癒してなるものか!『彼らが本気で編むときは、』荻上直子監督インタビュー
『かもめ食堂』『めがね』など、独特の世界観・空気感で女性を中心にファンの多い荻上直子監督、待望の最新作『彼らが本気で編むときは、』が2月25日(土)全国ロードショーされる。
生田斗真さん演じるトランスジェンダーの女性が主人公の本作。取材した話をもとにストーリーを作ったのは今回が初めてという荻上監督。この題材を選んだ背景には、ご自身の実体験から感じた違和感があったそうで・・・。
■「癒やしてなるものか!」という意気込みで臨んだ「荻上直子、第二章」
――今回の作品はファン層を広げそうな作品で、「荻上直子、第二章」とおっしゃっていますが、撮り終えてその手ごたえはどうですか?
5年ぶりに撮るということもあって、スタッフ全員にも「今回は“攻め”の姿勢を貫きます」といった宣言もしましたし、そのつもりで一緒に作ってくださいと伝えました。助監督さんといちばん最初に話した時も、「今回は癒してなるものか!」ということが、ついつい口から出てしまいましたね(笑)。
――(笑)
私の映画は図らずも“癒し系”、“スロームービー”と言われていまして…。一度、映画祭に招かれた時、「日本一ユル~い映画を作る監督」と紹介されて、さすがに違和感を覚えましたけど(笑)。
そんなこともあって「そんな“ユル~い”ものなど作るものか!」とすごく意気込んで作った作品です。その“攻める”気持ちは映像に出たかなと思っていて、そういう意味では満足しています。
■セクシュアル・マイノリティに悩んで悩んでということを描くつもりはない
――そんな攻める気持ちで作った5年ぶりの映画に、この題材を選んだ理由は何ですか?
5年の間に出産をしたり、アメリカで1年間暮らしたりしていました。その間に何度も映画を作りたいと思うことはあり、脚本を書くんですけど、なかなかうまく成立せず悶々とした時期もあったんです。その時に気づいたのですが、その脚本の中には何らかの形でセクシュアル・マイノリティの人たちが出てきていて、自分は今それを意識しているんだなと。
アメリカでは日常的にレズビアンやゲイの人たちと会うのに、日本に帰ってくると、途端にセクシュアル・マイノリティの人たちに会う機会が減ることにも、不自然さを覚えていましたし、そのことがずっと頭にあったんです。そういう時期に新聞で、トランスジェンダーの息子のために「ニセ乳」を作ってあげたお母さんがいるという記事を読んで、取材に行ったんです。
これまで私はフィクションを作ってきたのですが、今回初めて、取材で聞いたお話を参考にストーリーを作りました。
――取材は「ニセ乳」を作ったお母さん以外にも行かれたのですか?
いえ、そのお母さんだけです。その新聞記事を書いた方から最初に聞いたのは、「このお母さんはすごくスペシャルだよ」ということ。その記者の方はすごくたくさんの方を取材しているんですが、そういう子供を持って理解できなくて悩む人が多い中で、そのお母さんだけがすごく特別だったと。
映画の中でも、悩んで、悩んで…ということを描くつもりはなかったですし。私にとっては、そのお母さんに(映画のテーマ的にも)すごく共感できたので、それ以外の人の話を聞くつもりはなかったんです。その娘さんにお会いしたのも、脚本を書いた後ですね。
――お母さんにしか会わなかった理由は?
私にとっていちばん大事だったのは、お母さんの立場からのお話だったんです。だから、娘さんに会っちゃって影響されるのは避けたかったんですよね。私がこれから作り上げるキャラクターは、私が思い描いている姿のままでいいんだという思いもあって。
トランスジェンダーにもいろんな人がいて、すごく“オネエ言葉”を使う人もいれば、本当に女性になる人もいるし、もっとキラキラどころかギラギラしている人もいるし、全然違うんですよ。普通の女性も男性もみんな違うものですから、それは同じですよね。ただ、私の作るキャラクターによって当事者が嫌な思いをしたり、傷付けないように気をつけなきゃいけないなとは思っていましたね。
★予告編は公式HPからご覧ください★
【『彼らが本気で編むときは、』荻上直子 監督インタビュー(全4回)】
(1)癒してなるものか!『彼らが本気で編むときは、』荻上直子監督インタビュー
(2)生田斗真さんを起用した理由『彼らが本気で編むときは、』
(3)「お腹を空かせてきました!」桐谷健太さんも楽しみにしていた食事シーン
(4)祝・テディ賞審査員特別賞受賞作「彼らが本気で編むときは、」から学ぶセクシュアル・マイノリティの一歩先にある問題
『彼らが本気で編むときは、』公開情報
2017年2月25日(土)全国ロードショー
脚本・監督:荻上直子
出演:生田斗真 柿原りんか ミムラ 小池栄子 門脇麦 柏原収史 込江海翔 りりィ 田中美佐子/桐谷健太
公式HP:http://kareamu.com/