普通に生きて行くことがすごく幸せ 『この世界の片隅に』のんさんインタビュー

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(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 

1944年2月。18歳のすずは突然の縁談で軍港の街・広島県呉市にお嫁にいくことに…。戦争が色濃く影を落とす見知らぬ土地で、健気に前向きに日々を送っていくすず。食糧などの配給物資が減る中でも、工夫をこらして毎日のごはんを家族のために用意し、衣服を仕立て直し、そして時には好きな絵を書き、戦時下でも毎日を大切に暮らしていたのだが…。『夕凪の街 桜の国』で知られるこうの史代さんのマンガ『この世界の片隅に』を原作にした本作品。第13回メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しただけでなく、読者、書店員、アーティストから熱い支持を集め、映画化に向けたクラウドファンディングでは日本史上最高額(約4000万円)の支援が寄せられるなど、作品の熱烈なファンが多いことがわかります。

 

そして映画化を手がけたのは片渕須直監督。前作『マイマイ新子と千年の魔法』は観客を深く感動させ、異例のロングランを果たしています。綿密な下調べと細やかな筆致で知られる片渕監督は、今作でも徹底した原作追求、資料探求、現地調査を重ね、すずの生きた世界をみごとに描き出しました。そして主人公すずの声を演じるのは女優・のんさん。片渕須直監督が「ほかには考えられない」と絶賛したその声で、すずに息吹を与えました。じつはFILMERS編集部内でも今年1番の感動作!泣けた!と評判の声が上がっています。

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今回のインタビューでは、主演女優のんさんに、『この世界の片隅に』に出演して感じたこと、考えたことについてお話をお聞きしました。髪を切ってキュートさに拍車がかかる、のんさん。自身の髪型を作品になぞらえて「モガ風!」(編集部注:モガとは、モダン・ガールの略。物語の時代にはよく使われていた言葉)とおっしゃるあたり、作品への愛情が伝わります。

 

◆のんさんとすずの共通点は、「ぼーっとしているところ」

――アニメーション映画は初主演です。片渕須直監督は「のんさん以外のすずは考えられない」と絶賛されたそうですが、そのような依頼を受けてどう感じましたか?

まずオーディションに来てくださいと言われたんですけど、その時に原作を読ませていただきました。それですごい作品だと思いましたので、絶対に私がやりたいと思っていました。

 

――主人公のすずとはだいたい同年代ですよね。

そうですね…。すずさんは結婚した時は18歳で、自分より5歳ぐらい年下なんですけど…なんだかすごく共感するところがたくさんあって、「いいなあ」と思っていました。

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(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 

――共感されたのはどんな部分?

ぼーっとしてるって言われるところ(笑)。すずさんはぼーっとしてると言われるのにパワフルだったり、ちょっと乱暴だったり、6歳の晴美さんと張り合ったりとか、そういうちょっと子供っぽい部分とかが面白かったです。

 

 

◆戦争って日常と隣り合わせなんだなって…

――原作の第一印象は?

自分の「戦争」というものに対しての認識が変わった部分もあって、素晴らしい作品だと思いました。

 

――戦時中の日常を丁寧に描いている作品で、主人公のすずは、大変な状況なのに、楽しく前向きに生きようとしていて素敵な女性です。

私にはすごくそれが新鮮で、今まで自分が思っていたものと違ったというか…。今まで、戦争の時代っていうものは、自分が住んでいる世界とはまったく違うところにあるような感じで、別次元のことのような気がしてたんですけど。あと、そういうものを、怖くて自分の中で避けていた、見ないようにしていた部分もあって。この作品を見た時に「それは違うのかもしれない」と思って。自分の認識が変わりました。

 

――どのように変わった?

別次元のものではなくって、日常と隣り合わせで。何があっても日常があって、ちゃんとごはんを作って食べるというサイクルは毎日巡ってくるというのが、見えた気がして。そしてその中でも、節約したり、やりくりしたりして、すずさんが楽しそうにやってる姿が新鮮で。どんな大変なことがあったとしても、その日のごはんを作らなくちゃいけないっていうのが、しっかりとある、みたいなのが、ちょっとびっくりしました。その感覚は、今この時代に生きる私たちと変わらないのだと思いました。そう感じることで、より自分に引きつけて考えることができました。

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(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 

◆普通に生きていくことが、すごく幸せなんだと感じた

――体験できないことを演じるのは大変だったと思います。すずだったらどういう風にしゃべるかとか、想像しながらやっていった?

そうですね。監督と相談しながら。

 

――今年は熊本で地震があったり、久慈でも台風の被害があって、のんさんも現地を訪れていましたが、日常がある日突然変わってしまうことはあります。そんな中、この映画ができるということは、やはり意義があると感じますか?

そうですね。すごく思ったのは、普通に生きていくっていうことが、とても大切なことなんだっていうのを感じて。どんなときでも毎日が巡ってきて、生活をしていくという日々は続いていくというのが…。普通に生活したり、普通に生きていくっていうこととか、「普通」っていうのが幸せなことなんだっていうのを感じていただけると思います。生きるという力強く前向きなテーマに涙が溢れてきます。

 

自身の出演した作品について、まずは言葉を選びながら、丁寧に伝えてくれたのんさん。じつは作品に出ることで、プライベートでも受けた影響がいろいろあるのだとか。次回のインタビュー第2弾をお楽しみに!

 

【のんさんインタビュー(全4回)】

(予告編 )

■『この世界の片隅に』公開情報
2016年11月12日(土) 全国ロードショー
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)
監督・脚本:片渕須直
出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 牛山茂 新谷真弓/澁谷天外(特別出演)
音楽:コトリンゴ
公式サイト:http://konosekai.jp/

 

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