「シン・ゴジラ」がより面白くなると話題「太陽の蓋」って?

興行収入65億円を超える大ヒットを記録している「シン・ゴジラ」。観客動員数は420万人を超え、最終的には興収70億円、500万人動員も視野に入ってきた。「シン・ゴジラ」の観客から似ている!と指摘され「シン・ゴジラの面白さが増す」と評判の映画がある。タイトルは「太陽の蓋」(たいようのふた)。2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故に対応する総理官邸の舞台裏を北村有起哉さん演じる新聞記者の視点で描いたフィクションである。「シン・ゴジラ」より2週間早い7月16日に公開されたミニシアター系映画だが、今後も全国で上映が控えている。

 

そこで今回、FILMERSでは「太陽の蓋」の橘民義製作プロデューサーへインタビューを行った。なるほど確かに「太陽の蓋」を観ておくのと、観ておかないとでは、「シン・ゴジラ」の楽しみ方も変わってくるかもしれない。

 

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■「シンゴジラ」は虚構だから面白い。「太陽の蓋」は現実だから面白い

——今回のインタビューのために「シン・ゴジラ」を再度ご覧いただいたんですが…あらためてご覧になって、いかがでしたか?

フィクション、虚構として良く出来ていますよね。事件が起きたとき、官邸はどう動くのか? という点は「太陽の蓋」と似ているなと思いました。「総理、戻られました」と言って、多くの官僚やSPに囲まれた首相が官邸に入って行くシーンは笑ってしまいました。

 

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じゃあ、「太陽の蓋」と比べてどこがどう違うのか? というと…「シンゴジラ」は虚構だから面白い。「太陽の蓋」は現実だから面白い、ってことだと思います。仮にゴジラと原発を対比させた場合、ゴジラは一応、凍結させることができたけど…原発の方は、福島第一の1号機から3号機のメルトダウンした燃料デブリがいまだにどういう状況で眠っているのかさえ分からない。その上汚染水はたれ流し。つまり収束していないですよね。その当たりは現実の方が厳しいと思いますね。

 

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■「菅直人のせいで事故は拡大した」…ボクは違うと思っていたんです

——「太陽の蓋」製作のキッカケは?

大きく2つあります。1つはあれだけの事故があったのだから、官邸や東電の関係者がどう動いたか? 記録として正確に残しておきたいと思ったんです。だから、おおむね3つの資料に当たって、いろいろとリサーチしました。1つは国会事故調の報告書。国会ではそう簡単にウソが付けないので、これはじっくり読み込みました。2つめは東電が公開している事故当時の「テレビ会議」の様子。これは東電のホームページで見ることができます。そして、3つめにはその場に居た人への取材を行いました。具体的には、菅直人・元総理や、福山哲郎・元内閣官房副長官などにお話を伺いました。福山さんは事故当時、詳細にメモを残しておられますから、そちらも参考にしました。(編集部注:「シン・ゴジラ」で、長谷川博己さん演じる内閣官房副長官は、福山哲郎さんがモデルではないか?と、ネット上などで噂されている)

 

 

この映画を製作した動機の2つめは、当時マスコミが伝えたこと、そしていまなお国民の心に残っている残像、すなわち政府の事故対応の印象は事実と違うのではないかと思っていたことです。具体的には「菅直人のせいで事故は拡大してしまったのではないか?」という印象がありますよね…ボクは直感的に、これは違うと思っていたので…あらためて取材を重ねて事実を提示したいと思ったんです。

 

 

——取材を重ね検証された結果、橘さんとして、新たな発見はありましたか?

本当にたくさんありますが、一つだけ東電のテレビ会議の中で分かったことを例にあげます。現場の作業員を避難させて欲しいと本店から要求が出るくだりがありますが、もしそのまま避難を認めていたら、原子炉も使用済燃料も冷却できずに放射性物質は広範囲に飛散り、人の避難範囲は事故現場から半径250キロにもなり、東京にまで及ぶことになるところでした。そうなると日本は国として成り立たない。この事態は、菅総理が東電に乗り込んで「撤退してはならない」といったことで防げたのだと考えています。

 

 

■フィクションだけど政治家の行動、発言は事実と異ならないようにした

——脚本づくりにも関われたそうですが、ご苦労された点は?

1年くらいみんなで議論しましたね。そこで一番、心がけていたことは…「事実と離れないようにする」ということです。いくらフィクションでも大事な事故に対する処理、行動、政治家の行動、発言は事実と異なってはならない。そこは気をつけました。

 

——フィクションとして描こうとすると、どうしても脚本家や監督は「ドラマチックに描こう」としてしまいがちだとイメージするのですが…そういう部分を極力、削ぎ落とした部分もあるんですか?

そうですね。どうしてもフィクションとして注目されたいという部分と、事実と違うところが出てきますからね。例えば、菅さんが東電に乗り込んで行ったシーン。実際は「命がけでやってくれ」と言ったんですが、脚本では「命を捨ててくれ」となっていた。これは事実と違うのでは? と意見したんですが、いや同じことではないか? という議論があったんです。まあ最終的には「命がけでやってくれ」になりましたけど。そういったちょっとしたセリフの内容についてやりとりしました

 

——この映画の魅力のひとつは、主要な登場人物が実名で登場するという点です。三田村邦彦さん演じる総理大臣の名前が「菅直人」。他にも、枝野幸男・官房長官、福山哲郎・官房副長官、寺田学・総理補佐官など、当時の政権幹部が実名で登場しています。事実関係がまだ確定していないなか、現役/存命中の方をフィクションの世界で実名で登場させることは異例ですよね?

 

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そこにリアリティがありますからね。何せ、みなさん現職の国会議員ですから。でも、みなさんから実名使用についてスムーズに許可をいただけました。なぜなら、この映画は当時の関係者にとって「作って欲しい映画だったから」だと思います。真実を伝えて欲しいという思いがあったからなんです。

 

 

■「シン・ゴジラ」「太陽の蓋」どちらも東洋的な物語だ

——「太陽の蓋」のような作品はメジャーでは製作できませんか?

ここまで政治的だと難しいでしょうね。「シン・ゴジラ」との共通点として、製作が東宝単独だという点が挙げられると思いますね。ファンディングに関しては「太陽の蓋」も自分もひとりでやると決めていましたから。もちろん、多くの映画で採用されている“製作委員会”の方式を否定はしませんが、こういう映画は単独でやらないと方向性が定まりませんから。

 

——ゴジラは人間ドラマを極力排して作ったそうですよ

たしかに、そう言われればそうなんでしょね。というのは…シンゴジラの面白いところは、個人をクローズアップしていないところですよね。映画だから主要な登場人物が何人かいるんだけど・・・その人がどうしたこうしたではなく、集団、団体、組織の動きとしての捉え方が面白いですよね。「あの人に聴かないと判断できません」とか、「憲法に反するのでは?」「日米安保がどう」とかね・・・そういうところの引き回しでやっているのが皮肉でもあります。

 

——あれは日本ならではの物語構造なんですかね? 西洋は主役を据(す)えたがるのではと思うのですが…

その通りだと思いますね。西洋だと誰か主役となる人がいて、その人の話が中心となって進んでいかないと物語にならないですよね。組織の中でみんながやっていくという物語は、西洋の人にどう映っているのかな…。「日本的、東洋的だ」と捉えることもできると思いますけど。

 

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■やっぱり「シン・ゴジラ」はスゴイ!(笑)

——集団をひとつの個として捉える東洋だから成立したってことですね。東洋と西洋といえば、海外でも上映されたそうですが、反応はいかがでしたか?

8月にポーランドで2ヶ所上映しました。これがスゴイ人気でした。どちらの会場も満員で、上映後のディスカッションは予定の1時間を超えて1時間半。仕方なく次の予定があるということで終わったんですが…。ただ、ポーランドは国の背景があるんですよ。2012年に政府が原発を作るという判断を下したんです。ところがいまだに本格的な着工ができていないんです。国民の意見は二つに割れていて、政府関係者が悩んでいるという背景があるんですね。上映の次の日に、日本で言うところの環境副大臣、原子力委員会委員長に当たる方たちとお会いしてディスカッションしたんですが、みなさん困っているようでした。

 

——上映会場でのディスカッションでは、どんなコトが議題になったんですか?

質問で多かったのは、原発はダメだろうという前提で、「じゃあポーランドのエネルギーはどうすればいいんですか?」という議題ですね。ポーランドでは石炭が主流なんですが、かつての日本がそうだったように、石炭の掘削現場は過酷な労働条件です。そういうなかで、「自然エネルギーに転換を進めるべきだ」という意見があったり、石炭産業を保護するべきだという人もいたり、どちらも政治が背景にあるんですね。

あとはカナダの「モントリオール世界映画祭」で正式招待されて上映されたので監督や主演の北村有起哉さんたちと行ってきました。上映が終わると、多くの人から質問攻めにあいました。

 

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——日本での上映は、10月以降も何館か予定されているようですね

そうですね。おおむね11月いっぱいで上映は終わる予定ですね。そのあとは、12月にDVD発売したり、自主上映会を開いて広めていこうと思っています。

 

 

——いま、上映後に自主上映会で映画の存在を広めて…製作費を回収する手法が一般化していますもんね。ちなみに、「太陽の蓋」は興行的にはいかがですか? 製作費はトントンになりそうですか?

それには遠く及びませんね。その点ではホント…「シン・ゴジラ」はスゴイですよ!(笑)

 

 

「シン・ゴジラ」のリピート鑑賞を楽しみつくしたあと、12月に発売されるDVDで「太陽の蓋」を楽しむのも良し…リピート鑑賞の合間に「太陽の蓋」を劇場でチェックして、補完されるピースを発見するも良し…「シン・ゴジラ」ファンは、この映画をどう読み解くだろう? そして、「シン・ゴジラ」に関心のない方にとって…あのとき、政府内で何が起こっていたのかを知るにはピッタリの作品だ。

 

 

■「太陽の蓋」公開情報

全国順次公開中/フォーラム福島では10月29日より公開!

監督:佐藤太

脚本:長谷川隆

製作:橘民義

プロデューサー:大塚馨

出演:北村有起哉、袴田吉彦、中村ゆり、郭智博、大西信満、神尾佑、青山草太、菅原大吉、三田村邦彦

公式サイト:http://taiyounofuta.com

(c)「太陽の蓋」プロジェクト/ Tachibana Tamiyoshi

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