やりたいことをやれなかったら意味がない『ラストナイツ』紀里谷和明監督(4/4)
紀里谷監督の今を形作ってきた作品群の”一部”についてお聞きした前回のインタビュー。そのなかで紀里谷監督は、現代の風潮やシステムに対して感じている憤りについても語られました。そこで最後のインタビューとなる今回は…紀里谷監督の思想の根底には何があるのか?探ってみたいと思います。
■社会は何でこんなに醜いのか
ーーーあくまで記者個人の印象ですが、これまで紀里谷さんが手がけたPVなどの映像を見ると、綺麗だけどどこか悲しい印象を受けるものが多く感じます
そうですね、何かこの世界って悲しいと思うんです。空とか山とか海とか宇宙とか生き物とか、こんなに美しいのに何で社会はこんなに醜いんだろうって。
ーーーそれはいつ頃からそう思うように?
小学生の頃からです。だから中学でアメリカに行ったんですよ。この国から出ればそれから逃げられるって思ったんです。人間が何かシステムを作ったときに発生する醜さに耐えられなくて。システムそのものを否定するわけじゃないんけど、理想や目的地を明確にしないまま構築されると醜いことになるんだなって思います。
ーーー例えばそれは?
例えば、キリスト教は愛という、とても美しくてシンプルなことを謳っている。釈迦もすごく良い言葉をこの世に残した。そのはずなのに、それがどう間違ったら戦争とかが起きるのか? そういうところを考えちゃうと、もう人間っていうものに対しては、魂とかそこの部分しか信じられないんですよ。
■「ラストナイツ」のためなら死ねると思った
ーーー映画業界という、今、ご自身がいるシステムについてはどう思っていますか?
映画業界というこのシステムの中でも自分が作りたいものを作るために闘っています。それを確保するため、自分でプロデューサー業など、いろんなことを粛々とやったりしています。とにかく何の縛りもない自由な世界にいたいんです。だからよく僕の作品を紀里谷ワールドとか表現する人もいるけど、自分ではそんな意識をしたことは全くないです。
ーーーでも、闘うことによって、例えば…制作が途中で止まっちゃったり、年数が空いちゃうことに焦ることはないんですか?
確かに、この作品は2009年以来のものになりますが、自分の正義を曲げていたらもっと早いペースで映画を作れたと思います。実際、誰もが知ってるようなビッグな企画の話もありましたから。
ーーーそうなんですか? どうしてやらなかったんですか?
その脚本を読んでも何か信じられなかったし、自分が人生の数年をコレに懸けられるのか、根本から納得がいきませんでした。映画を作るって大変で、いろんな苦しみがあるんだけど、それを突破するには、作品を信じる気持ちがないとできないんです。実際、この『ラスト・ナイツ』の脚本を読んだときは、この作品のためなら死ねると思ったからやりました。
ーーーなるほど。そこが紀里谷さんの正義なんですね。ただ、しつこいですが…ビッグな企画を蹴ったことはもったいなくないですか?
いや、僕はとにかく自分が納得のいくものを作りたいんです。だから監督になっているので。例えば、メジャーリーグに行く野球選手だって、大事なのはメジャーリーガーという肩書きを得ることよりも、本人が野球を好きかどうかってことだと思いますよ。
■なぜこの仕事をしているのか考えたとき、やりたいことをやれなかったら意味がない
ーーー紀里谷監督の意志の強さ…その原動力は何なんですか?
写真家として活動しているときに思ったんですけど、何でこの仕事をしているのか考えたときがあって、そこで出た結論が“やりたいことをやれなかったら意味がない”ということでした。だから、やりたいことで食えなくなったら死のうと。それからは自分が信じられる写真しか撮らないと決めました。究極の話、命を差し出す覚悟をしちゃえばそこから怖いものはなくなりました。
ーーーそんな覚悟をもって仕事に向き合っているんですね
こだわる分、人からはめんどくさいって言われることもありますけど。逆に、じゃああなた達は何のためにこの仕事を選んだのか? 迎合して、妥協して、中途半端な1枚を撮るためにこの仕事をしているのか? と逆に思います。
ーーー確かにそうですね。最後に作品の話に戻りますが、この『ラスト・ナイツ』は納得するものになりましたか?
そうですね。だいぶ近づいてきていると思います。大事なのは究極の1本を撮ることで、今後も僕はそれを追い求めてやっていきたいですね。
【取材後記】
自分の信じるもののために最後まで意志を貫く。映画の内容と紀里谷監督の想いには、とても重なる部分が多いと感じました。あなたの正義は何ですか? そしてそれを貫けていますか? まさに命を懸けた紀里谷監督からの問いかけが、お客さん達にどのように伝わるのか楽しみです!
(1/4)『ラストナイツ』紀里谷和明監督 あなたの正義...貫けていますか?
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(4/4)『ラストナイツ』紀里谷和明監督 やりたいことをやれなかったら意味がない
■「ラスト・ナイツ」公開情報
*2015年11月14日(土)全国ロードショー
監督:紀里谷和明
脚本:マイケル・コニーベス
出演:クライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマン、伊原剛志、アン・ソンギ
公式サイト:http://lastknights.jp