いま子たちと重なる時代観がある『無伴奏』俳優 池松壮亮さん

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『無伴奏』は、反戦運動や全共闘など学生運動が盛んだった1970年前後を舞台に、多感な男女の恋を繊細に描いた作家 小池真理子の半自叙伝的小説が原作。池松壮亮さんをはじめ、成海璃子さん、斎藤工さんなど豪華俳優陣をそろえ、激動の学園紛争時代を生き生きと描いています。

―――かりそめの反逆心に自己嫌悪する主人公・響子(成海璃子)はある日、親友に連れられて行ったバロック喫茶「無伴奏」で、どこか影のある大学生・渉(池松壮亮)、渉の親友でニヒルな祐之介(斎藤工)とその恋人・エマ(遠藤新菜)に出会う。いつしか渉に惹かれていく響子だが、ある日、衝撃的な事件が起こる―――。

公開初日を迎えた本日は…『紙の月』『愛の渦』などで2014年度の映画賞を総なめにした…渉役を演じた池松壮亮さんへのインタビュー第一弾を配信! 2016年のいま、学生運動が盛んだった時代を描く意味を池松さんは、どのように考えているのでしょうか?

 

 

■社会から外れている意識はいまの子たちも感じている

――原作は映画に入る前に読まれたんですか?

はい、読みました。

 

 

――読んでまずはどう思われましたか?

この規模でこの映画をやるのかと思いました(笑)。ホントにすごいことだなと。でもその心意気はいいなと思いましたね。

 

 

――池松さんにとって60年、70年代の学園紛争などはリアリティがないと思います。あの時代をどう感じて、どのように役作りに活かしたのでしょうか?

もはや歴史なんですよね。ただ、若者が立ち上がって戦ったということにはすごく興味があって。でも今回はそこから外れた人たちの話なので…。そういう社会から外れている意識みたいなものはたぶん今の子達もみんな感じていると思うし、そういった感覚で演じてみようかなと思ったところはあります」

 

 

――と言うのは?

どこかで「それぞれの革命」が起こっているというか…、社会云々より自分のことっていう風潮があるわけじゃないですか。そういうところで、今これを若い子たちに見せるっていう意味はあるんじゃないかなと思いました。

 

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――池松さんも「革命」に関連した本を読んだりしたことはありますか?

あります。それになんかこう、若い頃の方が「何かひっくり返したい」って気持ちはみんな持ってますからね。

 

 

――学園紛争が盛んだった頃の空気は、原作を読んで少し身近になった感じですか?

いやいや、変わんないですよ、それは。昔から事あるごとに聞いてきたので、身近っちゃあ身近ですし…。ただ、決して見たことがない、触れたことがないっていうだけの。

 

 

――ヒリヒリした空気が流れてましたよね。

だから何かそこにひとつ入れるとしたら、「自分たちが何かをチョイスしてったんだ」ということが、この映画をやる上でいいスパイスになるんじゃないかと思って。これは逃げてるんじゃなくて、自分たちが自分の人生をそれぞれ掴み取りに行ったんだというところが、ちゃんと出ればなと。そうすれば今と通ずるものができるんじゃないかと思いましたね。

 

 

――確かにそれは感じました。最初は登場人物の煮え切らない感じにイライラするぐらいだったのですが、でもだんだん見ていくうちに、それぞれが決着をつけていくところが、ハッピーエンドじゃないけれど見た後にすっきりする映画でした。

そうなんですよね。ハッピーエンドじゃないですからね、まったく。でも割とスッキリはしますよね。

 

 

 

■自分の中のメンタルゲイな部分を拡げて役づくり

――池松さんが演じた渉ってすごくナイーブで、触れたら壊れそうなガラスのような青年だと感じたのですが、その役作りで気をつけたこととか、ここを出そうと気をつけたキーワードみたいなものはありますか?

やっぱり、渉が最後にとった行動と、男が好きだったっていうカミングアウトと、「常にこの場にいないような感じがする」っていうのを…。その3つをどう捕まえるかでキャラクターができてくると思いました。本当に弱いな、脆いなと最初は思ってましたけど、それをどうやるかっていうのはすごい大事だなあと。

 

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――自分の中にも共通点はありますか?

あると思いますね。自分じゃ理解できない範疇は普段やらないことにしてるんですよ。でも、もうホントにある「一瞬」を捕まえてそこを引っ張りだしたら、意外と。まあ、役者ってそういうもんだと思うんで。

 

 

――自分の中にある何か共通項を抽出して拡げていくってことですか?

僕の中のメンタルゲイな部分を(笑)

 

 

――でも渉が醸し出している雰囲気とバッチリ合ってましたよね。またはまり役だと思いました。

全然はまり役とは思ってないです(笑)。まあでも、リアリティは欲しいので。知らない時代に生きてた人でも、ちゃんと物語の中に収まりたいというのは毎回あるので。ただ、収まってたかどうかはまだ自分でも…(笑)。

 

(1/4)『無伴奏』俳優 池松壮亮さん いまの子たちと重なる時代観がある

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(4/4)『無伴奏』俳優 池松壮亮さん(近日配信)

 

■『無伴奏』公開情報

2016年3月26日(土)公開

監督:矢崎仁司

原作:小池真理子『無伴奏』(新潮文庫刊、集英社文庫刊)

出演:成海璃子、池松壮亮、斎藤工、遠藤新菜、松本若菜、酒井波湖、仁村紗和、斉藤とも子、藤田朋子、光石研

公式サイト:http://mubanso.com/

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