男性同士ではやらない体位を通して監督が伝えたかった感情とは?『無伴奏』俳優 池松壮亮さん

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作家 小池真理子の半自叙伝的小説を原作にして、成海璃子、斎藤工といった実力派の若手俳優陣をそろえ、1970年代を舞台に激動の学園紛争時代を生き生きと描いた本作。Filmersでは主演俳優のひとり池松壮亮さんへのインタビューを行い原作について…撮影現場でのエピソードについて語っていただきました。第三弾の今回は…池松さんの役づくり、役への想いについてお話を伺いました。

 

 

■役作りで大切にしたのは渉の「危うさ」

――矢崎さんの映画って、「死生観」みたいなものにきっちりと光を当てて考えさせるっていうのが多いと思うんですが、今まで死生観についてガッツリ考えたことはあります?

いやー、ないですねえ。各駅止まりの駅ですごい考え事をしてる時に、急行電車が猛スピードで目の前を行った時にふわっと、こう…(笑)。そういう経験はみんなあるでしょうけど、ガッツリっていうのはなかなか…。それこそ何か映画を観てとかしかないですね。

 

 

――でも今回は見ている人にそれを考えさせるっていう演技が求められたわけじゃないですか。けっこう自分を追い込んでいく感じでしたか?

うん、なんかこう「今すぐにでも壊れそうな空気」みたいなものは絶対必要だなと思って。押したら倒れてしまうんじゃないかみたいな「危うさ」というのが、色んな物に表れてそれが色んな所に最終的に行き着けば…。例えば、男が好きっていうのを隠してたんだとか。それはありましたね、危うさっていうのが。

 

 

――今でこそ同性愛をカミングアウトする人も増えてきましたが、時代的な事も影響しているかもしれませんが、祐之介(斎藤工)との二人の関係をひた隠しにするところは理解できますか?

うーん…、理解したつもりではいましたけどね。やっぱり、響子(成海璃子)はもっと広いところで生きてるんですけど、あの二人っていうのはもっとちっちゃな世界で生きてて。茶室と喫茶店を行き来してて、この世界しかないんですよね、二人には。そんな中でこう、好きになってしまった時に…。

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――逃げ場をなくしていく感じはありましたよね。

ホントに狭いですよね。でもそれは言い換えればね、色んな所に当てはまる気がして。ある意味こう時代のせいでもあったんじゃないかなあとは思いますけど。

 

 

――自分たちからそういうと世界に入って行ってる感じもありましたよね。

あんまり(背景には)触れられてないですけど、渉(池松壮亮)が深刻な家庭であったり、祐之介もいろいろあったりで、自分を掴みとろうとするとそこに行き着くしかなくなった人たち。時代と逆行してしまう人たちの話ですから。

 

 

――茶室の「にじり口」から入るというのも意味深ですね。

現世と別れるっていいますもんね。

 

 

 

■矛盾しているからこそ、苦しんでいくのが人間

――そこであった二人のラブシーンがすごくキレイだなと思っちゃって。ご覧になってどう思われましたか?

別に自分のカラダを見てキレイだなとは思わないけど(笑)。インパクトあるなとは思いましたね。それが良い悪いってことじゃなく、普段見ないことじゃないですか、男の人と男の人が抱き合ってる姿って。インパクトはありますよね。

 

 

――最初、響子と渉の間にはちゃんと愛みたいなものが存在してたけど、祐之介との間には依存だと思っていました。でも、あの映像を見るとやっぱり愛があったんだなと。

だからどっちも本当になればいいなと思ってましたよね。隠したいのも本当だし、好きなのも本当だし、もちろん響子が好きなのも本当だし。それがいろいろ矛盾してるからこそ苦しんでいくわけで。

 

 

――人間って辻褄が合わないものだなと感じさせられました。

はい、絶対そうですね。

 

 

――あの二人のカットは監督からはディレクションがあったと思うんですけど、斎藤工さんとは何か話し合いながら作りましたか?

いや、そんな感じではなかったんですけど、ひとつ表現として面白かったのは、ああいう体位って男性同士ではそもそもないらしいんですよ。原作では、要は「バック」なんですよね。でも、矢崎さんはそこをどうしてもああしたかったらしくて。

 

 

――確かにそうかも。あの形だから感情がほとばしってたというか。

ちゃんとこう「面」と「面」でね。

 

 

■ワンカットでも外したら辻褄が合わなくなる…

――矢崎監督は「僕は演出しないんだ」とおっしゃっていらしたとか?

ああ、よく言いますね。

 

 

――役のことについて話し合ったりはされましたか?

その都度、その都度、したつもりではいます。ただ、その「演出をしない」というのは「僕は答えを出さないよ」という演出なわけです。圧倒的に背負わなきゃいけない部分は多かったし、またそれが楽しかったし。今回はあまりにも逆算が必要だったというか…。ワンシーンでも、ワンカットでも外したらこのあと辻褄が合わなくなるんじゃないかと思って、ちゃんと逆算してやったつもりではいますね。

 

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――「逆算」というのはつまり…?

あの時はあんなことを思ってたんじゃないかとか、それが最終的に全部つながって欲しかったというか。それがたぶん矢崎さんと『無伴奏』というものに感じたズレで、そこをうまくつなげられればと。そこから映像的に矢崎さんがどれだけ破壊してっても、ちゃんと立ってる理由が分かるようにはしたいなと思ってましたね。

 

 

――完璧な渉になるっていう感じで。

矢崎さんの映画って、スッと立ってるだけで映画になるんですけど、でもそれだったら『無伴奏』じゃなくてもいい気がして。もうちょい踏み込んだところでやりたくて。

 

 

――じゃあ細かいところまで気をつけて演じた?

それが正しかったかどうかは分かんないけど、今回はちょっとそういうことをやってみました。

 

 

(1/4)『無伴奏』俳優 池松壮亮さん いまの子たちと重なる時代観がある

(2/4)『無伴奏』俳優 池松壮亮さん 撮影が苦しい時期がありました

(3/4)『無伴奏』俳優 池松壮亮さん 男性同士ではやらない体位を通して監督が伝えたかった感情とは?

(4/4)『無伴奏』俳優 池松壮亮さん(近日配信)

 

 

■『無伴奏』公開情報

2016年3月26日(土)公開

監督:矢崎仁司

原作:小池真理子『無伴奏』(新潮文庫刊、集英社文庫刊)

出演:成海璃子、池松壮亮、斎藤工、遠藤新菜、松本若菜、酒井波湖、仁村紗和、斉藤とも子、藤田朋子、光石研

公式サイト:http://mubanso.com/

 

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