「いいじゃん別に、そんなに急がなくても」『彼女の人生は間違いじゃない』廣木隆一監督インタビュー
区役所に勤めながら、言葉にできない衝動に突き動かされてデリヘル嬢として働く主人公みゆき(瀧内公美)、保証金をパチンコにつぎ込み、酒を飲みながら死んだ妻の話ばかりする父(光石研)、県外からの大学生にあの日のことを尋ねられ、言葉に詰まる市役所の同僚(柄本時生)。
映画というひとつの物語でありながらも、現場で実際に聞いたエピソードも盛り込み、今の福島の記録としての側面も持つ『彼女の人生は間違いじゃない』。インタビュー第4回では、廣木監督がこの作品に込めた思いを伺います。
■今の日本のスピードは速すぎる
-作品を拝見して、人々が日常を送る中で急に直面したできごとだったのだと、改めて思わされました。
なんだか今の日本って、すごく速くて。(東日本大震災から)5年なんですよ。5年という時間の間に、一生懸命道路なんかを整備したり、すごい速さじゃないですか。でも「じゃあ僕たちの気持ちはどこにあるの」っていう感じもするんですよね。どんどん置いてきぼりになっている。
どんどん道はきれいになります、家は建て直しますっていうのがある中で、僕なんかは「ちょっと待って」っていうふうに思っていて。もうちょっとゆっくり考えて生きようというか、もう少しゆっくりしてもいいんじゃないかって思っているのが、いちばん大きいですね。
-確かに、駆り立てられるように元気になろうとしている風潮はあります。
それは福島だけじゃなくて、僕は日本全体だと思います。「ここまで復興しました!」ってやるじゃないですか。生活があるしライフラインの問題とかあるから、必要なんでしょうけど、なんか、一生懸命片付けて、そういったことだけがどんどん進んでいくというのが、ちょっとおかしいんじゃないっていう。
-そこで生活する人の気持ちに寄り添った映画だと感じました。主人公の行動には一般的には良しとされない行動もありますが、それをひっくるめて否定はしないという気持ちが、タイトルにも込められているように思えます。
ああ、そうですね。
-タイトルに込めた気持ちを改めて教えてください。
「彼女の人生は間違いじゃない」って言うとちょっと高飛車で、お前が決めんなよっていうのはあるじゃないですか。だから最初、それはすごく迷ったんですけど。この“彼女”っていうのは特定の彼女じゃなくて。何かが起きたあとの5年の生活の中で、「もう癒やされました」とか、「希望に向かって生きていきます」ということだけではないだろうと。
5年の歳月ってそんなに長くもないし、かといって短くもない。その中で、いろんな人がいてもいいんじゃないっていうことで、つけさせてもらいました。いろいろ迷っている人がいてもいいだろうし。「どんどん再生して、頑張るんだ!」ということに対して、自分の中ではなんだか腑に落ちないというのはあったので。
-全員がそうではないし、歩くスピードはそれぞれだと。
そうです。みんな違っていいしね。
■いいじゃん別に、そんなに急がなくても
-では最後に、作品の見どころをお願いします。
この映画全体を観てもらって、今の生活とか、その社会全体の何かということに、何か勇気じゃないけど、ほっとしてほしいというか、「いいじゃん別に、そんなに急がなくても」と思ってもらえるといいかなと。そうしてもらえると、人間のぬくもりとか…って、ホント嫌な言葉だね(笑)。人間らしい映画なので、この忙しい日常の中で、そこにふれあってもらえるといいかなと思います。
-女性としては主人公の行動に胸が痛くなる半面、ある意味それでいいんだと癒やされる部分もありました。
まあ、何かいろんなことを思ってもらえる映画になっていると思うから。子供がいる人は子供が心配になる人もいると思うし、親のことが心配になる人もいると思うし。でも、それぞれにいろんなことを思ってくれたらいいなと思います。福島の風景もめちゃめちゃきれいなので、ぜひ、それも見てもらえれば。
【インタビュー全4回 】
(1)震災直後の衝動が原作小説に結実!
(2)社会って"普通"でない人たちの集まり
(3)週1回 東京でデリヘルする彼女の気持ち
(4)「いいじゃん別に、そんなに急がなくても」
■『彼女の人生は間違いじゃない』公開情報
2017年7月15日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:廣木隆一
脚本:加藤正人
原作:廣木隆一「彼女の人生は間違いじゃない」河出書房新社
出演:瀧内公美 高良健吾 柄本時生/光石研
戸田昌宏 安藤玉恵 波岡一喜 麿赤兒/蓮佛美沙子
小篠恵奈 篠原篤 毎熊克哉 趣里
公式サイト:http://gaga.ne.jp/kanojo/