『散歩する侵略者』黒沢清監督は原作のどこに惹かれたのか?
(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
—小説版を読まれたときに、とても映画っぽい物語だと思われたと伺ったのですが…監督にとって映画っぽい物語というのは具体的にどういうお話なのでしょうか?
黒沢
映画の物語は常に現在進行形で語られます。小説では過去こそが重要という物語でも十分面白いのですが、映画にとって過去は説明でしかない。その先どうなるの? というのが観客の素直な欲望だと思っています。その点前川さんの原作は、ぐいぐいと先に先に進んでいくっていう点が魅力でした。これは演劇がまずあってそこから小説にされたということが大きいのでしょう。そして、意外とコンパクトという点も嬉しかったですね。宇宙人の侵略であるにもかかわらず、登場人物はメインとなるのは数人で、場所も“小さな町”のあっちとこっち、みたいな。日本全国、世界中とかなると文字には書けても日本で映画化するのは不可能です。もちろんアニメにしてしまえば可能なのですが。
—脚色は監督と田中幸子さんと共同でされたそうですが…どのような作業を経て脚本にされたのでしょう?
黒沢
随分、長くいろいろやったので単純に言うことは難しいんですけれど…田中幸子は僕が大学で教えた学生で結構信頼もおけますし、やりやすい人でもあったので。僕がまずプロットを書いて彼女がそれを脚本にしてとかいろいろ流れがありました。ざっくり言うと、鳴海と真治による夫婦の物語は彼女(田中さん)。桜井側のジャーナリストがだんだん侵略に気づいていくっていうのが僕(黒沢監督)。まあ、それぞれの得意分野を脚色していったという感じでしょうか。
(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
—夫が帰ってきて、帰ってくるとなにか異形なものになっているっていうようなのは「岸辺の旅」と重なりますね
一同 笑
黒沢
偶然なんですよ。これ(『散歩する侵略者』)のほうが前にあったんです。これは10年近い7〜8年くらい前からやりたいなとずっと思っていました。『岸辺の旅』はもうちょっと新しいです。プロデューサーが「この小説、黒沢さんに向いているんじゃないですか?」って紹介してくれたんです。…そういう奇妙な夫婦ものが得意だって思われてるんですかねぇ。
一同 笑
黒沢
確かにその通りで、僕はどちらかというと、もともとあった関係が壊れてとか、歪んでしまって新たに関係を作り直すとかいう方が、たぶん得意です。偶然出会った者どうしが惹かれていくラブストーリーは苦手です。
【監督 黒沢清 × 原作 前川知大インタビュー(全4回) 】
(1)原作にない侵略シーンを映像化したい!
(2)黒沢清監督は原作のどこに惹かれたのか?
(3)監督 黒沢清 × 原作 前川知大が共感する笑いのメソッド
(4)奪われたくない「概念」は何ですか?
『散歩する侵略者』公開情報
2017年9月9日(土)新宿ピカデリー他にて全国公開
監督:黒沢清
原作:前川知大「散歩する侵略」
脚本:田中幸子 黒沢清
出演:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己