企みがある映画に惹かれる... 押井守監督『THE NEXT GENERATION パトレイバー首都決戦』(3/4)

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前回はひとりの映画人として日本の若手監督に対する想いなどを語ってもらいました。今回は映画を観る側の立場として、どんな作品に惹かれるのかお聞きしました。

 

■シニア料金で映画館に入れるのはいいよね。

ーーーズバリ、監督が好きな映画って何ですか?

う~ん、困りますね(笑)。そういう質問はよくあるんだけど、正直、生きているうちに自分の価値観は変わるじゃないですか。なかなかコレと決めるのはあり得ないと思います。

 

 

ーーー確かにそうですね。では質問を変えて…普段映画自体はよく見るんですか?

そんなにいっぱい観てるわけじゃないけど、たまにね。映画館まで行って見ても騙されたと思うことも多いからテレビで見ることも多いし。ただ最近、シニア料金で映画館に入れるのはいいなと思いました(笑)。1000円で見られて飯食って帰れるっていう。

 

 

ーーー確かに料金によって見る気持ちも変わりますね

精神的に違うよね。寛容的になれるというか。そういった意味で今年の夏はけっこう見ましたよ。

 

 

 

 

■押井監督が脚本レベルの高さを認めた作品

ーーーこの夏はどんな作品を見たんですか?

『ジュラシック・ワールド』と『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』を見ました。

 

 

ーーーいかがでしたか?

『ターミネーター』は脚本が良くできてたね。年老いたシュワルツネッガーをどう活かすか? それに対して脚本がよく応えてたと思います。細かいシチュエーションとかセリフに至るまで全部それを意識して作られてた。“オールドタイプじゃないけどポンコツじゃねえぞ”っていう、まさにそういう映画だからね。それが見てて嫌味じゃないし、ある年代にとっては元気が出る映画だと思う。シリーズを再生させるっていうのはテーマだったから。まだまだやるんだこの人達っていうエネルギーを感じたね。再生のさせ方は強引だったけど、あれだけ複雑な話をよく出来たなという感じだった。

 

 

ーーー作り手のエネルギーが感じられる内容だったんですね。『ジュラシック・ワールド』はどうでした?

『ジュラシック・ワールド』にしても、無駄なキャラクターは一人も出て来なかった。それは脇役であっても。そこは向こうの映画の、商業映画としての脚本のレベルの高さを感じます。ちゃんと商業映画としてのテーマに見事に落とし込んでるっていうか。脚本で無駄なものはしっかり淘汰されてる。やっぱり海外ドラマとか観ても日本のドラマより数倍よく出来てるもんね。何が良いってやっぱり脚本が良いからだと思う。

 

 

 

 

■脚本に隠された企みが、見る者を惹きつける

ーーー2作品とも好感触だったようですが、あらためて、監督の思う良い映画とは?

1つは、よく出来た映画はスムーズに見られる分、すぐ忘れちゃうってことですね。帰り道を歩いている頃には忘れている。逆に問題が多かった映画はけっこう覚えているんです。

 

 

ーーー見終わったあとの爽快感というか…疑問が何も残らないのが良い映画だと?

でも、気になっちゃうんだけど良い映画もあるんです。それは何度でも見れます。僕は自宅に帰るとスターチャンネルとかサッカーしかあまり観ないんだけど、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』はかなり観ました。何だかわからないんだけど気になって…やってるとついつい見ちゃう。これは脚本を書いた人間が何か企んでるな。そういう匂いがするんです。

 

 

ーーーへえ~、それは気になりますね。

一応最後、その企みはこういうことなのかっていうのはわかったんだけど…そういう良い意味で『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』は惹きつけられました。ハリウッドの底力だね。あの作品はアメリカ人から見たらまた違うんだろうね。明らかに企んでる部分があったよ。

 

 

ーーーそれは、作り手が最初からそういう意識をしているものなんでしょうか?

元々、産業として大規模に何か企む余地を持ってる人が多くて、それがないと成立しないということだと思う。テーマ自体はシンプルなスーパーマン願望丸出しなんだけど、でも映画作ってる人間ってどこか屈折してるからさ(笑)。僕が映画を見る喜びっていうのはある意味その企みを暴くところにあるんだよね。

 

 

ーーーそこに気付けるようになると、映画の面白さももっと深まって行きそうですね

まあ、そういう映画はたいてい、脚本家かプロデューサーがたくらんでるんですけど、それがある映画は僕にとって面白い映画になるのかな。

(1/4)『パトレイバー首都決戦』押井守監督 カットした27分間

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■「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット」公開情報

*2015年10月10日(土)全国ロードショー

監督・脚本:押井 守

出演:筧 利夫、真野恵里菜、福士誠治、太田莉菜、千葉 繁、森カンナ、吉田鋼太郎、高島礼子

音楽:川井憲次

原作:ヘッドギア

制作:東北新社

VFX制作:オムニバス・ジャパン

配給:松竹

公式HP:patlabor-nextgeneration.com