盲目のギター弾き ピーターとの出会い 『ブランカとギター弾き』長谷井宏紀監督インタビュー
この映画では、キャスティングのほとんどを路上で行っています。盲目のギター弾き役ピーターも、路上で出会った人物の一人。長谷井監督が以前、短編を撮影したとき、マニラの地下道で演奏する彼と出会い魅了され、今作の脚本もピーターのことを考えながら書いたのだとか。
ピーターは残念ながら、ヴェネツィア国際映画祭の上映後ほどなく亡くなってしまいますが、彼がクランクアップ前に書いてくれた手紙を、長谷井監督は映画祭に行く時にはいつもポケットに入れているそうです。
インタビュー第3回では、この作品のキーマンとなったピーターについて伺いました。
■困っている人に、自分のギャラをあげてしまったピーター
-盲目のギター弾き役のピーターには、出会ってから惚れ込んで出演してもらったそうですね。
そうですね。彼には「それは俺にできないな」と本当に思った出来事があって。フィリピンは、スタッフのギャラを一日ずつ払っていくんです。だからセバスチャン一家は、撮影が進むにつれて、家族ごとどんどんいい服に変わっていっていて(笑)。でもピーターは服装も何もかも相変わらずで。
で、最終日に、フィリピンクルーがビックリしてのけぞってたのでどうしたのか聞いたら、最初は「いや、言えない…」って言ってたんだけど、どうやらピーターが、5000円しか持ってないって。
-えっ、ギャラはどこへ?
「あげちゃった」って。困ってる人や親戚に、自分のギャラをあげちゃってるんだよね。だから、自分の暮らしを守るってことに、あんまり興味がないんだなって。「もっとみんなで楽しもうよ」ってところにしか興味のなかった人生だったのかもしれないなって、それ最高だなって思いました。
-そんな人と一緒にひとつの作品を作れたということは、気持ちを共有できる部分もあったんですね。
そうですね。ピーターは生涯フィリピンから出たこともなかったし、異国の地を踏んだこともなかったけど、この映画で旅をしているから。この映画を通じて、ピーターのことをみんな観てくれてるよって思うし。
-ストリートで生き抜いてきて裕福ではないハズなのに、人のことを思いやる部分も持ち続けているなんて、素敵な人ですね。
まあ、あと、モテたらしいからね(笑)。最後は二番目の奥さんという人が一緒にいて。その奥さんは片目が見えなくて、だから2人で1つの目で動いてたんだね。
-それもまた映画のようなお話ですね。
それにピーターは、撮影中にセリフを一度もトチったことがないんだよね。全部完璧に来るからすごいなって。
【インタビュー全4回 】
(1)お前、なんか面白いから旅についておいでよ
(2)ニワトリを買うから泊めて!
(3)盲目のギター弾き ピーターとの出会い
(4)ボクにとって映画は拡声器(7/28配信)
『ブランカとギター弾き』公開情報
2017年7月29日(土)シネスイッチ銀座他にて全国順次公開
監督・脚本:長谷井宏紀
製作:フラミニオ・ザドラ(ファティ・アキン監督『ソウル・キッチン』)
撮影:大西健之
音楽:アスカ・マツミヤ(スパイク・ジョーンズ監督短編『アイム・ヒア』)
出演:サイデル・ガブテロ / ピーター・ミラリ / ジョマル・ビスヨ / レイモンド・カマチョ