お前、なんか面白いから旅についておいでよ 『ブランカとギター弾き』長谷井宏紀監督が結んできた絆の話

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舞台はフィリピン・マニラのスラム街。窃盗や物乞いなどをしながら路上で暮らす孤児の少女ブランカは“お母さんをお金で買うこと”を思いつく。そんなある日、盲目のギター弾きピーターと出会い、得意の歌でお金を稼ぐことを教わる。ブランカの歌声は人々を魅了し…レストランで歌う仕事を得るなど、計画は順調に運ぶように見えた。ところが…彼女の身には思いもよらない危険が迫っていた――

 

カンヌ国際映画祭でパルムドールを2度受賞している巨匠エミール・クストリッツァに認められた長谷井宏紀監督が、日本人として初めて、ヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画際の全額出資を得て製作された『ブランカとギター弾き』。

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第72回ヴェネツィア映画祭では、マジックランタン賞、ソッリーゾ・ディベルソ賞を受賞。さらに各国の映画祭で受賞を重ね、大きな評判を得ています。世界を旅しながらカメラマンとしても活動してきた長谷井宏紀監督。長編第1作目ということもあり、まずは監督について知りたいという人も多いのでは? インタビュー第1回では、まずは監督が作品を作るまでを振り返っていただきました。

 

 

■エミールは今まで会った人の中でも特にムチャクチャな人(笑)

 

-まずは長谷井宏紀監督ご自身のこれまでの活動について教えいただきたいのですが、カメラマンとして活動をされて来られたのですか?

まあ、そうですね。ファッション系の仕事をやったり、PVを作ったり。そのPVはこれまで3つぐらいだけで、基本的に出会った人としかやったことはないです。

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長谷井監督が撮影を担当したNHK土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」のビジュアルブック

THE LONG GOODBYE』

 

-この映画自体も、そういった“出会い”を経て製作に繋がったのだとか。まずはエミール・クストリッツァ監督が所属するバンド「ノー・スモーキング・オーケストラ」のツアーに、カメラマンとして同行したことがキッカケだそうですね。

そうですね。まずは韓国でボーカルのネレと出会って、飲んでたりして「なんかお前、面白いな」って。そこから日本に来た時にライブを撮影させてもらったりしてるうちに、「フランスツアーがあるけど、費用はこっちで出すからコーキ(宏紀)に来て欲しい」と誘ってもらって。ある時、エミールに僕が以前撮った短編を見せたら「素晴らしい」と言われて、そこから彼の村に滞在することになって。2年間、住むところも食べるものも全部、面倒を見てもらいました。

 

-その村は、クストリッツァ監督が土地を買って丸ごと作り上げた「クステンドルフ」ですよね。そこには他にもアーティストが滞在していた?

いや、もう観光用の場所という感じで、コテージが50ぐらいあって、来るのは観光客とクストリッツァファン。アーティストとして滞在していたのは僕ぐらいかな。僕はそこでセルビア正教の洗礼も受けていて、彼は僕のゴッドファーザーでもあるんですよ。エミールはもう、発想もパワーもすごいし、今まで会った人の中でも特にムチャクチャな人ですね(笑)。

 

 

■題材をフィリピンのストリートチルドレンにしたワケ

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-その村でクストリッツァ監督の作品『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』のプロデューサー/カール・バウハウトナーと出会い、製作が始まった。ところが、彼が亡くなったことにより、一度頓挫されていますね。

そうなんです。

 

-その後イタリアのプロデューサーと製作を再開し、ヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネチア国際映画祭の全額出資を得ることになります。そこでのワークショプはどのようなことをされたのですか?

チームに分かれて、脚本のブラッシュアップとかをその場でどんどんやっていくんです。

 

-そこでグランプリを獲得した決め手は何だと思いますか?

…やる気かな(笑)? 

 

-「フィリピンのストリートチルドレン」という題材は、絶対に譲れないところだった?

そうですね。最初にフィリピンに通っていた時に、「いつか映画を撮ろうね」と子供たちと約束した手前もあるし、「言っちゃったらやんなきゃね」というか、そこは大事にしなきゃいけないかなっていうのが、自分の中ではあったから。その子供たちのうち2人は、この作品に小さい役で出ていますね。10年以上かかったから、長かったけど(笑)。

 

【インタビュー全4回 】
(1)お前、なんか面白いから旅についておいでよ
(2)ニワトリを買うから泊めて!
(3)盲目のギター弾き ピーターとの出会い
(4)ボクにとって映画は拡声器(7/28配信)

 

 

『ブランカとギター弾き』公開情報

2017年7月29日(土)シネスイッチ銀座他にて全国順次公開

監督・脚本:長谷井宏紀

製作:フラミニオ・ザドラ(ファティ・アキン監督『ソウル・キッチン』) 

撮影:大西健之

音楽:アスカ・マツミヤ(スパイク・ジョーンズ監督短編『アイム・ヒア』)

出演:サイデル・ガブテロ / ピーター・ミラリ / ジョマル・ビスヨ / レイモンド・カマチョ

公式HP:http://www.transformer.co.jp/m/blanka/

 

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