夢を見られない時代の「不思議の国のアリス」『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督

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SNSでの出会いから、“幸せ”な結婚を果たした内気な女性・七海。そんな彼女がふとしたキッカケから不思議の国のアリスのように“転落”してゆく物語「リップヴァンウィンクルの花嫁」。でも…転落しているはずなのに…謎のなんでも屋・安室(あむろ)や、ひょんなことから友達になった真白(ましろ)との出会いを通して、七海はどんどん生き生きしていく。世界の残酷さに触れるにつれて、どんどん美しく磨かれていく七海の姿が印象的な本作品。

 

描いたのは『スワロウテイル』や『花とアリス』でもお馴染み、岩井俊二監督! 第一回目のインタビューでは、独特のリズム・世界観で進んでいく物語の謎を少しでも紐解きたいと、作品のテーマについて伺いました! そこには、監督の想う、いまの日本の姿が見えてきました!

 

 

 

3.11以降日本を切り取った世界

―――まずは「リップヴァンウィンクルの花嫁」のテーマを教えてください

じつは、自分でもよくわかってないんですよね。なんていうか、今の世の中のことがよくわからないぐらい、よくわかってないんです。でも、わかんなくても映画は作れるので作ってみたって感じなんですよね。人と人の在り方とか、まだまだ謎や疑問は多くて、その希望の少ない中、どうしたもんかなという感じですかね。

 

 

―――監督も「よくわかっていない」とおっしゃるテーマを…この4回のインタビューで探っていけたらと思いますが…。本作の時代設定としては3・11前なのか後なのか…あるいはまったく別の世界のお話なのか? そのあたりはどのように設定されていますか?

まあ、日本を舞台に…3.11以降の日本をモチーフにしたものを考えているうちに出てきた話で、そういう意味では、今の日本の世相をどこか切り取ったのものなのかなという気がします。

 

 

―――3.11以降のどの辺りを切り取ったのでしょう?

3.11のあとって、日本全体に「絆」って言葉も広まって、お互いを思いやる良い雰囲気があったと思うんです。それが最近、たちどころに壊れて、市民レベルでも残念なことがずっと続いているような気がしていて…。

 

 

―――残念なこと?

報われないっていうか、夢を見られない。原発問題もそうですし、安保法案もそうですし、オリンピックの競技場問題もそうですし…そしてとうとうSMAPまで解散危機までなっちゃったし。

 

 

―――確かに国民的アイドルがテレビで謝罪する姿はショックでした

そういう、なんとなくみんなが薄々感じていたけど、見てなかったことが次々と表に出てきて、まあわかっちゃいた気もするけど、やっぱりそうだったのかっていう残念感がありますね。結局オリンピック問題もいろんな利権関係が絡んでいるとか。

 

 

―――2020年に向けて一応、盛り上がっていたムードが台無しになる出来事でしたね

そもそもオリンピック招致が決まったときに日本の技術でオリンピックなんてやれるのかとは思いました。こんな劣化した国で無理じゃないのって。どんなイベントやるにも技術って必要じゃないですか。もし日本でやるんだったら、例えばトヨタとか、パナソニックとか大手メーカーが五社ぐらい協力して本気出してやるならできるかもしれないですけど…お役所が指揮とってやれるのかなというのは疑問でした。実際、競技場問題にしてもお金の勘定もできないし、こうなるよねって。

 

 

―――いまの日本にオリンピックは荷が重すぎたって感じでしょうか

「小さな政府」って考え方が10年前ぐらいから出てきて、最初はなんだろうなって思ってたんですけど、こういうことなんだってわかってきました。日本も今、“民営化、民営化”って進んでいるけど、当然の流れなのかなって気がします。企業って、競争で負けたら泣くときは泣く厳しい世界じゃないですか。でもお役所ってそういう競争ってないですよね。失敗したら、逆に市民が苦しむ方にいっちゃうし。

 

 

―――国に頼っている時代じゃないと?

原発問題についても、賛成派、反対派はそれぞれいると思うんですけど…おそらく市民レベルで言えば、9割9分反対派だと思うんですけど。この流れのもと、例えば、日本の企業が一気にガンガン再生可能エネルギー開発を進めていって、たちどころに“自分のカバンに入るぐらいの小さな発電機一つで家一軒賄えます”っていう技術開発をしてもらって、いつの間にか“原発も火力発電も水力発電もなくなったよね”って方向になったら…まあSFみたいだけど、こんな胸のすく話はないですよ。福島のようなことは二度と起きないし。

 

 

 

最後は弱いものが幸せになれる希望や救いを

―――監督のそうした時代観は本作にどのように反映されているのでしょう?

映画の物語を考えたとき、映画におけるハッピーエンドってそういうもんじゃないかなと思うんです。体制側が弱いものを虐げて終わるんじゃなくて、やっぱり最後、弱いものが幸せになれるとか、報われるとか…。まあもちろん悲劇で終わるものもあるんだけど、なんかやっぱり映画的希望ってことで言うと、人間の希望や救いについての物語がいいなって。

 

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―――お客さんもそれを望んでいるように思います

今の日本ってなんとなく嫌なストーリーに進んでいて、サッカーで言えば、ワールドカップ予選で格下相手に負けちゃうみたいな。なんで⁉ってことが慢性的に進んでいる気がします。3.11でみんな一時は頑張ろうってなったけど、それが台無しになっちゃうようなことも多い。これが3.11以前まで隠れていた日本の正体だったんだなと思いますし、そういう意味で言うと、大変なものがむき出しになってきたなとも思います。

 

ここから少子高齢化になっていって、もう20年後には40%ぐらいが老人化するというのも止められないわけで、どんどんと破局に向かっていくなあって。そういう希望のない世界で、どこに幸せがあるんだろうって探し求める。自分の役割もそういったところになっているような気がします。今回の作品はそれの一発目だったのかなって気がしますね。まずは自分が探したい、見つけたいって想いもありますけど。

 

 

 

3.11以前の日本は靄がかかったような世界

―――ちなみに3.11以前の日本にはどんな印象をもっていたのですか?

3.11以前の自分はどうだったかっていうと、あんまり日本という国に対して、作品を撮りたいって気持ちが湧かなくて。無風で、何も物語にならないって感じでした。いろんなプランを考えてもなかなか進まない。「花とアリス」って作品が終わったころに、そこから先5年ぐらい時間が止まったような感覚になって、何を企画しても既視感がありました。これなんか見たことあるなと。

 

 

―――けっこう長い間、そういう感覚だったんですね

止まっちゃったというか、世界が白く濁った感じになっちゃって。ムラもない、乳白色の世界になった感じでした。それで、もうここじゃ作れないなって思ったんです。そこでアメリカに行ったりして、外の風を浴びたりもしてました。行ったらいったで、それなりに刺激もあって創作欲が沸いてくるので、どうにか作品作れていたわけですけど。そこに3.11が来て、あの感じは嵐の前の静けさだったのかなと思いました。自分の中の創作欲が全部吸い取られていたなという気がしていましたから。

 

 

―――そこから3.11が起こって、監督の中で何か動き出しましたか?

そうですね。3.11以降は、靄(もや)になっていたものがまた動き出したという感じですね。でも動き出すと、これまで溜まっていた気持ち悪いもの、見たくないものもどんどん見えてくるわけで、でもこれは作家にとっては立ち向かうべき、標的なのかなと思いました。

 

 

 

 

(1/4)『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督 夢を見られない時代の「不思議の国のアリス」

(2/4)『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督 アカデミー受賞作だけど納得いかない物語がある

 

■「リップヴァンウィンクルの花嫁」公開情報

*2016年3月26日(土)~全国ロードショー~

原作・脚本・監督:岩井俊二

出演:黒木華、綾野剛、Cocco ほか

エグゼクティブプロデューサー:杉田成道

配給:東映

公式サイト:http://rvw-bride.com/

 

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