『沈黙−サイレンス−』塚本晋也さんインタビュー/スコセッシ監督に別人だと思われていたオーディション裏話

『タクシー・ドライバー』を始めとした数々の名作で知られるマーティン・スコセッシ監督の最新作は『沈黙−サイレンス−』(原作:遠藤周作)。江戸初期のキリシタン弾圧下の長崎を舞台に、宣教師ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)の苦悩を通し、人間の内面と深く向き合った大作で、本年度アカデミー賞最有力候補にもなっています。

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ロドリゴ神父と心を通わせる“隠れキリシタン”モキチを演じたのは、映画監督として『鉄男』から『野火』まで重厚な作品を生み出し続けながら、俳優としても活動の幅を拡げる塚本晋也さん。第1回インタビューでは、現場で感じたスコセッシ監督の映画制作への姿勢について伺います。

 

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■優しく、しかし“獰猛”(どうもう)なスコセッシ監督

 

――あのスコセッシ監督の映画にご出演されるとはうらやましい限りです!

みなさんに言われます(笑)。お会いしたのは最初のオーディションの時で、その時も、僕が来ることをスコセッシ監督は知らなくて、「塚本晋也」って同姓同名の違う人かと思ったって。

 

――ということは、塚本監督のことは既にご存知だったのですね。

僕の映画を見てくださったんですかと聞くと「『鉄男』と『六月の蛇』が好きだよ」って言ってくれたので、そこから気持ちも打ち解けて、オーディションもすごく楽な気持ちでできましたね。そういう風に終始、俳優がやりやすいようにしてくれていました。

 

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――スコセッシ監督とは、作品やテーマについてはどんなお話をされましたか?

作品についてとかテーマについてはほとんど話さないですね。(ロケ地の)台湾に行く前にもう一回日本にいらして、今の状況を確認するために会いましょうとなった時も、雑談をしただけですね。

 

あとはいよいよ台湾に行った時に、最初に軽い読み合わせというのをやるんですけど、本当に「軽い」読み合わせをした感じで(笑)。ただその時を非常に大事に思っていたので、緊張して身構えて、台詞を全部きっちり入れて、いっぱい練習した歌うシーンで心を込めて歌って。それで大丈夫だって感じがあって、あとはもう現場に突入したというような感じです。

 

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――役については完全に委ねられていた?

ええ、もうとにかく自由にやらせてくれて。そして、それが良かった場合は必ず「良かった」ということを体で表現するんですね。ちょっとオーバーなぐらいに“Excellent!(エクセレント!)”と(笑)。だいたい俳優って常に不安になっているものですので、そこに監督が笑顔で来て「エクセレント!」と言うと、「良かった!」とやっと次のシーンに頭を切り替えられるという感じだったんですね。

 

――俳優に対して思いやりのある方なんですね! 『タクシー・ドライバー』ではデ・ニーロもそうされたのかもしれません

きっとデ・ニーロも「エクセレント!」と言われながらやったんだと思います(笑)。でも真面目な話、キャスティングの大事さも非常に感じたんですけどね。

 

――と言いますと?

スコセッシ監督の映画はキャスティングが非常に大事で、『タクシー・ドライバー』もデ・ニーロさんとおやりになったことで、デ・ニーロさんの面白いアイデアが全部いい形で活かされて。スコセッシ監督って優しいお顔をされていますけど、獰猛にそのいいアイデアを全部取って自分の血肉にしちゃいますから。あたかもそれはもう、スコセッシ監督が考えたかのように。

 

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――(笑)

それは別に盗んだとかいうことではなく、要はそのアイデアが外れていたら使わないわけですから。そこをうまく考えて、効果的にうまくいくように周りを整えるんですね。例えば自分が歌うシーンは、脚本にはナレーションで「歌ったそうな」と書いてあっただけで、歌うシーン自体はなかったんです。

 

でも脚本を読んだ時に、シーンとしては明らかに歌があった方がいいので、きっとデ・ニーロさんはこういうときに意見をを言ったんだろうなと、うまく歌える自信はないのにドキドキしながら提案して。そして自分で考証的におかしくない歌を探して、プレゼンテーションして。

 

――あのシーンは塚本監督からの提案だったのですね!

そして実際の撮影現場では、既に歌に耳を傾ける人々のショットが効果的に撮影されていたので、もう自分の血肉に変えちゃってるんですね。「それはあった方がいいね」って言った瞬間に、「それなら」っていう風に、もう映画が良くなるように周りのことを操作し始めている。

 

そういう獰猛さと優しさと、そして映画を良くするために、いつも耳をダンボのようにそばだてていて、アンテナをビリビリに張っていて。その中では、役者さんのやることがかなり大きな比重を占めているっていう現場ですよね。

 

 

『沈黙−サイレンス−』塚本晋也さんインタビュー(全4回)】

 
 

 

『沈黙−サイレンス−』公開情報

2017年1月21日(土)全国ロードショー

原作:遠藤周作『沈黙』(新潮文庫刊)

監督:マーティン・スコセッシ

出演:アンドリュー・ガーフィールド リーアム・ニーソン アダム・ドライバー 窪塚洋介 浅野忠信 イッセー尾形 塚本晋也 小松菜奈 加瀬亮 笈田ヨシ

公式HP:http://chinmoku.jp/ # 沈黙

(c) 2016 FM Films, LLC.  All Rights Reserved.

 

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