人って他人に期待しないほうが良いのかな...『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督
一見、堕ちてるんだけど…実は昇っていく物語。「リップヴァンウィンクルの花嫁」の物語構造が発想された原点について語ってくださった前回のインタビュー。今回は、様々な人々との出会いによって成長していく主人公・七海の姿から、人同士のコミュニケーションとはどうあるべきか、そんなお話をお聞きしました!
■人に期待をしてはいけない?
―――堕ちているようだけど、実は昇っていくストーリー、素敵ですね。
主人公は最初、自分の結婚式に親族や友人のエキストラを呼ぶ立場なんだけど…そこから間もなくして、自分がそのエキストラの立場になるっていう…カタチだけ見れば主人公は堕ちたんですよね。だけど…はたから見たら堕ちているエキストラの人達にも営みがあるんですよ。多少うしろめたさもある中、ドキドキしてそこの席に座っているんだよっていう。違う角度で見るとそこに物語が展開していけるんですよね。そして、胸のすく痛快な話になっていく…楽しくなっていくっていう…これって映画や小説の持つ奇想天外さだったり良さだったりすると思います。
―――派遣教員をしている主人公の七海は、職場や大学時代の同級生との交流よりも、SNSや結婚式のエキストラで知り合った相手との方が生き生きしているのが印象的でしたが、なぜなんでしょうか?
まあ、そこは確かに何でなんだろうって思います。自分の中でも突き詰めて考えなきゃと思っていたんですけど、おそらく「期待」ってことだと思います。つまり他の人に対して、人は「期待」しない方が良いのかなって。
―――どういうことですか?
“お前なんかに期待しないよ”っていう言葉って、まあこんな残酷な言葉はないんですけど…。でも、期待することって、相手のスペックを評価してそのまま持続を求めるか、もっと上げてくれと要求することだと思うんです。それが始まると、それがノルマになって、それ以下の行動をされると、失望とか残念といった感情を顔に出してしまう。
それによって人間社会ってややこしくなっているんじゃないかって思うんです。例えば、うちには猫がいるんですけど、猫ってかわいいんですよ。なんでこんなに可愛いんだって思ったとき、人間の子どもだったら、ここまでは思わないと思うんです。きっと人間の子どもって、ちゃんと育てて成長させなきゃいけない、立派な人間にしなきゃいけない、スペックをあげなきゃいけないって思いがあると思うんです。“ただ居てくれるだけで良い“じゃないんですよね。
■期待をしないことで生まれる120%の愛
―――確かに猫に過剰な期待はしませんよね
猫に将来はもっと立派になってくれよっては思わないじゃないですか。壁をガリガリやらないで欲しいなぐらいは思いますけど、でもそれもしょうがないですよね。つまりそれが、“お前には何も期待しないよ”ってことなんです。そして、期待しないことで得られるのは、120%の愛ですよ。これは理想だなと思ったんです。親子においても、恋人同士においても、なんかお互いが、相手をスペック化して、こうあるべしってことを積み上げすぎている。そして、それに見合わない行動をとると、イラッとしたり、チェッてなったりする。そして果ては喧嘩になる。
―――窮屈ですね~
結局、少子化もそういう問題が積もり積もってそういう状態になっているんじゃないかって思うんですよ。子どもは学校に行かせなきゃいけない。習い事もさせなきゃいけない。そうするとお金もかかる。じゃあ、めんどくさいから子どもなんていいやってなってる人もたくさんいると思うんです。
―――確かにそうですね
国が憲法で保障していた最低限の生活って、知らぬ間に相当高い水準に達してしまったんだと思うんです。ノルマが高すぎるんじゃないかなって思いますね。教育に関しては、僕は、極端に言えば、小学校を卒業すれば、あとは別に学校に行かなくてもwikipediaがあれば足りるだろって思いますけどね。
■学校がより窮屈な存在に
―――学校で習う内容だけで見ればwikiが代わりになる面もありますね
子どもたちって、学校の外で憶える知識の方が莫大ですから。そもそも日本語がそうでしょう。小学校は子供が日本語喋れるようになっていることを前提にしているわけで。それに社会で生きるための知識も案外学校出てから憶えることになりますし。確定申告とか、飛行機の乗り方とか、学校では教えてくれません。
僕たちはこういう業界にいるので、あんまり学歴は問われないですし、俳優さん、監督、スタッフ、みなさん異色のキャリアですけど立派に育ってますしね。僕は一応大学を出てますけど、大学を出たからという意味で勝ってるところはどこにもないと思います。あと、スマップを見ればわかる通り、世の中の高学歴者を押しのけてあんなに司会業をこなしているんですから。学歴っていらないじゃないっていうね。人間ってどうやって育つかどうかに関しては、もう学校は関係ないですね。
―――監督ご自身も学校に行ってたとき、そう思ってたんですか?
僕は、中学校ぐらいで学校の教師がイヤになって、それ以来もう習ってないんです。それでもどうにかなったし…教師用の教科書を買うと、教師が教える内容が全部わかるんですよ。それで勉強以外のコトで自分の欲しい情報を求めたときに、それは学校にはなくて…映画を作るってなると、ますます学校から逸脱していく。だから勉強にお金をかける必要はないと思いました。英語とかに関してもお金はかけずにしゃべれるようになりましたし、塾とか行って、お金払って習えば話せるようになるかというと大間違いですよ。
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■「リップヴァンウィンクルの花嫁」公開情報
*2016年3月26日(土)~全国ロードショー~
原作・脚本・監督:岩井俊二
出演:黒木華、綾野剛、Cocco ほか
エグゼクティブプロデューサー:杉田成道
配給:東映
公式サイト:http://rvw-bride.com/