浅い価値観で生きる人と、はじかれ傷つく人がいる 『恋人たち』橋口亮輔監督(2/4)
誰もが「生きづらさ」を感じているいま、多くの観客から圧倒的な共感と支持を集めている橋口亮輔監督の最新作「恋人たち」。脚本を手がけた監督自身が「いままでで一番いい脚本が書けた」というように、胸の奥にしまいこんで表に出せない肉声に涙する人たちが続出しています。
二回目の配信となる今回は、「なぜ、生きづらいと感じる人たちが増えてしまったのか?」橋口さんの考察をご紹介します。
■浅い価値観で生きる人たち
———いま「格差社会」が広がって『恋人たち』の主人公のように“生きづらさ”を感じている方が増えている時代だと思うのですが…橋口さんは、「格差社会」という問題については、どのように感じていますか?
「格差」っていうのは昔からありましたからね…。バブルの頃から「明るいことは正しい」「暗いことは悪」…「ノリの悪いヤツはいじめられる」っていう時代でしたから。それが終わったあとは「勝ち組負け組」「負け犬の遠吠え」みたいなのがありましたよね。
———いまは相対的に「勝ち組」の割合が減っている時代なので、そういう層の人たちは悪目立ちしますね
勝っている側の“ステイタス感”みたいなものは、主人公のひとりで弁護士をやっている四ノ宮や、四ノ宮のもとに相談しに来る女子アナに込めたんです。
———なるほど、そうだったんですね!
あの女子アナは「え? だって女子アナって価値がありますよね?」「世間の人ってみんな女子アナって価値があると思っていますよね?」「え? そう思ってません? わたしのうしろには世間があるんですよぉ〜」という…浅っさい価値観を持っている人なんです。
———(笑)たしかにそういう人いますね
ある人は「女子アナがどうしたんだよ!」と思うし…ある人は、そこにもの凄い価値を置いてモノを言ったり、ある種の差別があったりしますよね。四ノ宮なんて常に上から目線で、そういう感じでしょ。「ボクは1時間いくら稼いでいるよ」とか、「レスポンスが早いです」とか…なんだよそれ、ただメールが早いだけじゃないか!ってね。なんか…そういう目に見えない“飾り”みたいなところで生きていて価値を感じている人がいて、そこからはじかれて傷つく人たちが確実にいて、そのあたりの気持ち悪い感じを四ノ宮のパートに臭わせたつもりなんです
■差別・区別するのが如実に現れてきた
———浅い価値観で生きる人たちに、はじかれちゃう人の数が増えているという感覚はありますか?
やっぱり増えているんじゃないですか。だってどこへ行っても…空港にいっても「なんとかラウンジ」とかいってね。このあいだUSJに行ったんですけど…USJもみんな2時間くらい並んでるんですよ、ハリーポッターに。でも、気を使ってもらって15分くらいで入れる券をもらったんです。でも、それって金じゃないですか。そうすると、そのときの爽快感ってあるワケですよ。2時間待っている人たちを横目で見ながら、サーっと通り過ぎていってっていうね。ボクたち早く入れるから…お金払ったから入れるんだよって行っちゃうことの優越感とかね。どこへ行ってもそうですよ。そうやってこう…あぁ、全部金かぁって思いますよね。そうやって常に差別していく、区別していくのが如実に現れてきましたよね。
橋口さんの言葉にドキッとした方、共感した方も多いのではないでしょうか?
次回は、3人いる主人公のひとり、アツシに橋梁点検という仕事を与えたのは何故なのか? その設定に込めた想いについてお話を伺っています。おたのしみに。
(1/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 いま日本で生きていくのは大変なことだ
(2/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 浅い価値観で生きる人と、そこからはじかれ傷つく人がいる
(3/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 やりきれない思いで働く主人公たち
(4/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 「いじめってマスコミが作っているんでしょ」という差別
■「恋人たち」公開情報
*2015年11月14日(土)全国ロードショー
原作・脚本・編集・監督:橋口亮輔
音楽:明星/Akeboshi
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー
主題歌:「Usual life_Special Ver.」明星/Akeboshi
配給:松竹ブロードキャスティング/アークフィルムズ
公式サイト:http://koibitotachi.com