃目標としたり、(銃弾、ミサイル等を)撃ち込み放題という…恩を仇(あだ)で返すようで大変申し訳ない」と語り笑いを誘っていた。

th_DSC02336.jpg

 

 

表彰式への期待感が高まったところで開場。観客たちも客席について開会を待つ。

th_DSC02415.jpg

15時30分。「佐山雅弘 川崎キネマジャズクインテット」によるオープニング演奏で表彰式の幕が上がる。司会を務める生島ヒロシさんの進行で、主催者挨拶、来賓挨拶へと続く。一般社団法人日本映画製作者連盟会長で、東映株式会社代表取締役グループ会長の岡田裕介さんは・・・

th_DSC02432.jpg

「今回、画期的なことが起こりました。それはシン・ゴジラが受賞したということです。本来、ゴジラのような特撮モノはウチ(東映)のレンジャーや戦隊モノと同様に(映画賞の選考の場では)それはさておいて…とされてきた。それはアニメも同様だった。しかし、もはや観客にとって“実写”“特撮”などの線引きが無くなっている。そういうなかで毎日新聞が先駆けて(特撮、アニメ作品を重要な賞に)選んでくれたことに感謝している」とコメント。

 

その後、各部門の受賞者登場となった。最初の目玉はアニメーション部門だろう。アニメーション映画賞「君の名は。」の新海監督と、大藤信郎賞「この世界の片隅に」の片渕監督が同じステージに並んだのだ。その存在感は、アニメの存在感の大きさを感じさせるのに十分なインパクトであった。

th_DSC02457.jpg

新海監督は作品を代表して登壇「業界の大先輩である片渕監督と並んでステージに上がることができて幸せです。ボクは12年前に“雲のむこう、約束の場所”を作ったときに毎日映画コンクールのアニメーション映画賞をいただきました。あのとき、なぜ自分がこんなに大きな賞をいただけるのか?と思ったが、作品はまだまだだけど、頑張りなさいと背中を押してもらったのかなと思っている。おかげで、自分の進む道を照らしていただき、今回の作品に繋がったと思っています」。

th_DSC02461.jpg

そして、昨年は審査員として毎日映画コンクールに参加していたという片渕監督は「実験的な精神を評価して大藤賞をいただけてうれしい。こうの史代さんの原作も漫画として実験精神に富んだ作品だったので、それをアニメーションで描くときに我々も同じ想いでなくてはいけないと思って制作した。ちなみに、そんな実験精神にあふれたアニメーション作家のみなさんに“この世界の片隅に”の感想を聞いてみたら、口を揃えて…のんちゃんが良かったと言ってました」と笑いでスピーチを〆ていた。
 
th_DSC02471.jpg

また、外国映画ベストワン賞は「ハドソン川の奇跡」、TSUTAYA×Filmerks映画ファン賞外国映画部門は「ズートピア」が受賞。それぞれ配給を務めた日本法人の代表がトロフィーを受け取ったが、クリントイーストウッド監督などが直々にコメントを寄せた。

 

 

「ハドソン川の奇跡」クリント・イースドウッド監督コメント

このたびは「ハドソン川の奇跡」を毎日映画コンクールの外国映画ベストワン賞という名誉ある賞に選んでいただき、心より御礼申し上げます。主演のトム・ハンクス、アーロン・エッカート(編集部注・アーロン・エッカートは副機長を演じている)、そして制作に関わった全てのスタッフを代表してあらためて感謝の意を表したいと思います。役者やスタッフはもちろんのこと、実在のサイレンバーガー機長にとっても大変ありがたいことです。日本において高く評価してもらえたことが嬉しいのと、このような名誉に感謝したいと思います。

th_DSC02489.jpg

「ハドソン川の奇跡」ワーナーブラザーズ ジャパン合同会社 社長兼日本代表 高橋雅美さんがクリント・イーストウッド監督のコメントを代読

 

th_DSC02500.jpg

「ズートピア」の監督やプロデューサーなど3名のフィルムメーカーから届いたコメントを代読するウォルト・ディズニー・ジャパン 井原多美さん

 

「ズートピア」監督、製作責任者からのコメント

アリガト!(コメントが書かれたカード英語ではなくARIGATOと書かれていた)。毎日映画コンクールと、本年の外国映画部門に投票してくださった全てのズートピアファンに感謝申し上げます。ズートピアという街に命を吹き込むために、多大なる努力を注ぎ込んでくれたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのアーティストたちを代表して光栄なるこの賞をお受けしたいと思います。最後に、この映画をたくさんの映画ファンに届けてくれたディズニー・ジャパン・チームのみなさんにもありがとうと伝えたいです。

th_DSC02502.jpg

コメントが書かれたカードにはズートピアのキャラクターがプリントされている。細かな演出はさすがディズニー!

 

【第71回毎日映画コンクール授賞式レポート(全4回)】
(1)樋口監督がゴジラポーズで登場
(2)タレント名鑑、ウィキにも載っていない無名俳優が新人賞
(3)香川照之さんは「早く役者を辞めなさい!」と言われていた!?
(4)「人は笑えることがあれば、明日が見える」のん感動の受賞コメント

Related Post

コンペティション

2017.03.20Mon

「人は笑えることがあれば、明日が見える」のんさん感動の受賞コメント 毎日映画コンクール受賞式レポート

第71回毎日映画コンクールの表彰式レポート第4弾・最終回。   このコンクールの準グランプリにあたる「日本映画優秀賞」は「この世界の片隅に」が受賞。作品を代表して片渕須直監督と 主人公・北条すずの声を演じた のんさん(本名...
コンペティション

2017.03.16Thu

香川照之さんは「早く役者を辞めなさい!」と言われていた!? 毎日映画コンクールレポート第3弾

女優助演賞は「シン・ゴジラ」で環境省の役人・尾頭ヒロミを演じ話題となった市川実日子(いちかわ・みかこ)さんが受賞。野生生物課・職員として未知の生物「ゴジラ」の生態を冷静に分析、大臣など上役に気づかうことなく、人の目を見ずただ自分の信じる...
コンペティション

2017.03.14Tue

タレント名鑑、ウィキにも載っていない無名俳優が新人賞 毎日映画コンクール授賞式レポート第2弾

第71回毎日映画コンクールの表彰式レポート第2弾。   特別賞は、「白組」代表取締役社長・島村達雄さん。「シン・ゴジラ」のCG制作などアニメや実写映像のビジュアル・エフェクツ分野で技術革新を牽引してきた実績、「ALWAYS...
コラム

2017.03.03Fri

第40回日本アカデミー賞 受賞予想!

第40回日本アカデミー賞 授賞式が3日(金)開催される。大手配給会社が持ち回りで受賞しているのではないかとの批判の声も聞かれるが、昨年は「百円の恋」が主演女優賞(安藤サクラ)、脚本賞(足立紳)に輝いており、最優秀賞の受賞予測は難しくなっ...