主題歌をオファーした時の偶然 「武曲 MUKOKU」熊切和嘉監督インタビュー(3)
©2017「武曲 MUKOKU」製作委員会
“現代の侍の決闘映画”ともいうべき『武曲 MUKOKU』では、決闘シーンをはじめとした緊迫感に満ちた映像も魅力のひとつ。そこでは、熊切組の常連、撮影・近藤龍人さん、照明・藤井勇さんの存在も大きいのだとか。
そして押し寄せるような音楽も、この世界観の構築に一役買っています。楽曲制作はバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」を率いる池永正二さんが担当。中でもエンドロールで流れる主題歌の“Fly”は、eastern youth(イースタンユース)の吉野寿とコラボレートしたバージョンと、こだわりを感じさせます。
第3回インタビューでは、そんな視覚と聴覚へのこだわりを中心にお聞きします。
■打合せの時にたまたま、eastern youthのTシャツを着ていたんです(笑)。
-映画のラストには、eastern youthの吉野さんがボーカルを取った主題歌“Fly”の別バージョンが流れます。観客の心をさらにざわつかせそうな選曲ですが、どうしてこの曲を使われたのですか?
あれは、もともと僕がeastern youthが大好きだというのがあって。今回、音楽は「あらかじめ決められた恋人たちへ」の池永くんに頼んだんですけど、最初の打ち合わせをしたときに、たまたま僕がeastern youthのTシャツを着ていたんですね(笑)。そうしたら池永くんが、「あっ、eastern youth!」という反応で。
後日、「吉野さんに歌ってもらった曲がありますよ」と送ってくれたのがあの曲なんです。聴いてみるとすごく歌詞も良くて、ラストにはこれがいいんじゃないかと。
-冒頭のライヴのシーンから劇中の細かい虫の声まで、音へのこだわりを感じます。そういった音へのこだわりが監督の中で大きくなったのはいつからですか?
僕は初期から比較的、音はいろいろやりたがるほうなんです(笑)。
-映画での音を重要視するようになったきっかけなどはあるのですか?
そうですね。とある録音技師の方と組んだときに、「こんなにいろいろできるんだ」と思ったことがありましたし。あと、ジョン・ブアマン監督でリー・マーヴィンが出ている『殺しの分け前/ポイント・ブランク』とか、ニコラス・ローグ監督の作品とかもそうだと思うんですけど、特に70年代の作品のちょっとサイケデリックな表現とか、ああいうのが大好きで。
音って単純に見えているものだけじゃなくていろいろ表現できるなと。まるで夢を見ていたかのような音の使い方というか、ああいうのが好きなんですよね。
■色で表現する、退廃的な研吾と、“ちょっとヤバイ”融
-サイケデリックな表現という意味では、この映画では色も印象的でした。たとえば『私の男』では赤を印象的に使われていましたが、映画の中では、そういう色使いも意識して作られますか?
しますけど、そこはいつも組んでいる近藤カメラマンと、照明の藤井さんと、いろいろ話しているうちに決まっていく感じですかね。今回の作品では、前半はちょっと色を抜き気味で、後半にかけて色が戻っていくような感じにはしてあります。
それはグレーディング(色調補正)でやっているんですけど、そういうこととかは最初から話していましたね。いちばんは、研吾の退廃的な感じを出したかったというのがあります。一方、融の方は、ハザードランプの赤とかを使ってみたりとか。
-研吾とは対照的に、融の周りは色鮮やかでしたね。
鮮やかというか、ちょっとヤバイ感じというか(笑)。
-若さゆえの危うさもありました! さきほど「後半にかけて色が戻っていく」とおっしゃいましたが、たしかに登場人物の心境に合わせて色味も整っていく印象があります。
そういう感じですね。最後に一番こう、焦点を合わせるというか。
-最後の二人の決闘シーンに繋がると。色でもストーリーが進んでいたんですね!
【熊切和嘉監督インタビュー】
(1)綾野剛が肉体改造して表現する父と子の確執
(2) 監督が「完璧」と語る「武曲MUKOKU」のキャスティング
『武曲 MUKOKU』公開情報 6月3日全国ロードショー
監督:熊切和嘉
原作:藤沢周『武曲』(文春文庫)
出演:綾野剛 村上虹郎 前田敦子 風吹ジュン 小林薫 柄本明
公式サイト http://mukoku.com/