ボクにとって映画は拡声器 『ブランカとギター弾き』長谷井宏紀監督インタビュー
ほとんどのものがお金で買える今、「母親を買うことは可能なのか」という疑問から生まれたこの映画。主人公のブランカは、窃盗や物乞いをして暮らしていく中、盲人のギター弾きピーターと出会い、他者を思いやる心を学んでいきます。エミール・クストリッツァ監督に「強く心に響き、私を幸せにした。なんて美しい映画だろう!」と言わしめた今作。ストリートチルドレンの過酷な現実を捉えながらも、鑑賞後は温かい気持ちに包まれます。
インタビュー最終回では、映画に込めた思いを伺いました。
■僕にとっての映画は「拡声器」の意味もある
-映画を拝見し、「これだけは撮らなければいけない」という情熱を持って臨まれたことを感じました。
そう、これはやっぱり表現したいというか。僕にとっての映画は「拡声器」という装置的な意味もあって。声にできないものを抱えている人達も多くいるので、それを映画というツールを使って、世界に拡げるっていう。でもそれはネガティブなものではなく、前向きなもので。
僕らは自分の生活が大事じゃないですか。それも大切なことなんだけど、それぞれ忙しい自分の生活があって、路上で生きている彼らを気にしている時間は、ふだんはとても持てない。社会の仕組みの中で、切り捨てられがちなものっていっぱいあると思うんですけど、とくに路上の子供たちって、声が出せない。出す前に差別されちゃっているから。そこを僕はやっぱり出したかったというのはあります。
■映画ってシンクロするんですよ
-ところで、この映画のストーリーを聞いたピーターが「俺、知ってるよこの話」と言ったという、不思議な逸話があるそうですね。
そう、「だいたい知ってるよ」って言ってましたね。
-ギターを弾いていたら女の子が現れて横で歌い始めて、一緒に歌うことになり、バーのステージに上ることになり、ある夫婦がその子を養子にして…と、映画とほぼ同じ経験があるのだとか。
分かんないですけど、映画ってシンクロするんですよ。作っている人の中にも気付いていない人もいると思うけど、シンクロしてるはず。これは「君、大丈夫?」って言われるかもしれないけど(笑)。
-それはデジャヴのようなもの?
と言うより、自分が何かを表現したいと思って、何かに意識的に集中して物語を書くわけですよ。そうすると、僕がそこに呼ばれるのか、向こうが近づいてくるのかは分からないけど、そういうことになってくるんですよね、不思議なことに。
で、それぞれの生活を持った人たちが、その力を持ち寄って、映画の撮影現場に来るわけです。そこではあくまで架空の話をみんなで作っているんですけど、その架空の話を作っている間も、みんなのライフ(生活)は進んでいくわけです。すると、シンクロするんですよ。不思議なんですけど。
-にわかには信じがたい不思議な話ですが、ありそうな気もしてきました…。
絶対にそうなるんですよ。だからあまり怖い物語は書きたくないんです(笑)。映画って、そのエナジーを映すと、スクリーンから出たエナジーを観た人たちが吸収して持って帰っちゃうんだと思う。で、そのあと誰かに伝染するんだと思う。エミールの映画には、何かを祝福してる部分があるじゃないですか。やっぱりああいう感じって大事だなと思うし。この映画は作ってても最高に楽しかった。
そして、この映画を観た人たちは「あったかい気持ちになった」って言ってくれる。そのあたたかいものが他の人に伝染したら、それはいいことじゃないですか。だから僕は、今後もできたらそういう物語を作って行きたいですね。
【インタビュー全4回 】
(1)お前、なんか面白いから旅についておいでよ
(2)ニワトリを買うから泊めて!
(3)盲目のギター弾き ピーターとの出会い
(4)ボクにとって映画は拡声器
『ブランカとギター弾き』公開情報
2017年7月29日(土)シネスイッチ銀座他にて全国順次公開
監督・脚本:長谷井宏紀
製作:フラミニオ・ザドラ(ファティ・アキン監督『ソウル・キッチン』)
撮影:大西健之
音楽:アスカ・マツミヤ(スパイク・ジョーンズ監督短編『アイム・ヒア』)
出演:サイデル・ガブテロ / ピーター・ミラリ / ジョマル・ビスヨ / レイモンド・カマチョ