自分を解放できる場所を見つけると救われる『きみはいい子』呉美保監督
ご自身の出産、子育ての経験の中、いま作品について思う心境の変化について語られた前回のインタビュー。今回は、連日世間で報道される「虐待」「育児放棄」のニュースなどについて、監督はどのようなことを感じているのかお聞きしました!
■虐待を告白することで自分も救われる…そんな社会であって欲しい
―――「虐待」「育児放棄」についての話題が連日ニュースでも報道されていますが、監督はどんな想いで見ていらっしゃいますか?
最近も「育児放棄」に関するニュースがありましたね。それを見たとき、その親の責任はもちろんあるし、育児放棄は絶対ダメなことだとは思います。ただ、その一方で、そこまで母親が追いつめられる前に、助けになってあげられる人が周りにいなかったんだろうかと思うんですよね。
―――周りからのアプローチが必要ということですね
周りといっても、苦しんでいる人に気づいていくのは、なかなか難しいことですよね。どうにかして、問題を抱えている本人からも、助けを求められるといいのですが……。
―――自分から言うことは勇気がいりそうです
確かに、人はそれぞれ違うので、自分からは言えないって人も沢山いると思います。まして我が子に手を挙げていたら自ら言うなんて、できるわけがないと。でも、もしもそれを言うことで、子どもだけでなく、自分も救われるんだということを教えてもらえるなら……、そんな環境作りを社会がしなければならないですよね。
■自分が行きて行くのに必死だったのかな…
―――報道されている「育児放棄」のニュースは年齢的に若い母親というケースが多いですが、その辺りについてはどう思われますか?
先日の報道では、内縁の夫と一緒に虐待をしていたという20歳ぐらいの母親のニュースがありました。もちろん「虐待」や「育児放棄」はダメですが、その母親も若くて人生経験が浅い中、自分が生きていくのに必死だったのかなとも思います。
―――母親自身も苦しんでいた?
経済的に、精神的に、日々を生きるためには、その内縁の夫になんとか頼らざるを得ない。嫌われないように、捨てられないように、そのためだったら何でもする。それがエスカレートして我が子ですら傷つけてしまう。まともな精神状態じゃなかったのかもしれません。
―――そう聞くと、母親のことを一概に攻めることはできないですね
その母親の行動を馬鹿と言うのは簡単なんですが、その状況はいつでもだれにでも起こりうることだと思うんです。人が正気をなくす瞬間に気づいてあげられる環境が近くにあれば、その母親も「助けて」と言えると思うんです。
―――確かに最初から好きで「虐待」をしようと思う人はいないですよね
その母親の精神状態はおそらく、極限状態だったと思うんです。私自身も、頭の中で我が子に熱湯をかける行為を想像してみましたが、震えました。絶対にしないです。だけど一方で、自分がもしも今あるサポートをすべて失い、生きるか死ぬかの瀬戸際におかれたとしたら、もしかしたら我が子を邪魔に感じるかもしれない。そうなると、絶対にしないと思っていた「虐待」を起こしてしまう、かもしれない。
―――本当は子どもを大事に育てていきたいと思っているからこそ、重荷に感じてしまうんですね
そういった精神状態の境界線はすごく気になるし、映画の製作を通しても、その部分は特に考えるようになりました。
■貧困とは違う面でも追いつめられている
―――作品の中では、他のママ友の目を気にして、子どもの身だしなみや躾に必要以上に厳しくなってしまうというようなところも印象的でした
確かに、生活水準が低くて追いつめられるのとは違う、しつけと称した「虐待」もありますね。そういう母親は、子どもの頃、やはり同じように育てられたのではと。尾野さん演じる雅美も、おそらく母親から“ちゃんとしなさい”と「虐待」をされて育った人なんだろうと。
―――それを救ったのが同じ境遇を持った友人でしたね
そういう価値観の中で育ってしまった事実は変えられないけれど、その後の人生で、他の考えを持つ人に出会ったり、自分を解放できる居場所を見つけられると、救われるんですよね。その存在が池脇さん演じる陽子だったのかなと思います。
―――それを聞くと人の出会いというのは本当に大事ですね
■「きみはいい子」
*2016年1月20日(水)Blu-ray&DVD発売
監督:呉美保
脚本:高田亮
原作:中脇初枝 「きみはいい子」(ポプラ社刊)
出演:高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、高橋和也、富田靖子
配給:アークエンタテインメント
公式サイト:http://iiko-movie.com/index.html