「事前準備」と「フィクション」のバランスで作品は面白くなる! 脚本家 奥寺佐渡子さん(3/4)
具体的な脚本作りの流れや、『サマーウォーズ』のウラ話をお聞きした前回のインタビュー。今回は…奥寺さんが脚本を書く上で、どのような「事前準備」をしているのか、お聞きしました!
■原作モノは「エッセンスを残そう」というスタンスで書いています
ーーー前回、他の映画作品もけっこう観ると仰っていましたが、それは脚本家目線で見るんですか?
いえ、それはあまりないですね。ときどき、そういう目で見てみようと思ったりもするんですけど、観てるうちに1人のお客さんとして観ちゃってます。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』も今までのシリーズがあった中、今度はどう来るのか、かまえて見始めましたが、すぐに夢中になりました。
ーーー映画を観ること以外に脚本づくりに活かせることってありますか?
「シナリオハンティング」といって、原作の舞台となった地方には前もってよく行きます。現場が実際どんなところなのか見たり、現地の方達に話を聞いたりするんです。観光協会の方がナビゲートしてくださることが多いんですけどね。
ーーー話というのはどんなことを聞くんですか?
脚本を書く上で、ある程度原作からこういう感じに脚色しようというのは決めてるんですけど…それが地元の人たちの感覚からして正しいかどうかというところを聞いて確かめます。
ーーー地元の人が「あれは違うな」って思われたらイヤですよね。たしかに、そういうリアリティって大切ですね
ただ、たまに原作自体があまり地元の取材はせずに書かれているものもあって…そういうときはそもそもの話が違うということもあります(笑)
ーーーそういうときはどうするんですか?
面白さというか、フィクションを優先しています。こう言っちゃなんですけど、映画は元々「ウソ」の世界なので。厳密に現実に合わせなくても良いと思います。
ーーーだからこそ魅力的に映るんですね
私の場合は、“原作のエッセンスを残そう“という感じのスタンスです。忠実に原作通りに書こうとすると、”原作と違うかどうか“というところにばかり体力を削られてしまうので。ストーリーラインを尊重しつつ、映像ならではの語り口を探ろうという感覚です。
ーーーじゃあ原作の本については、1度しっかり読んだらあまり見返さないという感じですか?
はい。2稿、3稿…って直しが重なってくると、また少し読み直すことはあります。なにか大事なところを読み落としていないか、不安になったりするので(笑)
ーーー「シナリオハンティング」以外にも取材や調査はするんですか?
実際に起きた事件などが元になっているものは、当時の資料や新聞記事などを読み込みます。国会図書館とか中央図書館とかに行って。そこだったら絶版になった本も含めてたいていの資料は読めますので。
ーーーけっこう脚本を書くのも脚を使うんですね
今は家で、ネットで調べられることも多いですが、30年前とか、昔の資料だと自分で行かないといけないことも多いですね。
■売れっ子脚本家のタイムスケジュールとは?
ーーー細かい話ですが、奥寺さんはどういうスケジュールで作業してるんですか?
自分の子どもが学校に行ってから洗濯とかして、だいたい9時ぐらいからですね。そこから夕方まで仕事します。
ーーーそれって結構、短くないですか?
足りないです。なので、間に合わないときは子どもが寝てからの夜10時以降も書いてます。
ーーー脚本が出来上がるまでの期間はどのくらいですか?
映画1本だと、1か月から3週間で初稿を仕上げます。最初の1週間で細かく構成を決めてから、残りの2週間でバーッと書いちゃいます。
ーーーそんなに早く書けちゃうんですね。でもそのペースならもっと多くの映画の脚本を手掛けられるんじゃないですか?
初稿から直す時間もありますし、仕事のかけ持ちはしたくないので、書けても年3本くらいじゃないでしょうか。あと、脚本を書いても予算の面で途中でダメになったりとか、本当に作品化されるのって3本書いても1から1.5本ぐらいなんですよ。
ーーー厳しいですね。それはやはり景気に左右されるんですか? 例えば、バブルの時はもう少し打率が良いとか?
その辺りは昔から変わらないですね
■『ルパン三世 カリオストロの城』が好き!
ーーーご自身が書いた作品をお子さんに見せることはあるんですか?
本人が勝手に見てます。けっこう笑ってるので、嬉しいですね(笑)。あと、細かい描写の部分を何回も見直していたりするところは、自分と似てるなと思います。好きなものは徹底して見て覚えるっていうオタクっぽいところは、私もそうだったので(笑)。
ーーー他はどんな作品がお気に入りなんですか?
『スターウォーズシリーズ』はよく観てますね。それ見て、私も小さい頃、映画館に行って何回も『カリオストロの城』を見たことを思い出しました。
ーーーへぇ、『カリオストロの城』はどこが魅力だったんですか?
息もつかせぬ展開力ですね。当時の邦画ってテンポがゆったりしてるものが多くて、人間ドラマを魅せるのが主だったんですけど、『カリオストロの城』は、ずっと“次はどうなるの?”ってドキドキしっぱなしでした。そこで“アニメって面白いな”って思いましたね。
ーーー前にアニメでは動きを多めにしていると仰っていましたが、やはりそこは重要なんですね
そうですね。アニメだけじゃなくて、ドラマや映画でも、まず情景を思い浮かべてから書いています。自分がそこに入り込んでいるイメージをしながら。そして、そこにいる登場人物が何を話しているのかを聞きとるというイメージです。“ふむふむ、この人こんな事言うんだ…”とか。
ーーーまず自分の頭の中で映像を動かすんですね
はい、それを受けて、その場にいる人数を変えたり、情景を変えて考えてみたりしています。
ーーー脚本作りに大事なポイントがどんどん出てきました。最後となる次回は、奥寺さんの想う、今後求められる作品についてお話伺います!
(1/4)脚本家 奥寺佐渡子さん 『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』を手がける 脚本家とはどんな方なのか?
(2/4)脚本家 奥寺佐渡子さん 作品づくりは共同作業!『サマーウォーズ』制作秘話!
(3/4)脚本家 奥寺佐渡子さん 「事前準備」と「フィクション」のバランスで作品は面白くなる!?
(4/4)脚本家 奥寺佐渡子さん その世代でしかできない仕事をしなさい
■奥寺佐渡子さん脚本作品DVDリリース情報