ムダなものを捨てて生きるために...『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督

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互いにスペックを期待するから軋轢が生まれる。そんな世の中の人間関係に対しての岩井監督の想いも語られた前回のインタビュー。最後となる今回は、この世界で私達が幸せをつかむにはどんなことが必要かお聞きしました!

 

 

ホームレスが一番幸せかなって思いました

―――いま、幸せになりたいと願いながら、将来に不安を抱えている人が多いように思います。こうした時代に、監督が考える「しあわせ」って何ですか?

老人問題も、人が老化していく中で、どうやって生きていけば幸福になれるのか謎ですよね。独居老人問題とかも大変だけど、意外と家族と一緒に住んでいても、その中で阻害されて自殺しちゃうお父さんとかもけっこういるんですよ。それを考えていくと、僕はホームレスが一番幸せかなって思いました。

 

 

―――どういうところが幸せなんですか?

ホームレスの社会って、ちゃんとコミュニティがあって、しばらくテントとかから出てこないと声をかけてもらえるんですよ。あと、働かないと生きていけないから、意外と元気というか、たくましいんですよ。

 

 

―――なるほど。人間のあるべきコミュニティの姿がそこにあると

みんなが盤石だと思っている日本という船から逸脱している人の方が、けっこう幸せそうに生きていますよね。この「リップヴァンウィンクルの花嫁」でも、アウトローの人達がいっぱい出てきますけど…そういう人たちって社会から否定されたりもしてるけど、かえって気楽そうだったり、生きていることの核心に近いところで暮らしているのかなって思います。それに比べて意外と僕たちの方が疲れているんじゃないかと。

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―――アウトローじゃないと幸せを感じられないというのは皮肉な世の中ですね

老人として介護を受けるとき、保険にオプションとか付けるじゃないですか。それが、あれもこれもって重なっていって、そしていざそれを行使すると、する方もされる方もかなり重くなる。家の中でテレビを見てる老人に外に出てみればと言っても出ないですよね。歩く必要性がないから。でもホームレスは生きるために外を歩かざるを得ない。

 

 

 

長野の生涯現役の人々

―――楽したい、便利でありたいと整備されたシステムが人間の可能性を閉じているのかもしれませんね?

この前、長野の田舎の村についての話を聞いたら、みんな働き者だし生涯現役だし、冬を越すために、何を食べるか、その作物を作るために、春のうちからどうするか、80歳90歳になっても考えなきゃいけない。そういう計画の中で生きていると、休むときがなくて、みんなイキイキしてるんですよね。“もう歳を取ったらから俺はいい”じゃなくて。みんな若々しくて元気なんですよ。

 

例えば、遭難者が出たときに、その場所でなぜ携帯が通じないのかとかが議論になりますけど、本来、命なんて助けてもらえれば御の字でしょ。病院にしても、よく医療ミスが起こると、“何やってるんだ”って叩かれる。命を救ってもらえるのが当たり前みたいな。それがだんだんスタンダードに向かっていくのがさらに当たり前になっている。それをみんなが背負いすぎていると思うんですよね。

 

 

―――「背負いすぎている」…たしかに!

僕もまだ世の中の生き方がわからないですけど…そういう長野の方たちとか、自分が目撃した中で、元気な人たちを見ると、養殖されていない天然種の人たちだったなと思います。そういった人たちに対する限りないあこがれが自分の中にあって、それを昔から模索している気がします。この映画では、七海を使いながら、したたかに、ひたむきに生きている人々と向かい合わせています。その姿を通して、背負っている何か無駄なものを切り捨てて、どこで生きていったらいいのかを、僕も考えますけど、みんなで考えましょうってことですかね。

 

 

 

この作品を、明日を考える糧に

―――あらためて、この日本、この世界に思うことは?

少しでも希望のない社会が本当に来たら困るから、いろんなところでいろんな人たちが努力はしてはいるんですけど、そういうのをできるだけ眺めていきたいし、ものづくりをしていければと思います。3.11以前の映画作品って、何か護送船団の中で作られていて、これが正しいよねって変な基準があったと思うんですけど、それに疑いを持つ人はあまりいなくて、でも実は自分が作っていたのはずっと外だったんです。でも、その壁が3.11以降で崩れたんだと思います。

 

 

―――最後に映画を見る人たちにメッセージをお願いします

何か不安に思っている人とか、まあ、この映画を見て救われるってことはないでしょうけど…救われた気はすると思うので、そこで明日を考える糧にしてもらえれば、ちょっとありがたいかなと思います。

 

―――4回のお話を通して、この作品のテーマやメッセージが浮き彫りになったように思います。ありがとうございました!

 

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■「リップヴァンウィンクルの花嫁」公開情報

*2016年3月26日(土)~全国ロードショー~

原作・脚本・監督:岩井俊二

出演:黒木華、綾野剛、Cocco ほか

エグゼクティブプロデューサー:杉田成道

配給:東映

公式サイト:http://rvw-bride.com/