やりきれない思いで働く主人公たち 『恋人たち』橋口亮輔監督(3/4)

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橋口亮輔監督の最新作「恋人たち」には3人の主人公が登場します。その中でも特に中心的に描かれているアツシは、橋を支える柱の劣化状況をチェックする“橋梁点検”という仕事をしています。柱に耳を当ててハンマーを軽く打ち、その音で内部の状況を確認するという…どちらかといえばマイナーな仕事に込めた監督の想いについて、お話を伺いました。

 

 

■世界の音を聞いている

———主人公のひとり「アツシ」は通り魔殺人事件で妻を失い、そのショックから仕事も対人関係もうまくいかない人物として描かれています。その彼に橋梁点検という仕事をさせているのは、監督なりに何か特別な想いが込められているのでしょうか?

それほど大きくはないですが…まず、彼はオフィスワークはできないですよね。常に決まった時間に出社してネクタイをしめて、常に何人かがいてコミュニケーションを取らなければならない仕事はできない。辛すぎますよね。それでどうしようかって考えて橋梁点検だったんです。土木作業員とかだと、あまりおもしろくないですよね。

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———挫折を経験した主人公が土木作業員として働いているドラマはよく見ますよね

肉体労働をしていて…終わったら電車に乗って帰って…常に雑踏に囲まれているとかね。でも橋梁点検だと船に乗って常に風景が流れてたり、橋にハンマーを打ち付けてコンコンってやったり…土木作業員をやっているよりも映画的で映像に変化がありますから。

 

 

———橋にコンコンとやって耳を当てる行為は「作業」として当たり前のコトなんでしょうが、スクリーンで観ると色々な意味合いやメッセージが伝わってきます

気持ちとしては“世界の音を聞いている”っていう感じなんですが…それほど深く突っ込んで描きませんでした。でも、スタイリッシュな方は多分ね…スローかなにかにして(笑)コーンとか音を際立たせたり、カットを細かく割るんでしょうけど、あまりそこを映像的に立たせても他のエピソードに馴染まないので、なるべく平坦にやりました。

 

 

———淡々と描かれていることで主人公の心情がグッと迫ってくる感じもありました

アツシにしてみたら、毎日ああいうことやっていて、周りから見たら何をやっているのか分からないけれど…音の感触だけで、奥の鉄骨がどの程度さびているって分かるわけですよね。不器用で自分の気持ちを伝えられない人だけど、とても細かいところまでわかるわけですよね。アツシにしてみたら人間も、コンと叩けば「あ、こいつ堕落している」とか…「ウソを付いているな」とか…「人を殺すな」とか分かったら、どんなにか良かろうと…それが分かったらあいつ死なずに済んだのになぁと…。アツシは、そんなやりきれない思いで働いているのではないでしょうか?

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■マイナーな仕事を発見したキッカケは?

———ちなみに、橋梁点検というお仕事を発見したキッカケは?

テレビです。営団地下鉄(現:東京メトロ)の方が音だけで点検する姿を紹介していたんです。人目に付かない仕事なんだけど、すごい技術でやっている。世界でそんなことをやっている人いないワケでしょ。法廷画家もそうですよ。たまたまテレビのバラエティで見たんです。

 

———ああ! それが「ぐるりのこと。」につながったんですね!

(*編注:リリー・フランキーさん演じる主人公は法廷画家をしています)

 

 

 

■感じる人が感じてくれたらいい

———橋という巨大なモノ支える柱は、社会を支える存在とも取れますよね。でも、場所としては、まさに“縁の下”というか…底辺にある存在です。そこを点検する主人公・アツシの姿は、表に出てこない社会の内面すべてを知る男のようにも見えます

意味を取ろうとすれば、それは少しは被せましたよ。戦後、高度成長期に差し掛かろうという時に東京オリンピックがあって、突貫工事で作って…それが何十年も経って、日本の発展の象徴だったモノが中はボロボロだというね。それをダマしダマしやって、どこが悪いか検査して修復してという仕事をしている…いわば日本を守っているような仕事をしているアツシがボロボロになっているという皮肉はね、少しは被せました。

 

———なんだか、あらためて伺うと更に悲しさが増します

でも、その意味が立ちすぎると嫌らしいじゃないですか。この映画は凄いテーマを持っているんだよとか…そこのテーマの立たせ方はさじ加減ですよね。感じる人が感じてくれたら良いと思っています。

 

 

 

次回はいよいよ最終回。「恋人たち」を観ていて感じる“生きづらさ”。その原因の一端となっている“差別意識”についてお話を伺いました。

(1/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 いま日本で生きていくのは大変なことだ

(2/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 浅い価値観で生きる人と、そこからはじかれ傷つく人がいる

(3/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 やりきれない思いで働く主人公たち

(4/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 「いじめってマスコミが作っているんでしょ」という差別

 

 

■「恋人たち」公開情報

*2015年11月14日(土)全国ロードショー

原作・脚本・編集・監督:橋口亮輔

音楽:明星/Akeboshi

出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー

主題歌:「Usual life_Special Ver.」明星/Akeboshi

配給:松竹ブロードキャスティング/アークフィルムズ

公式サイト:http://koibitotachi.com

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