震災直後の衝動が原作小説に結実!『彼女の人生は間違いじゃない』廣木隆一監督インタビュー
福島の仮設住宅で父親と二人暮らしのみゆきは、週末になると高速バスに乗り、東京へ向かう。渋谷でデリヘルのアルバイトをするために――。『ヴァイブレータ』、『さよなら歌舞伎町』と、自分の居場所を探し求める大人たちの衝突や愛を、ときに鋭くときに温かく描いてきた廣木隆一監督の次回作は、自身の作家デビュー作となった同名小説が原作。
執筆のきっかけとなったのは、東日本大震災。帰郷する新幹線の中で震災にあったという廣木監督。当時制作中だった『RIVER』と並行して、今作の企画をスタートさせました。戻る場所もなく、かといって進む方向も分からないまま、手探りで日々を生きるみゆきを主人公に、いまの福島の日常を描き出す今作。何が廣木監督を制作に向かわせたのか? インタビュー第1回では、小説を執筆することになったきっかけを伺います。
■膨大なメモが小説になっていった
-2011年3月11日、新幹線で福島県郡山市に帰郷される途中に、震災に遭われたそうですね。
それは本当に偶然なんです。そのときは大宮の先ぐらいで新幹線が停まって、乗客は夜までずっとその新幹線の中でカンヅメになっていて。地震で停まったということは知ってたんですけど、何が起こっているのかはぜんぜん分からなかった。その次の日かな、途中の宇都宮かどこかの体育館に避難することになって、そこで一晩過ごして。そのとき初めて津波があったこととかを知って、どんな状況か分かっていったんです。
-そこからご実家に帰ってみて、故郷が被害に遭ったことをお知りになった?
うちは塀が倒れたのと屋根の瓦が落ちたぐらいだったので、そんなでもなかったんですけど。宇都宮からは車を借りて実家のある郡山まで帰ったんです。道中、道路がひび割れていて、すごいことになっているなと思いながら郡山に着きました。そのあと、津波から原発事故につながったことを初めて聞いたという感じです。
-あのときはだんだんと大きな被害が明らかになっていきましたよね。
そうですね。毎日やってましたからね、津波の濁流の映像は。
-そのご経験を経て、まずは小説「彼女の人生は間違いじゃない」を執筆されています。小説を書くことになったきっかけは何ですか?
きっかけは、その時、僕らは『RIVER』という映画の準備をしている最中で、1週間後ぐらいにクランクインする予定だったんです。ところが震災が起こって「こういう状況で映画の撮影なんか…」という雰囲気になって、中止になったりして。
-当時は社会全体に自粛モードがありましたね。
ありましたよね。そのとき『RIVER』とは全然関係ないんですけど、東北をとりあえず見に行ってどんな状況なのか…撮影できるのか…もし、撮影ができない状況でも自分で確かめたかった。使うか使わないかとか、どんな気持ちになるかとかは、行ってからそのときに考えようと。そういうことで、撮影部と僕だけという本当に精鋭部隊のような少人数で撮影に行ったんです。その時の気持ちを、小説というよりも何か文章にしたいと思って、まずはメモをしはじめて。それが小説になっていったんです。
-その気持ちを記録したメモが、膨大な量になっていった?
そうですね。自分の気持ちの整理がつかなくて、という感じでしたね。
【インタビュー全4回 】
(1)震災直後の衝動が原作小説に結実!
(2)社会って"普通"でない人たちの集まり
(3)週1回 東京でデリヘルする彼女の気持ち
(4)「いいじゃん別に、そんなに急がなくても」(7/15配信)
■『彼女の人生は間違いじゃない』公開情報
2017年7月15日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:廣木隆一
脚本:加藤正人
原作:廣木隆一「彼女の人生は間違いじゃない」河出書房新社
出演:瀧内公美 高良健吾 柄本時生/光石研
戸田昌宏 安藤玉恵 波岡一喜 麿赤兒/蓮佛美沙子
小篠恵奈 篠原篤 毎熊克哉 趣里