「いじめってマスコミが作っているんでしょ」という差別 『恋人たち』橋口亮輔監督(4/4)
■「いじめってマスコミが作っているんでしょ」という言葉に込められた差別感情
———社会の構造でいうと…主人公のひとりで弁護士をしている四ノ宮が骨折して、密かに想いを寄せる親友が奥さんと子どもを連れて病室を訪ねるシーンも印象的でした。あのシーンで親友の奥さんが「いじめってマスコミが作っているんでしょ」と四ノ宮に語りますよね。あの台詞の中には、奥さんの差別意識が現れていると監督は「恋人たち」のウェブサイトで語っていますが…あの言葉に込められた“差別感情”について、詳しく教えていただけますか?
あれは実話なんです。ある某有名中学校の40代くらいの女性の先生が真顔で言いましたよ、「いじめってマスコミが作ってるんでしょぉ〜〜」って。なに言ってんだこの人?って思いましたけど…。つまり、いじめはあるのかもしれないけど、そういうコトをやってるのは下々(しもじも)の方々の世界のコトで…そんなコト無いですよぉ〜〜って。
———なるほどぉ
わたしたちには想像も付かないことでマスコミが煽っているだけでしょって…自分たちが属している世界では、そんなことやる人いませんよって…常識も知性もあるし…っていう感じじゃないですか。でも、あることを見ないっていう姿勢ですもんね。うーん・・・
———そういうコトを言う人と、分かり合うことって出来ないものでしょうか?
できないです。すべてではないと思いますけど…よく、ドラマや映画のように違う価値観同士の人間があることをキッカケに心が開きあって、そこにカタルシスがあるんだと思いますが…それってね、ドラマだけの世界だと思います。現実は難しいと思いますね。無いとは言いませんよ。あったら良いなと想いますけど…。
■自分自身を突き詰めるストレスに耐えられない人が多い
———ニュース番組で障害を持っている方やLGBT、貧困問題など、社会的弱者/マイノリティの方々が直面している問題を取り上げると…「出た!弱者人権!」という酷いメッセージが寄せられてゾッととすることがあると番組スタッフから聞いたことがあります
善意とか優しさに対するアレルギーみたいなものがあるんじゃないですか? 自分の中にある優しさを突きつけられて「お前はどの程度の人間なんだ」って問い詰められることって、その人にとってはものすごいストレスですよ。
———それは、体力要りますよね
いま体力が無い人が世の中に多いんだと思うんですよ。つまり、そのストレスに耐えられない。「お前はいったい、どういう人間なんだ!?」「君の中の善意はどの程度の強度なんだ?」って…それって自分との戦いじゃないですか。でも体力がないから、みんな、突き詰められないですよね。自分ごととして考えるって体力がいるから…そっか、自分は分かっていなかった、自分はここまで浅い人間って分かってなかったって…っていうことを自分の中で消化しないといけないから。それはもう、耐えられないですよ。
———余裕が無いとも言えますね
昔、イラクで日本人3人が捕まったでしょ。その時、凄いバッシングがあったじゃないですか。あれも、ストレスになるんですよ、見ている人にとって。「助かって欲しい!」って思いますよね、まず。でも、どうなるか分からないってなると「ウワァ」ってなって…イライラしてくるんですよ。「なんでそもそも、あんなところへ行ったんだよ、捕まりやがって」って悪意になるんですよ。助かって欲しいはずなのに。それでワケもわからず「自業自得だ、へへへ」って変わってしまう。そういうふうにストレスに耐える体力が無いだけだと思いますね。
時代を深く鋭く考察し、これ以上ないというレベルのリアリティで“生きづらさ”をフィルムに焼き付けることに成功した橋口監督の最新作「恋人たち」。どうしようもない状況に追いつめられる3人の主人公ですが…ラスト、ほのかな救いの光が差しています。ぜひ、劇場でその“救い”をご覧になってみてください。ぶっちゃけ…オススメです。
(1/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 いま日本で生きていくのは大変なことだ
(2/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 浅い価値観で生きる人と、そこからはじかれ傷つく人がいる
(3/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 やりきれない思いで働く主人公たち
(4/4)『恋人たち』橋口亮輔監督 「いじめってマスコミが作っているんでしょ」という差別
■「恋人たち」公開情報
*2015年11月14日(土)全国ロードショー
原作・脚本・編集・監督:橋口亮輔
音楽:明星/Akeboshi
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー
主題歌:「Usual life_Special Ver.」明星/Akeboshi
配給:松竹ブロードキャスティング/アークフィルムズ
公式サイト:http://koibitotachi.com