社会って"普通"でない人たちの集まり『彼女の人生は間違いじゃない』廣木隆一監督インタビュー

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主人公・みゆきがデリヘル嬢として働くシーン以外、撮影はすべて福島で行われた本作。小説を書き終え、5年ぶりに福島県いわき市を訪れた監督は、5年前と全く違う風景にショックを受けたといいます。劇中には、原作小説にとらわれず、ロケハンや撮影中に実際に聞いた新たなエピソードが多く反映されている。「今の福島の姿」を描くことにこだわった廣木監督の伝えたかったこととは?

 

 

■福島ロケの現場で聞いた実際のエピソードが盛り込まれている

 

-福島のシーンでは「帰還困難区域」の映像も盛り込まれています。そこも実際に撮影に行かれたのですか?

そうです。あれも時間制限があるんですが、入れるんですよ。僕らも全員、白い防護服を全部着て行って、帰ってきたら線量を調べるんです。レントゲンの何分の一ぐらいのことなので、たいしたことはなくて。ただ、女性スタッフだけは希望者だけにして、何があってもいいオッサンだけで行ってきましたけどね(笑)。

 

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光石さんのシーンを撮影した場所は、入ってもいい場所です。地震のあとに家が壊れたりしていて、放射能も怖いからと、ほかのところに引っ越してもう戻ってこない人もいる。そういう場所がいっぱいあるんです。今回は、協力してくれた人がいわきに住んでいる人で、その人の知り合いの家を借りているんです。

 

-作品中に出てくるエピソードは、福島のロケで実際に聞いた話から盛り込まれたそうですね。ロケハンや撮影中に、地元の方にお話を聞かれたのでしょうか?

そうですね。この作品を手伝ってくれた人の中にもいわきの方たちが何人もいるし、市役所の観光課のFC(フィルム・コミッション=映画などの撮影支援をする機関)の人たちにも会っているし、そういう人たちの話が、自然に聞こえてくるので。

 

でも脚本を書く時は、脚本をお願いした加藤正人にロケハンに同行してもらって参考にしてもらってます。たとえば(立入禁止区域にある)お墓のこととか、前回の取材で耳にしたことを小説にしただけなので。映画では、手伝ってくれたいわきの人たちと話を中心で、(原作を)どんどん変えていったという感じですね。

 

-劇中に出てきた壺を売る霊感商法なども、実際にあったことなのでしょうか?

いや、どうなんでしょうね。まあ、いまどき“線量が下がります”っていう壺なんて、どうか分からないですけどね(笑)。でも宗教的なものとか、そういう詐欺みたいな人はいっぱい入って来たというのは、たくさん聞きましたね。

 

-卒論のために他県からやってくる大学生など、実際のエピソードを使うことで、普通の人が突然、社会的使命を負わされたような感覚がより伝わるように思えます。それまでの生活がある日奪われることの重さを実感しました。

日常が日常じゃなくなってしまって「ある日、一変する」ということは、やっぱりけっこうストレスもあります。人間は適応能力というものを持っているとは思うんですが、それでも変わり過ぎだろうっていうのもあるし。

 

 

■デリヘル勤めは、あり得ない行動か? 

 

-主人公の金沢みゆきは市役所に務める普通の女性ですが、震災後、デリヘルをするようになるという、あり得ない行動に出るぐらいありえない出来事だったのかと実感として思わされました。

でも、それは「ありえない行動」ですかね…。僕が思うのは、たとえば殺人事件とかが起こるじゃないですか。それは“普通の人”がやると思うんですよ。それを“普通”と言うのも変で、社会ってみんな“普通”ではない人たちの集まりじゃないですか。

 

-確かに…!

それを「これが普通だよ」とか言うだけで、でも基本的にそこの枠におさまらない人もたくさんいるわけで。そんな人が犯罪に走るのかもしれないし、映画をやるかもしれないし、そんな人たちの集合体だなと思っていて。その“普通”といわれる彼女は、自分の気持ちのバランスをとるための手段が、たまたまデリヘルだったっていうことかなと。そういうふうに思って作ってはいるんですよ。

 

-その気持ちのバランスを取るために、ここまで振れ幅の大きい行動でなくてはいけなかったのだなと、ダメージの大きさが伺われます。

そんなふうに思う人もいると思うんですよ。その一方で、平気で強い人もいっぱいいるし。強いっていう言い方もおかしいけど、それでもちゃんとというか、普通に日常を送ろうとする人もいると思うし、それはすごいと思うし、僕はそういう人を尊敬するなって。

 

-これまで、復興した部分は報道などで目にしてきましたが、気持ちの整理がつかない人がどう過ごしているかは見過ごされて来たようにも思えます。主人公はそんな人の代弁者的な存在では?

代弁者というほどではないですけどね(笑)。そういう人もいるというだけです。

 

【インタビュー全4回 】
(1)震災直後の衝動が原作小説に結実!
(2)社会って"普通"でない人たちの集まり
(3)週1回 東京でデリヘルする彼女の気持ち

(4)「いいじゃん別に、そんなに急がなくても」(7/15配信)

 

■『彼女の人生は間違いじゃない』公開情報

2017年7月15日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:廣木隆一

脚本:加藤正人

原作:廣木隆一「彼女の人生は間違いじゃない」河出書房新社

出演:瀧内公美 高良健吾 柄本時生/光石研

戸田昌宏 安藤玉恵 波岡一喜 麿赤兒/蓮佛美沙子

小篠恵奈 篠原篤 毎熊克哉 趣里

公式サイト:http://gaga.ne.jp/kanojo/

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