上からの力で一般の人たちがヒドい目に遭う『沈黙−サイレンス−』と『野火』に共通する構造

塚本晋也監督作『野火』(原作:大岡昇平)では戦争の悲惨さが描かれ、今の時代の風潮が戦争に近づきつつあることに危機感を覚えた方も多かったのではないでしょうか? 塚本さんは、出演した『沈黙−サイレンス−』(原作:遠藤周作)にも、共通のテーマを感じられたそう。インタビュー最終回では、2つの作品に共通するテーマについて伺いました。

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■子どもができると次の世代が心配になってくる

――昨年は『野火』、今年は『沈黙−サイレンス−』と、人間の極限を突き詰めたような作品が続きます。

『野火』を作った時は、もともと普遍的なテーマであったつもりが、それよりは“緊急事態”がテーマになっちゃったんですけど。要は、戦争みたいなものが近づいて、上からの力で人間にとって大事な自由とかが奪われるわけです。そういう時代が近づいている警告として映画を作ったわけですけど、それと同じようなことを『沈黙−サイレンス−』でも感じました。

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――ちょうど同時期に、2つの作品に向き合われることになりましたね。

そうなんですよ。スコセッシ監督の映画ならどんな内容でも関わらせていただけると光栄なのに、奇しくもテーマは同じと言ってもいいんですよね。両方とも日本の文豪が書いた作品で、規模はあまりに違いますけど、それぞれ何十年も作りたかった大事なテーマで。そういう大事な2つをこの期間にできたということで、自分としては本当に集中して全力投球しました。

 

――それを社会に出さなければいけないという使命感があるのですか?

『野火』に関しては、ちょっと使命感みたいなものが出ちゃいましたね。今までは都市と人間といった感じで、自分と都市との関わりを描いて来たんですけど、やはり子供ができると、次の世代とかがだんだん心配になってくるので。そうするとこれから先の世の中が、ちょっと心配ってことが多すぎて、祈りのような気持ちが起こるんですよね。

 

権力という上からの力で、いつも一般の人たちはひどい目に遭うという構造は同じなので、そうならないでくださいという祈りの部分を、『沈黙−サイレンス−』でキリスト教のモキチに反映させたんですね。そうすると実感を込めてできたので。

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――どちらも政治の力に弾圧される人々の話ですね。

そうなんです。キリスト教の神父さんと信者さんの関係は純粋なものですけど、でも実は、そもそもオランダとの貿易をうまく行かせるための手段としてキリスト教も流行らせたという、上の人の都合で行われているという面もあるので。ある時はそれがうまくいって、みなさんがキリスト教を信じるようになったけど…ある時、急にキリスト教が禁止されたら、こっちはどうすればいいの!?っていうことで。

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それは戦争も同じで、最初は上の人にいつも翻弄される。それは遠藤周作さんも『女の一生』という小説で、第1部では宗教を通して信じるものを弾圧される様子を描いて、第2部では戦争を通して、人生をある力で押しつぶされてしまう姿を描いています。つまり遠藤周作の中でも同じテーマだったので、ますます『野火』と『沈黙』が、原作を通しても同じ地平の上にいることはつくづく感じました。

 

■繰り返される歴史。今、その危険な時期にある

 

――そのテーマにされているものは、何らかの形で現代の社会で繰り返してしまうものなのでしょうか?

哀しいまでに繰り返すんですよね(苦笑)。『野火』のような映画を作って戦争のことを調べたり、このあいだ(近代史家の)半藤一利さんにお会いするので本を読んでも感じたのですが、びっくりするぐらい歴史が繰り返されていて。今はその危険な時期と社会の風潮がそっくりになってきているので「ヤバイな!」と。まず『野火』の時に動物的嗅覚で感じましたけど、こうして資料を見ても改めて感じますね。

 

巨大な力なんですけど、人々の生活には何気なく忍び寄っている。そして、前日までニコニコして暮らしていても、ある日突然、死体の山がこんもりと積まれるというのが、だいたい今までの戦争の感じですね。その感じが今、時代の風潮としてありますね。だからアンテナを張らなきゃいけない時代になっちゃったということですね。

 

――時代の風潮が戦争に向かっている危機感は『野火』でも感じさせられましたが、今回の『沈黙−サイレンス−』を通して、お客さんに感じて欲しいことは何ですか?

『沈黙−サイレンス−』は宗教を扱っている映画ですが、きっとそういう時代への警告のような意味合いもあって、今の時代に必要な映画ですので。僕の映画は小さな映画で、それでも多くの人が観てくれましたけど、『沈黙−サイレンス−』でその大事なテーマを、もっと多くのお客さんに感じてもらえるとありがたいと思います。

 

『沈黙−サイレンス−』塚本晋也さんインタビュー(全4回)】

 
 
 

 

『沈黙−サイレンス−』公開情報

2017年1月21日(土)全国ロードショー

原作:遠藤周作『沈黙』(新潮文庫刊)

監督:マーティン・スコセッシ

出演:アンドリュー・ガーフィールド リーアム・ニーソン アダム・ドライバー 窪塚洋介 浅野忠信 イッセー尾形 塚本晋也 小松菜奈 加瀬亮 笈田ヨシ

公式HP:http://chinmoku.jp/ # 沈黙

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