地下アイドルにハマった主人公を演じ切った中村まことの存在感『堕ちる』村山監督インタビュー
とあるきっかけで地下アイドルに恋をした無口な織物職人・耕平を演じたのは、劇団「猫のホテル」創設メンバーのひとりである実力派俳優・中村まことさん。物語のラストにポロッと発するひとことまで一切セリフなし。しかし、表情と佇まいに圧倒的な存在感と説得力を感じます。じつは、中村さんと地下アイドル”めめたん”を演じた錦織めぐみさんのほかは、桐生市あげての協力を得たエキストラの皆さんだったのです! インディーズムービーらしくミニマムな予算で、最大の効果を得た奇跡の一作「堕ちる」。自主映画制作者なら、とても参考になる(?)その制作秘話を伺いました。
■テーマに『堕ちる』を選んだ理由とは?
-最初から映画のイメージは頭のなかに出来上がっていたのですか?
そうですね。脚本は途中でアイドルファンの先輩に見てもらったりしながらけっこう直して、6稿ぐらいまでいったんですけど、結局ぐしゃぐしゃになって戻したので、原案からはあまり変わってないです。
-そもそも題材を地下アイドルにハマる職人にしたのは?
最初に思いついたのは「職人」の方です。桐生に取材に行った時、織物がメインだと聞いていた通り服屋さんがすごく多くて(編集部注:桐生市は織物が盛んな街として有名)。ファッションの街「桐生」と何を絡めるかと考えた時、仕事したことがある人を出すほうがいいだろうと、最初の企画書は単純に「桐生織×アイドル」だったんです。最初は「地下」は意識してなかったんですけど、地下アイドルという単語がここ1~2年ぐらいでキャッチーになってきていたので、そんな単語を入れようと。
-テーマに「堕ちる」を選んだのはなぜですか?
位の高い人が堕ちていくという設定が好きなんです。あと堕天使の「堕」という字が単に好きだというのもあります(笑)。ただ、地方の映画館に連絡したとき、「タイトルが縁起が悪いので絶対にかけられません」と断られたこともあります(笑)。
■ストイックでピッタリと、第一印象で決まった中村まことさん
-台詞はたった一言だけなのに、男らしい寡黙な職人から“ドルオタ”になり、そして…という変遷を演じきってしまう主演の中村まことさんはすばらしいです! まず、喋らないという設定はなぜですか?
一度脚本を書いてみたら少なかったというのもあり、どうせなら「台詞がひとことだけ」というのも特徴付けられていいかなと思いましたし。韓国映画の『悪い男』とか、『裸の島』(新藤兼人)とか、主人公がしゃべらない映画もなくはないじゃないですか。そういうインパクトを出すためというのもありますし。あと、耕平さんというのは僕のおじさんの名前なんですけど、その人がしゃべらない人で(笑)。自然と無口という設定になったのかもしれないですね。
-その主演に中村まことさんをキャスティングした理由は?
職人らしさもあり、すごくストイックな印象がピッタリだと思って第一印象でお願いしました。そういう存在感を持っている人がなかなか見つからなくて、苦労してたんですけどね。
-撮影現場ではいかがでしたか?
ほとんどおまかせでした。何も言わなくても、いい感じの表情にバッとなるので、僕としては楽でしたね。本当にシーンに合わせていい表情をしてくれて、すんなりと撮影は進みました。
-地下アイドルを演じためめたんこと錦織めぐみさんは、名字からして織物職人の話にふさわしいキャスティングになっていますが、これは偶然?
そうですね、名字は偶然なんですけど、アイドルの話にするとなった瞬間から、めめたん役は彼女しか考えてなかったですね。
-アイドルファンを演じた方も、本当にオタクっぽい人が揃っていますが…。
でもいちばん喋っている人は制作会社のスタッフです(笑)。あとは桐生市のエキストラさんです。まったくオタクではない感じの人たちで、でも妙にうまくてびっくりしました(笑)。桐生は毎年映画祭をやっているので、応募してくる常連の人もいるみたいで。同じアパートのおばあちゃんとか、コンビニのおばちゃんもそうですし、床屋の人もエキストラに応募してくれた市民の方々です。
-そうだったんですか! エキストラはどのようにして選んだのですか?
きりゅう映画祭をやっている青年会議所の方が、事前に写真をメールしてくれて、その中から選びました。ほかにも、僕が行けない時はロケハンもやってもらったり、きりゅう映画祭の人たちにはとても助けられましたね。
次回…インタビュー第3弾では…本作に懸ける村山監督の「想い」が語られます。おたのしみに!
【『堕ちる』村山和也監督インタビュー(全4回)】
(1)地下アイドルに恋した中年の物語『堕ちる』30分の短編が異例の劇場公開へ!
(2)地下アイドルにハマった主人公を演じ切った中村まことの存在感
(3)地下アイドル「めめたん」にハマる男に、監督自身が重ねた想い
(4)地下アイドル×中年男 異色の題材で長編監督へ名乗りを上げる『堕ちる』村山和也の挑戦
『堕ちる』公開情報
監督・脚本:村山和也
出演:中村まこと 錦織めぐみ 古川順 金子昌弘 水井章人 乗定裕 中島誠二 小保方裕哉 岡野絹恵 西山厚美
シネマート新宿(東京) 4月8日〜14日(監督とゲストによるトークショー付き)
★4/8(土) 19:30 中村まこと、錦織めぐみ(Luce Twinkle Wink☆)※初日舞台挨拶
★4/9(日) 20:30 宇多丸(RHYMESTER)
★4/10(月) 21:15 佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)
★4/11(火) 21:15 福原香織(声優)
★4/12(水) 21:15 前口渉(作曲家)
★4/13(木) 21:15 鈴木亜香弥(衣装デザイナー/スタイリスト)
★4/14(金) 21:15 都築響一(編集者)
シアターセブン(大阪) 4月29日〜5月5日
4/29(土) トークショーあり。ゲスト:土佐和成(ヨーロッパ企画)
4/30(日) トークショーあり。ゲスト:酒井善史(ヨーロッパ企画)