祝・テディ賞審査員特別賞受賞作「彼らが本気で編むときは、」から学ぶセクシュアル・マイノリティの一歩先にある問題

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第67回ベルリン国際映画祭で上映されるなかからLGBTをテーマにした作品を対象に選出される「テディ賞」で審査員特別賞に輝いた「彼らが本気で編むときは、」。監督の荻上直子さんは受賞を受けてコメントを発表した。「非常に嬉しいです。トランスジェンダーの人が悩んでいるだけの映画は作るつもりは無くて、女性として普通に恋愛をし、仕事をし、生活を営んでいる普通の女性を描きたかったんです。今まで持っていた「普通」の概念を見直すきっかけになれれば嬉しいです。」(出典:「彼らが本気で編むときは、」公式HP)。

 

トランスジェンダーの女性リンコと、恋人のマキオ、その姪である小学生のトモ。トモの母が家出してしまったことにより、三人の奇妙な共同生活が始まる同作。この三人の人間関係には、思いもよらない家族の形が提案されます。荻上監督が作り上げたこのキャラクターたちには、どんな意味が込められているのでしょうか? お話を伺いました。

 

 

■アメリカには、ゲイやレズビアンの存在を自然に受け入れられる環境がある

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――障害やセクシュアル・マイノリティに対する差別に気付くタイミングは人それぞれで、例えば自分が子供を持つタイミングで、初めてそれを自分の問題として意識する人は多いのではないでしょうか。荻上さんにとって、それに気づくきっかけなどはありましたか?

10代の頃にアメリカに行った時に、レズビアンカップルが手をつないで歩いていた時はとてもびっくりしました。その頃はアメリカでもまだオープンではなかったと思いますが、「こういう国なんだ!」と思って。

 

その後20代で留学した時にはもう、そこら中にゲイとかレズビアンの子がたくさんいて(笑)。私が困っている時にいちばん優しく声をかけてくれたのも、そんな子でしたし。その時はもう驚きはなく、すんなりと入ってきていましたね。それからずっと続いているお友達もいるし、彼らを通して他の国のゲイカップルの状況を知ったりしていって。あと、その人たちの甥っ子や姪っ子が一緒に育っているのを見ると、その子供たちにも壁がないんですよね。最初からそういう人がいる環境にいると、壁もないし、人として信頼しあえる状況ってちゃんと作れるんだなと思って。

 

――ということは、理解したり腑に落ちたりする過程は、何かきっかけがあったというよりも、日常的な友人関係や出会いが積み重なったこと?

うーん、「理解」とか「腑に落ちる」とかいった大げさなことでもなく、もっと自然に入ってきていましたね。最初に見かけたその衝撃があって、アメリカにはそういう人がいると分かっていたからかもしれないし、20代の時には普通のこととしてすんなり受け入れられていましたね。

 

 

■アメリカではゲイカップルも養子を迎えたり、家族として成り立っている

 

――今回、小学生の2人を登場させたことで、彼らに感情移入するだけでなく、彼らの素直な目線で社会を見ることができるように思います。脚本を描かれる中で、この子供たち2人を登場させた意図を教えてください。

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トランスジェンダーの女性を扱うにあたって、トランスジェンダーであることに悩んでいるような当たり前の映画にはしたくなかったんです。トランスジェンダーである事はもう彼女の中ではクリアになっていて、それよりもう一歩先に行って、問題にしたいことがあったんです。

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――先程も、トランスジェンダーに悩むばかりの映画にはしたくないとおっしゃっていましたね。その“もう一歩先”にある問題とは?

アメリカではゲイカップルが養子を迎えていたり、ちゃんと家族として成り立っていたりします。それが日本では程遠いことだと思ったんですね。まずそのトランスジェンダーやセクシュアル・マイノリティを理解することが、まだまだできていない状態で。その人たちが養子をもらうなんてすごく程遠いことなんですよね。

 

それが頭にあり、トランスジェンダーの人たちの話というよりも、もっと先に行って、親子の関係みたいなものを表してみたかったんです。むしろ娘であるトモとお母さんの関係とか、母親になりたいリンコさんと、母親であることを放棄したようなお母さんとの関係とか。リンコさんがトモの母になりたいと思う気持ちとかですね。母親と子供のいろいろな関係性を描きたかったんです。

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――トランスジェンダーでも築くことができる家族の人間関係を描くために、この登場人物が設定されたんですね。今回の作品は、今まで以上に観客の幅を広げるものになると思います。では最後に、読者に一言メッセージをいただけますか?

例えば予告編で生田さんを見ると、最初「えっ!?」と違和感があると思うのですが、映画を見ていくとどんどん可愛く見えてくると思うんです。それを体験してほしいですね(笑)。

 

★予告編は公式HPからご覧ください★

『彼らが本気で編むときは、』荻上直子 監督インタビュー(全4回)】
(1)癒してなるものか!『彼らが本気で編むときは、』荻上直子監督インタビュー
(2)生田斗真さんを起用した理由『彼らが本気で編むときは、』
(3)「お腹を空かせてきました!」桐谷健太さんも楽しみにしていた食事シーン
(4)祝・テディ賞審査員特別賞受賞作「彼らが本気で編むときは、」から学ぶセクシュアル・マイノリティの一歩先にある問題

 

『彼らが本気で編むときは、』公開情報

2017年2月25日(土)全国ロードショー

脚本・監督:荻上直子

出演:生田斗真 柿原りんか ミムラ 小池栄子 門脇麦 柏原収史 込江海翔 りりィ 田中美佐子/桐谷健太

公式HP:http://kareamu.com/

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