いま日本で生きていくのは大変なことだ 『恋人たち』橋口亮輔監督(1/4)
映画『恋人たち』が11月14日(土)から全国公開され、「2015年の最高傑作!」などと観客の口コミが広がり、テアトル新宿では連日大入りが続いている。メガホンを取ったのは『ぐるりのこと。』(主演:木村多江、リリー・フランキー)から7年ぶりの長編作品となる橋口亮輔監督。
通り魔殺人事件で妻を失った男、愛情を感じられない夫と姑に黙々と仕える女、同性の恋人を持つエリート弁護士の男…三者三様の恋人たちの姿を通して描かれる物語は、観客の心に細かな擦り傷を作ってゆく。社会の底辺に溜まったオリをすくい取り丁寧に並べたような展開に、観客の心は少しづつヒリヒリと痛み出す。
長編デビュー作「二十才の微熱」(主演:袴田吉彦)以来、「渚のシンドバッド」(主演:岡田義徳、浜崎あゆみ、草野康太)、「ハッシュ!」(主演:田辺誠一、高橋和也、片岡礼子)と、橋口作品から一貫して感じるテーマは「マイノリティの叫び」「生きづらさ」です。それはまさに、いまの時代…誰もが感じている思いではないでしょうか。そこでFilmersは、橋口監督が感じている時代観についてお話を伺いました。
■いま日本で生きていくのは大変なことだ
———公開から2週間が経過しましたが、お客さんの反応はいかがですか?
いままで以上ですね。「感動しました」「泣きました」じゃなくて…「救われました!」というレベルの反応なんです。作る前は30代、40代の人が観るかなと思っていたんですが、若い世代から60代、70代まで…杖を付いているおばあさまが泣いていらっしゃったり…感想も深いところに届いているというのはいままで以上ですね。
———そうした反応を目の当たりにされて、どんなコトを感じますか?
お客さんの姿を見ていると、いま日本で生きていくというのは大変なことだと思いましたね。みなさん、この映画の主人公のように…言えないことをグッと堪えながら生きていらっしゃるんだなと…。作る前は、そういう方たちに届いたらいいなと思っていましたけど…ちゃんと届いていることを実感しています。もちろんみなさん、奥さんを通り魔に殺されたことはないけれど、息苦しさを感じているんじゃないかな。
———まさにいまの時代、橋口作品が求められているのかもしれませんね
いままで以上ということなんでしょうね。たぶん。ドンピシャだったんだと思います。震災があったり…公開初日(11月14日)は、フランスでテロがあったり…日本では法律が改正されたり…いったい、どこに向かうんだろう? という不安があるんじゃないでしょうか。
■いままでで一番いい脚本が書けた
———「恋人たち」のウェブサイトには、監督のインタビューが掲載されています。そのなかで「これまでで一番いい脚本になった」と答えていらっしゃいますね。たしかに感動的な作品だと思うのですが、監督としては、どのあたりに手応えを感じていらっしゃるのですか?
脚本の完成度が高いという意味ではなくて、ホントの肉声が書けたなと思ったんです。生活感のあるリアルな台詞が書けたという意味ではなくて…胸の奥にしまってある言葉が書けたなと思います。そういう意味でいままでで一番いい脚本が書けたと思ったんです。どうだ!これぞエンタメ作品っていう感じになったぜ!ということではないです。
テアトル新宿では、監督直筆の絵コンテや劇中に使われた小道具と並んで、草稿段階で書かれた脚本のメモ、手直しが施された撮影台本が展示されています。そこには劇中では出てこない台詞や、設定が書かれていて…見終わった後に、これらを観ると…もう一度、観たくなります。
次回は、さらに深く「格差社会」に対する橋口監督の考察をご紹介します。
(1/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 いま日本で生きていくのは大変なことだ
(2/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 浅い価値観で生きる人と、そこからはじかれ傷つく人がいる
(3/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 やりきれない思いで働く主人公たち
(4/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 「いじめってマスコミが作っているんでしょ」という差別
■「恋人たち」公開情報
*2015年11月14日(土)全国ロードショー
原作・脚本・編集・監督:橋口亮輔
音楽:明星/Akeboshi
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー
主題歌:「Usual life_Special Ver.」明星/Akeboshi
配給:松竹ブロードキャスティング/アークフィルムズ
公式サイト:http://koibitotachi.com