撮影監督に外国人を起用した理由 『愚行録』監督インタビュー
前回のインタビューでは、多面性のあるキャラクター作りへのこだわりを話してくれた監督。もうひとつ大きなこだわりを持って仕上げたのが、ドライで美しい映像です。撮影監督には、ポーランド国立映画大学で同時期に学んだピオトル・ニエミイスキを起用し、さらにグレーディング(色調補正などの仕上げ)もポーランドで行っています。その意図とは?
■脚本段階でいちばん気に入ってくれたのは彼かもしれない
――美しくてドライな映像が印象的です。石川監督はポーランド国立映画大学で演出を学ばれています、撮影監督のピオトル・ニエミイスキさんも同じ学校ですか?
同じ学年ではありませんが、ちょうど同じ時期に学校にいて、その仲間の中でも彼は比較的早く長編デビューしたんです。クシシュトフ・ザヌッシという有名な映画監督の撮影もしていて、そういう意味ではスターカメラマンということになるでしょうか。
――彼にオファーした経緯は?
彼が撮る画に関しては、来てくれればすごく新しいものが作品に注ぎ込めると思い、こちらからお願いしました。でも最初、ちょっと迷ったんですよ。『愚行録』はけっこうドメスティックで、日本の閉じた世界の話だったので、どうかなと。
映画としては違うところにボールを投げることを目指してはいましたが、彼に理解できるかは確信が持てなかったので。そんな迷いもありつつ本を送ったのですが、全然問題はなかったんですよね。「ここで起こっていることのひとつひとつは、心情的にはすべて理解できる」と言っていて、もしかしたら脚本段階でいちばん気に入ってくれたのは、彼なのかもしれないっていうぐらいで。それはすごく大きな発見でした。
■原作の独特な質感を際立たせるため、違う視点からの画が必要だった
――人間関係の歪みや嫉妬、見えない駆け引きなど、内容は人間のドロドロした内面を突きつけられる重たさがありますが、ピオトル氏による美しい映像は救いになりました。
ポーランドから彼を呼びたいなと思ったのは、それもあるんですよね。『愚行録』をやるにあたって僕がワガママを言わせてもらったのは、脚本を向井康介さんにお願いしたいことと、カメラマンをポーランドから呼ばせてもらいたいという2つでした。というのも、僕が「愚行録」を活字で読んだ印象は・・・
どこか日常からは浮いているというか、さっき爬虫類の肌のような独特な質感と言いましたが、活字で本に描かれたイメージは「すごく生」ってわけじゃない。内容はドロドロしていますけど、映像で見るドロドロとか生々しさとは全く異質の感覚なんだろうなと思っていて。それをもし邦画の質感の画で撮っちゃった場合、たぶんすごくリアルで生々しいものは撮れると思うんですけど、それがこの『愚行録』の読後感と逆に離れちゃうんじゃないかと思ったんです。
――内容を日本の空気感そのままにリアルに映像化すると、逆効果になることを懸念されたのですね…。
なので、それとはちょっと離れたところから、カラッとした違う視点からの画を持ってくれば、逆にもっとストーリーに集中して観られるんじゃないかと。例えば、ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』(ソフィア・コッポラ監督/2003年)とかも…
普段見ている新宿とかがなぜか全然違って見えるじゃないですか。ああいう“ちょっと離れた感じ”っていうのが、僕が「愚行録」を活字で読んだときの距離感にすごく近いものになる気がしたんですよね。
【『愚行録』石川慶 監督インタビュー(全4回)】
(1)爬虫類の肌のような独特の質感『愚行録』石川監督インタビュー
(2)撮影監督に外国人を起用した理由 『愚行録』監督インタビュー
(3)記者のリアルを習得!妻夫木 聡さんの役作り
(4)満島ひかりが作り上げた「光子」像は救いになった
『愚行録』公開情報
2017年2月18日(土)全国公開
原作:貫井徳郎「愚行録」(創元推理文庫刊)
監督・編集:石川 慶
出演:妻夫木 聡 満島ひかり 小出恵介 臼田あさ美 市川由衣 松本若菜 中村倫也 眞島秀和 濱田マリ 平田満 他
公式HP:http://gukoroku.jp/