映画には当事者性を持たせる力がある ドキュメンタリー映画『変身 - Metamorphosis』堀潤監督(3/4)

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NHKを退職するに至った経緯について語られた前回のインタビュー。今回は、堀潤さん自ら監督、脚本、編集、ナレーションを務めたドキュメンタリー映画『変身 - Metamorphosis』についてお聞きしました。「京都国際インディーズ映画祭2013」で特別賞を受賞した本作は、堀さん自ら福島第一原発事故、米国のスリーマイル島原発事故、サンタスサーナ原子炉実験場事故を取材。一般の方々から寄せられた映像なども合わせて作られました。映像を撮るとき、堀さんがどんな部分にこだわっているかについてもお聞きしました。

 
 
 

映画には見ている人に当事者性を持たせる力がある

―――東京電力福島第一原発の事故をテーマにした映画『変身 - Metamorphosis』ですが、なぜ映画という媒体を選んだのですか?

まず、テレビだと尺の制限がありますし、何回も見てもらうには再放送してもらう必要がありますが、それはよっぽどの要望が無い限りなかなかできない。その点、映画は表現も自由だし、何度も見てもらえるっていうのがありました。

 

 

 

―――テレビでは制約も多そうですしね

“作法”という点でも、テレビでは、区切りごとに視聴者に疑問を残さないで、次の場面に行かないといけない。かっちり落とし前をつけながら進めていく。だけど、このテーマでは途中に空白を生みながら発信してみたいなという想いがあったんです。

 

 

―――見る人も自分だったらどうするかなど、考えながら観られるということですね。

あと、映画だから伝わる空気感もあるなと思いました。映画って、箱庭みたいな空間の中に自分の身を置きながら、没頭して見られるじゃないですか。テレビでは不思議の国のアリスを見ていても、当事者になって観るような感覚にはならないけど、映画や演劇だと自分がアリスの目線になって走ったり、くぐったり、驚いたり、共に見られる余力があるなと感じていました。元々テレビの仕事でも、観ている人が、当事者性を自分で持って、自分でアクションを起こす人が世の中に増えればいいなと思っていたので、映画はそれに合っているなと思いました。

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映像に“日常感”を切り取る

―――映像を撮る中でこだわった点は?

NHKにいるときもそうでしたが、いかに“日常感”を切り取れるかってところはこだわっています。例えば、映像の中の人が、ただ食事をしているだけのシーンが、じつはすごく大事だったりするんです。ただ、テレビのニュースだと重要な場面ではないと、やっぱり切られちゃう。そういうところは嫌だなと思っていました。世の中の出来事をただエンターテインメントとして消費するだけで終わっちゃうなと。

 

 

―――“日常感”があるからこそ、観ている方はより共感できるということですか?

そうですね。例えば水害の現場を取材したとき、普通のニュースだと、何名が死亡したとか、行方不明者が何名とか、どこが壊れたとか、誰かが判断を誤ったとか、そういう部分ばかりが流れる。もちろんその情報も大事なんだけど、数字ってとても非日常的なことなんですよね。僕が思ったのは、そういう突発的なことが起きた中でも避難を続けながら、人々は日常の生活をどう過ごしているのか、そこを伝える事がすごく大事だということです。

 

 

―――確かに見ている人にはそこの部分が1番響きそうな感じがしますね

でも、そういうところはテレビ的にはつまらないんですよね。見出しが立つようなものじゃないから。例えば、災害が起きてサイレンが鳴っている中、家に残っているおばあちゃんが見つかって、消防団の人がおばあちゃんを背負って坂から降りてくるっていうシーンがあったんですけど、このシーンはニュースになるかというとならない。避難している人をおんぶして降りただけですから。でもそれを「急にサイレンが鳴って現場が騒然としました。そんな中、自分の家は大丈夫だから逃げたくないって言っていたおばあちゃんを消防団員が背負って降りてきました」という風にちゃんと話を付けて聞くと、自分も避難指示が出ても、あのおばあちゃんみたいに避難しなくてもいいかなって思っちゃうかなとか、自分事に置き換えられると思うんですね。

 

 

 

■映画『変身2』制作中

―――映画でもそこは大事にしたと?

映画を作るときも、センセーショナルなシーンだけではなくて、淡々としたやり取りもちゃんと出したいなと思いました。そういう場面は、映画の世界観で描くのには適してるかなと思いましたね。

 

 

―――今後、新作の予定はあるんですか?

あります。『変身2』を制作中です。今、これまでずっと撮り溜めていたいろんな映像を繋ぎ合わせようとしてる感じですね。テーマは1作目とも共通する、世の中の不条理さ…誰も悪い人はいないんだけど、悲しい連鎖が続いていて、それがやがて周りからは忘れられて過ぎていくというところ。安保問題もそうだし、原発の事故もそうなんですけど、瞬く間に周りは当事者意識が薄くなって、限られた当事者だけが取り残されていくってことがいっぱいありますよね。

 

 

―――発表はいつ頃を予定していますか?

2年後ぐらいの予定です。これからまた海外の取材もしたいなと思っていて、新興国にも行きたいと思っています。新興国での原発の扱いは、ロシアなどとも違うので、そこも見てみたいなと思いました。あと、さっきも少し触れましたが、憲法とか安保とか海外の広がる格差問題とか、そういうテーマも取り入れようと思っています。私が代表でしている8ビットニュースにも、1000本ぐらい新しい動画が上がっていますし、今、資金を集めたりスケジュールを組んだりとかいろいろ進めています。

 

 

(1/4)『変身 - Metamorphosis』堀潤監督 メディアが間違ってくると世の中が…

(2/4)『変身 - Metamorphosis』堀潤監督 改革の機運がグシャっと潰れちゃった

(3/4)『変身 - Metamorphosis』堀潤監督 映画には当事者性を持たせる力がある

(4/4)『変身 - Metamorphosis』堀潤監督 理想的なメディアのカタチとは?

 

 

■映画「変身」情報

映画「変身」公式サイト:http://unitedpeople.jp/henshin/

8bitnews公式サイト:http://8bitnews.org/

ジャーナリスト・堀潤の公式ページ:https://www.facebook.com/8bitNews.HORIJUN

堀さん出演ラジオ:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

 

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