有村架純が演じることで膨らむ原作イメージ 『3月のライオン』大友啓史監督インタビュー
桐山零の成長を軸に丁寧に再構築されたこの映画では、原作ではそれほど描かれて来なかった幸田家の人々もまた、丁寧に描かれます。そこには監督の思いが込められていました。
豊川悦司さん演じる幸田柾近は、桐山零の養父であり将棋の師匠でもある
■桐山零を主人公として描くと、幸田家の物語も膨らんでくる
-主人公・桐山零が幼少時代から過ごした幸田家は、原作よりもより人間味を増して描いてある印象を受けました。
幸田家の物語って、実は原作でそこまで描かれていない。この映画では、後編の途中からオリジナル色が強くなっていくんですけど、たとえばあるシーンでは、棋士たちが全員集まって、ひとりの棋士が犠牲にしたものを見る場面があります。勝負師たちが勝負にこだわってその世界にのめり込んでいくと、必ず何かを犠牲にしてしまうんですよ。
零もあの場にいて、その「勝負師が犠牲にしてしまったもの」を見る。そこで神木くんはすごく細かい芝居をしているんだけど、零は何かを感じて、その後で幸田家を訊ねるわけですよ。勝負師としての零が何を犠牲にしたかというと、やっぱり幸田家の人たちだから。
自分が幸田家にお世話になることで、実の子供たちは将棋を諦めることになり、お父さんの関心も自分に向いてしまう。零は彼らを蹴落としていってしまったということを、ずっと心の痛みとして持って生きているわけです。だから、零を主人公としてこの物語を描くとなると、そこを描かざるを得なくて、必然的に幸田家のエピソードが膨らんでいったんですよ。
■有村さんが演じれば、香子のイメージは原作以上に膨らむ
-幸田家の長女で、桐山零の義姉「香子」は、映画ではキャラクターとしての厚みを増しています。プロ棋士を目指して夢破れた部分と、将棋の犠牲になった部分が伝わってきて、より感情移入しやすい人物になっていました。
どこか僕の中では、あまりにも幸田家が報われないなという思いがあったので、映画の中では救いの手を差し伸べてあげたいという思いがありました。その中で、香子というのも将棋の世界から脱落した一人で、将棋を憎んでいるのに、愛してしまう男は後藤のような将棋のことしか考えていないような男だったりする。これもまた香子の「業」なわけじゃないですか。
-なるほど。確かに香子の中には、将棋への愛と憎しみが同居しているように見えます。
将棋に取り憑かれて生きてきた幸田家の業を、香子は背負っている。また、零とは血がつながっていない姉弟だから、たとえば恋人同士になるとか、どこかでお互い一線を越えてもいいわけですよ。でも姉弟であるという立場がある。あの2人は激しくケンカをしたりもしているけど、もしかしたら好意を持ち合っているところもあるかもしれない。
しかも香子は、後藤という男を、どこかで優しく見守っている部分もある。そんなことを含めて、香子自身の成長のドラマも作りたいなと思い、原作よりもちょっと大人の女性には作ってあるつもりなんですよ。零を見守り、後藤を見守りという部分で。
-その「見守る」という部分は、気性が激しい香子という女性の、人としての厚みを増している気がします。
香子はただのツンツンした負け犬ではないんですよ。お父さんの愛情が自分ではなく零に向いてしまうのを、彼女はずっと見てきて、父親の愛を求めてさまよっているわけで。自分の弱さと、それが何に由来しているかというのも、ちょっと自覚しているキャラクター。そういう意味ではちょっと大人だと思うんですよね。
有村さんでキャスティングするということは、そういうところまで踏み込んでいくことを意識してはいたんですよ。だから、有村さんのキャスティングもわりと早めに決めていったんですね。原作が好きな方からは、真逆のキャラクターだと思われる部分もあるんだろうけど。でも有村さんがやれば、香子のイメージは原作以上に膨らむかなっていう思いはありましたね。
【『3月のライオン』大友啓史監督インタビュー(全4回)】
(1)幼い頃からプロだった神木隆之介だからハマる役
(2)思った以上にうまく行った染谷将太演じる二海堂
(3)有村架純が演じることで膨らむ原作イメージがある
(4)『3月のライオン』は向田邦子作品のような魅力がある
『3月のライオン』公開情報
【前編】 3月18日(土)【後編】 4月22日(土)2部作・全国ロードショー
監督:大友啓史
原作:羽海野チカ『3月のライオン』(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 染谷将太 清原果耶 佐々木蔵之介 加瀬亮 伊勢谷友介 前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏 伊藤英明/豊川悦司