日本映画が逃げがちなものに向き合う

『22年目の告白-私が殺人犯です-』 入江悠監督インタビュー(3)

連続殺人事件を扱うというショッキングな内容に加え、阪神大震災により傷ついた登場人物がいたりと、物語の背景にはさまざまな社会が透けて見えてきます。入江監督にお話をうかがうにつれ、そこには込められた真摯な決意が見えてきました。

 

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(C)2017 映画「22年目の告白−私が殺人犯です−」製作委員会

 

■エンターテイメント作品だけど、見つめたいもの

-阪神大震災がモチーフとして入っています。扱うにはセンシティブな事柄ですが、モチーフとして入れた理由は?

僕はまさに世代だったんですよね(編集部注:入江監督は1979年生まれ)。阪神大震災とかオウムのサリン事件とか、1995年のあれって何だったんだろうとずっと考えていて、そういったいろんな事件や災害を咀嚼するのに時間がかかっていたんです。

 

被災者の人の感情だったり、事件の及ぼした影響だったりを、日本では避けがちじゃないですか。だから、こういうエンターテイメント作品ですけど、その時の経験から来る感情や動揺というものを見つめなきゃいけないんじゃないかと思って。

 

-単にエンターテイメントというだけではなく、実際の事件にも向き合ったんですね。

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(C)2017 映画「22年目の告白−私が殺人犯です−」製作委員会

 

日本映画はそういうことを絵空事にすることが多くて、架空の戦争や事件をバックボーンにすることが多い。でも、事件や災害に関わった人がその後、大人になっていく過程で、心理的にどんな影響があるかというのを、実在の事件をちゃんと取材して入れたほうがいいんじゃないかなって。日本映画はそういうところを逃げがちなので。

 

だから、当時神戸で精神科医をやっていた中井久夫さんというPTSDの研究でも有名な方がいらっしゃるんですけど、その方の本もすごく読みました。被災者や実際の犯罪の被害者もおられる中で、その方たちの心情も気になりましたけど、こちらもちゃんと調べ尽くして向き合わなきゃいけないなと思ったので。

 

初めてですね、ここまでちゃんと調べたのは。だから脚本を書くのにすごい時間がかかったんですけど(笑)。

 

■なぜそれを犯したのか、加害者側の内面も見たい

-加害者が手記を出すというショッキングな内容です。

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(C)2017 映画「22年目の告白−私が殺人犯です−」製作委員会

 

調べたら、過去にも大きな犯罪や殺人事件を犯した人が手記を書いたりしているんですよね。どこか下世話な野次馬精神で、そういうものが読みたいというのがある一方で、加害者がどういう精神状態でそれを犯したのかということも、見つめてみたいというのもあります。

 

メディアでは、加害者が「どんな過ちを犯したか」ということばかりが取り上げられますけど、「どんな心理でそういう過ちを犯したのか」ということも知りたいというか。時代が変わって、また新しい少年や青年がそういう犯罪を起こすかもしれない。どういう教育だったり抑圧で、そういう心理が生まれるのか、その加害者側の内面も見たいと思うんですよね。

 

-避けがちな問題ですが、加害者側の心理も含めてその社会的背景を見つめたいと。

そうですね。そういった手記などを読むと、やはり生理的な嫌悪感を覚えるんですけど、一概に、遺族がいるからNOだというふうには割り切れないところはあります。精神医学や犯罪心理学なんかを調べると、日本はどうしても加害者側の心理を見つめるのが弱いんじゃないかなと思いますね。

 

【入江悠監督インタビュー】
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『22年目の告白 -私が殺人犯です-』公開情報 6月10日全国ロードショー

監督:入江悠

脚本:平田研也 入江悠

出演:藤原竜也 伊藤英明 夏帆 野村周平 石橋杏奈 竜星涼 早乙女太一 平田満 岩松了 岩城滉一/仲村トオル

公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/22-kokuhaku/

 

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