なぜ人は恋に落ちてしまうのか? 新海誠監督『君の名は。』は...超絶おもしろい!

 

たったひとりでアニメーションを作った人がいる。しかも、その完成度は凄まじいレベルらしい。いまから14年前の2002年、エンタメ業界でそんな噂が駆け巡った。その人物は新海誠。ゲーム会社を脱サラして、ひとりアパートの一室に籠ってパソコン画面に向かい、ひたすら原画を書き、色を付け、編集して画を動かし、自ら主人公の声を演じて、完成した作品が「ほしのこえ」だった。

携帯メールが世の中に定着しはじめた当時、新海監督が描いたのは時空を超えた「届かないメッセージ」。宇宙空間で戦闘員として戦う彼女に向けて、地球から送ったメッセージは…彼女が地球から離れるごとにタイムラグが大きくなっていく。地球と宇宙で流れる時間が異なることで起こるドラマについては、古くは「浦島太郎」に描かれ、最近ではクリストファー・ノーラン監督「インター・ステラー」でも重要なモチーフになっている。つまり「時空を超えたすれ違い」は普遍的な題材だ。しかし、新海監督は過去作品のどれともとも違う視点で時空を描き、見る者はその世界観に魅了された。

新海節の特徴のひとつに、リアルな情景描写とリアルよりも輝く「光り」の演出が挙げられる。街の風景を撮影して、それを細かくトレースすることで表出するリアルな世界。しかし、その色彩は、実物と比べるとあまりに鮮やかで、幻想的な印象を見る者にあたえる。見たはずの風景なのに、見たことがない風景にしてしまう。

 

それから2〜4年のペースで長編、中編の作品を発表してきた新海監督は今回、東宝配給という超大作に挑んだ。プロデューサーは「バクマン。」「バケモノの子」「モテキ」などを手がけたヒットメーカー川村元気。音楽はRADWIMPS。映画「トイレのピエタ」に主演し独特な存在感を示していた野田洋次郎がボーカル/ギターを務める人気バンドだ。作画監督はスタジオジブリ出身で「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」を手がけた安藤雅司。キャラクターデザインは人気アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」で一躍注目を集めた田中将賀。まさにビック・プロジェクトの布陣。かつてアパートの一室で作品をコツコツと作り込んでいた新海監督は、優秀なスタッフと綿密なやりとりを通じて、新海節ともいうべき作家性を各部門に浸透させ、見事、その期待に応える一作を作り上げた。新海節として紹介してきた「時空を超えたすれ違い」「リアルな情景描写」は、もちろん健在だ。さらに今回、物語の中で、なぜ人は見たことのないハズの風景を懐かしく思うのか? なぜ人はふいに理由もなく涙が流れてしまうのか? なぜ人は恋に落ちてしまうのか? などなど…多くの人が経験しながらも、説明できない事象に、ひとつの答えを提示するという試みを加えている。それは新海監督の人間哲学の現れともいえるかもしれない。

 

Filmersでは、幸運なことに新海誠監督にインタビューする機会を得ることができた。すでに原稿は出来上がっているのだが、現在、絶賛、校正作業中だ。作業が終わり次第、随時、配信する。かなり読み応えのある記事に仕上がっているが…映画公開と、インタビュー記事が配信されるまでのあいだ、「君の名は。」の公式サイトや予告編、あるいは「君の名は。」の関連書籍などを楽しんでもらい、公開と配信を心待ちにしていただきたい。

(Filmers編集部)

【新海誠監督インタビュー(全4回)】

(1)「僕たちは可能性の直前にいる」それを全力で語れるような作品にしたいと思ったんです
(2)RADWIMPS/野田洋次郎さんに脚本をお渡しして3、4ヶ月後に「前前前世」が上がってきたんです
(3)『君の名は。』には、日本のアニメーションの文脈が豊かに含まれている

(4)強烈な「ロマンチック・ラブ」に憧れがあるんだと思います…

 

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