カットした27分間 押井守監督『THE NEXT GENERATION パトレイバー首都決戦ディレクターズカット』(1/4)

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ディレクターズカット部分こそ最も観て欲しいところ!

今回のインタビューは、2004年カンヌ国際映画祭コンペ部門に日本のアニメとして初めてノミネートされた「イノセンス」や、1996年に米ビルボード誌のビデオ週間売り上げ1位を獲得した「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」を手掛けてきた押井守監督。『アバター』で知られるジェームズ・キャメロン監督も、その作品に大きな影響を受けたと絶賛する、世界が認めるクリエイターです。

そんな押井監督が、“全長8メートルの警察用ロボット”とともに、突如起こるテロと対峙する警察組織の戦いをリアルかつ壮大に描いた映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』。2014年4月から上映を開始した全7章シリーズを経て、その到達点ともいえる長編劇場版が今年の5月に上映されたのですが…それで終わりではなかった! じつは、押井監督が本当は入れたかった27分がプラスされたディレクターズカット版が今年の10月10日に公開されるんです。そもそもなんでカットされたのか!?プラスされたシーンには一体どんなヒミツが!?そこから見える押井監督の映画作りに対するこだわり…お聞きしました!

 

新たに加わった27分

―――まずお聞きしたいのですが、どうして5月公開のときには多くのシーンをカットしたのですか?

簡単に言うと、前回はプロデューサーの意向が大きかったですね。映画というのは、完成すると、あのシーンを切る、切らないで、監督とプロデューサーの間で必ずやり取りがあるんですけど、このパトレイバーでもいろいろありまして。結局お互いの顔を立てようってことで、この2つのバージョンになりました。

 

 

―――今回のディレクターズカット版では27分ものシーンがプラスされているとのことですが、見どころは?

27分全て見せたいところです。この10月に観に来る人達は、おそらく春に公開されたものを観た人も多いと思うんだけど、全く違う映画になってると思います。なのでもし、“同じじゃん”って思う人がいたら、それはコチラがすいませんでしたと謝るしかないですね(笑)。でもきっとそうはならないと思いますよ!

 

 

―――具体的にどんなシーンなんですか?

今回のディレクターズカット版は、テロを起こす女性パイロットの灰原零を全面に押し出しています。

 

 

―――監督のうしろにあるポスターもヘリを操縦する灰原の姿がメインですね

面白い映画っていうのは、ポスターとかチラシとかにも、何をどう見せたいのかっていうのが現れてる。今回の映画は、本当に彼女のための映画なんです。謎に包まれた灰原零という人物は何者なんだというのが大きなテーマで。この作品はそれを成立させるためのものに過ぎません。

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そのキャラを男にする理由は何か? すべて検証した

―――ヘリの操縦に関しては天才的だがその他のことは全て謎という、灰原のキャラクターはどうやって生まれたんですか?

けっこう大変でしたよ。実は7、8年前に1回作品を書いたんだけど、いろいろあって流れちゃったんです。で、今回あらためて制作することになったんだけど、そこからキャラクターの設定はずいぶん変わりました。最初は性別も男だったからね。

 

 

―――へえ~性別も違ったんですか?

ええ、最後は作品として全体が成立するように女性にしました。キャラクターを男か女にするかって、気楽に決めていいものじゃなくて、全部頭の中でシミュレーションするんです。この人物は男にする理由があるのか、女にしても成立するのかとか、全部確かめます。実は、高島礼子さんが演じている高畑という人物も最初はおっさんだったんですよ。

 

―――すごく意味が込められての“女性”だったんですね。

まあ、おっさん同士の話でも良さは出るんですよ(笑)。例えば、以前公開された『機動警察パトレイバー 2 the Movie』であった、自衛隊のおっさんと警察のおっさん同士が、仲は悪いけど、国を守るためにお互い協力するみたいなね。

 

 

 

■隊長の周りを女で固めて、信頼と裏切りの構造に男女の関係をだぶらせてみようと…

―――確かに男同士も見たくなるテーマですね

ただ、今回は隊長だけを男にして、周りは女で固めて見ようと思ったの。そうすることで、信頼とか裏切りの構造に、男と女の関係をだぶらせてみようと。映画の中では、人間関係における2つの三角形が出てくるんだけど、それをそれぞれで回してみようと思って。当たり前だけど、どのキャラクターにも出しているからには意味があります。逆にやることがなければ出す必要はないです。

 

 

―――どの人物も注目なんですね

キャラクターたちについてこだわったのは他にもあって、それぞれの人物に、対となる人物を登場させることで影をつけたかった。“あり得たかもしれないもう1人の自分自身”を。例えば、真野恵里菜さんが演じた泉野明と、灰原零とか。

 

 

―――確かに作中の2人は正反対なイメージですね

キャラクターってそうやって考えるもので、単独で存在できる者なんていないんです。誰もが別の誰かがいて表現される。映画の中でもそういうお互いを意識するところは出て来ます。

 

 

―――ちょっとしたやり取りも意識してみると面白そうですね

その分脚本作りは大変だったけどね。でも、それが出来た段階で映画作りの仕事はほぼ終わってるから。あとは実際に、どう役者に演技してもらうか色を付けるだけで、ほぼ仕上げ。撮影に入る前には、ほぼ全ての中身ができてないといけないんです。

 

 

―――撮影前の段階って我々が思うよりずっと大変なんですね

だからってわけじゃないけど、どちらかというと楽しいのは現場だね(笑)。

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■「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット」公開情報

*2015年10月10日(土)全国ロードショー

監督・脚本:押井 守

出演:筧 利夫、真野恵里菜、福士誠治、太田莉菜、千葉 繁、森カンナ、吉田鋼太郎、高島礼子

音楽:川井憲次

原作:ヘッドギア

制作:東北新社

VFX制作:オムニバス・ジャパン

配給:松竹

公式HP:patlabor-nextgeneration.com