タレント名鑑、ウィキにも載っていない無名俳優が新人賞 毎日映画コンクール授賞式レポート第2弾

第71回毎日映画コンクールの表彰式レポート第2弾。

 

特別賞は、「白組」代表取締役社長・島村達雄さん。「シン・ゴジラ」のCG制作などアニメや実写映像のビジュアル・エフェクツ分野で技術革新を牽引してきた実績、「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」の監督として知られる山崎貴さんを輩出するなど後継者の育成にも寄与したことが評価されての受賞となった。

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島村さんは創業当時からこれまでの歴史を振り返り「(わが社は)実写の中にアニメーションのキャラクターを合成する技術を開発した際の先駆者だったと思います。その後、デジタルの世界がはじまってモーションコントロールのコンピューター制御の施術を開発するなど…さまざまな日本初を手がけました! …あれ、これ全部話すと長くなっちゃうな(笑)」と笑いを誘いながら、熱い想いをマイクにぶつけていた。まさに、日本映画の映像技術の発展とともに歩んで来たキャリアを体現する存在感だった。

 

 

脚本賞は「聖の青春」を手がけた向井康介さん。

th_DSC02523.jpg向井さんのコメント

「あまり、こういう映画賞とは縁遠い生活をしてきたので…40歳になった私にこういった賞をいただけて励みになります。あと10年、20年…現役でどれだけ書けるか分かりませんが、目の前の1作、1作を大事に取り組んでいけたらなと思っています」。

 

 

監督賞は「永い言い訳」の西川美和監督。「妻が死んだ。これっぽっちも泣けなかった」という衝撃的な宣伝コピーも話題となった同作。映画の脚本を手がける前に、発表された小説は直木賞候補作にもなった。確かな世界観に裏打ちされ、さぞや撮影現場はスムーズに進んだのかと思いきや、なかなか大変な現場だったようで…

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「子どもをきちんと演出したのはこの作品が初めてでした。師匠が是枝(裕和)監督なので、子どもの演出をちゃんとやらないと叱られると思って臨んだんですが、うまくいかないことが多かったです。機嫌が悪くなるし、途中で帰りたいと言い出すし、セットを壊されるし(笑)。そうした現場を通して、自分がいかに力のない演出家かと身を以て感じました。これまでの作品で上手い俳優さんとご一緒していたので、たぶん(俳優さんに)90点を出してもらって、自分は監督として残りの10点をケアしただけなんだと思います。現場でどうしますか? と聞かれて答えられなかった初めての現場でした。そんななか、みなさんの力を借りてできた作品だと思います」。

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このコメントのあと司会の生島ヒロシさんとの会話のなかで2003年「蛇イチゴ」で毎日映画コンクールの脚本賞を受賞した際に副賞として贈られた時計をしてきたという西川監督。「いただいた時にはピンと来ないものですが…こういった賞をいただいたことは、つまづいた時などに自分の励みになったりする。また今回の受賞も励みにやっていきたいと思います」。

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「蛇イチゴ」は西川監督の監督デビュー作である。キャリアのない存在であっても、作品が優れていればそれを評価する、同コンクールの姿勢を垣間みたエピソードであった。

 

 

つづいて俳優部門各賞の発表。まずは「スポニチグランプリ新人賞」。受賞したのは「セトウツミ」に出演した中条あやみさんと、「ケンとカズ」の毎熊克哉(まいぐま・かつや)さん。

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中条さんはNTTドコモdポイント・dカード、ハーゲンダッツのCMに出演するなど、その姿を観た方も多いはず。新人として注目度、キャリアは十分の彼女だが、女優としての演技が認められたことに深い感慨があったようで…。

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「今月二十歳になったんですが…お父さんとお母さんに“ありがとう”とこの場を借りて言わせてください。この『セトウツミ』は、じつはわたしの地元・大阪で撮影があったんですが…毎朝、実家から撮影現場まで通っていて…(*ここで、言葉を詰まらせ涙ぐむ)…すごくあの…キャストの方々、大森(立嗣)監督、スタッフのみなさんのおかげで、ここに立たせてもらっていると思います。こんなステキな賞を初めての演技で取らせてくださり、光栄に思います」。

 

 

 

受賞作「ケンとカズ」では、覚せい剤の密売に手を染めるヤンキー役を演じていたのだが、登壇した毎熊さんは別人かと思うほど、穏やかでさわやかな好青年。そして、受賞のコメントがまた、印象的で感動させるスピーチだった。

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「この映画は学生時代からの親友である小路紘史(監督)と、短編の制作から始まった志の高い、でも、ホントに小さな自主映画です。お金は無いけど、時間はたくさんあって。納得いくまで何回も撮って。ある意味、贅沢な時間を使った、約50日間の撮影でした。みんなバイトが出来なくなって、財布がどんどんスカスカになって寂しくなって…そんな想いをして、毎日撮影現場に行ったことを思い出します。そんな日々をともに乗り越えた才能ある仲間たちの熱い想いと、この作品を支えてくださった多くの方々のおかげで、この映画が完成しました。

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これまで何度も、この仕事を辞めようかと考えては、なんとか歯を食いしばってやってきたんですが…きょう、こんなに眩しくて華やかな場所に立つことができて、役者を諦めずに続けてきて良かったなと思います。これまで切磋琢磨して来た、まだ名もない才能ある役者仲間たち、その他にもたくさん良い俳優がいるなかで…タレント名鑑にもウィキペディアにもボク載っていないんですけど(*ここで会場から笑いが起きる)そんなよく分からない男に、こんな栄誉ある素晴らしい賞を与えてくださって、ホントにありがとうございます。これかも…よろしくお願いします」。

 

2人の初々しい受賞コメントを聞いていると、先ほどの西川監督のように10年後、どのような活躍をしているのか、いまから楽しみだ。

 

【第71回毎日映画コンクール授賞式レポート(全4回)】
(1)樋口監督がゴジラポーズで登場
(2)タレント名鑑、ウィキにも載っていない無名俳優が新人賞
(3)香川照之さんは「早く役者を辞めなさい!」と言われていた!?
(4)「人は笑えることがあれば、明日が見える」のん感動の受賞コメント

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