満島ひかりが作り上げた「光子」像は救いになった
妻夫木聡さん演じる週刊誌記者の取材によって口を開く証言者たち。その証言によって過去と現在を行き来しながら、事件はだんだんとその全貌を現していく!人と人の間に生まれる羨望や嫉妬、そしてそれが引き起こす悲劇――。いったい誰が加害者で誰が被害者なのか? 『愚行録』は秀逸なミステリーでありながら、そのストーリーには社会問題も深く絡み、人間の愚行とは何かを突きつけられるような作品に仕上がっています。
石川監督へのインタビュー最終回は、前回に引き続き、妻夫木さんの妹役を演じた満島ひかりさんについてのお話をご紹介。監督曰く「満島さんが作ってくれたキャラクターに救われた」その真意とは?
■満島ひかりが作り上げた「光子」像は救いになった
――この作品には、社会的な問題もたくさん含まれています。例えばネグレクト(育児放棄)など、本人の善悪に関わらず負のループから逃れられないというケースもあります。そういった社会問題にはこれまで興味はあったのですか?
興味はあるにはあったのですが、なるべく踏み入れたくないテーマではあったんですよね。本当に、リサーチをすればするほど気分が重くなってしまいますし…。今回も本をたくさん読んだのですが、知れば知るほど「やっぱりそうだよね」って思うところもあって。また、リサーチをすればするほど、なかなか中立の気持ちではいられなくなっちゃうところもあって。かつ、これはダメな親だからと上から殴りつけるような立ち位置にも行きたくなくて。
――確かにこの作品は、単純に善と悪を判断できるような内容ではありません。そして安易に答えを出さないところが、面白みにもなっています。
そういう意味では今回、満島さんもこの光子という役には「あまり同情したくない」って言っていましたが、満島さんが作ってくれた「光子」像がすごく救いになった気がしますね。
――資料にも「かわいそうだと思ってしまうとよくない」と思いながら演じたとありました。
光子に同情をするわけでもなく、でもやはり満島さんが作ったのは「ひとりの強い女の人」なんですよね。萎縮ばかりしているようなキャラクターだと、どう扱っていいか分からなくなりますが、満島さんはそこで、1つの個としてのキャラクターにしていってくれました。そういう意味で僕は、あの光子というキャラクター自体は、満島さんと作ったひとつのメタファーだと思っています。
■愚行は身の回りのどこにでもあるもの
――では最後に、これから観る方にひとことお願いします!
食わず嫌いはしないで欲しいというのは、ちょっとあるかな。(社会問題を取扱いつつも)重たいだけの作りで終わっているわけではないし、そんなに特別な人の映画を作ったつもりはないんです。こういう“愚行”って、じつは身の回りのどこにでもあるものです。「これは自分には関係ないよ」って言ってもいいんですけど、でも日本で生きている以上、この愚行の輪の中にいますよねっていうのが、僕の中にはあるんですよね。まずフラットなかたちで観ていただけるとすごく嬉しいですね。
【『愚行録』石川慶 監督インタビュー(全4回)】
(1)爬虫類の肌のような独特の質感『愚行録』石川監督インタビュー
(2)撮影監督に外国人を起用した理由 『愚行録』監督インタビュー
(3)記者のリアルを習得!妻夫木 聡さんの役作り
(4)満島ひかりが作り上げた「光子」像は救いになった
『愚行録』公開情報
2017年2月18日(土)全国公開
原作:貫井徳郎「愚行録」(創元推理文庫刊)
監督・編集:石川 慶
出演:妻夫木 聡 満島ひかり 小出恵介 臼田あさ美 市川由衣 松本若菜 中村倫也 眞島秀和 濱田マリ 平田満 他
公式HP:http://gukoroku.jp/