今夜、地上波初放送『日本のいちばん長い日』知られざる編集の舞台裏! 貴重な絵コンテも公開!
■編集者が現場に行く理由
―――率直に、原田組での編集は、どのようにしていくのですか?
うちの監督の場合は、シーン1のテイク1から全部素材を見ていきます。それで編集にも立ち合うんです。編集にすべて任せっぱなしというのはほとんどないです。まれにありますけどね「遊人やっといて」って。ただフィルムだった時代は、これをつなげてあれを抜いてとか、その都度細かい指示がありました。
―――前回のインタビューでは、遊人さんは編集として、自分も現場に行くとおっしゃっていましたが…
はい。別に機材を持って行くわけではないですけど、ほぼ8割がたは現場に行って、その場でモニターを見て、監督と話し合いながら、生で素材を見ます。
―――遊人さんが現場に行く理由はどうしてですか?
例えば、一方向からカメラで撮っている中、そのシーンが壁の前で終わっていた場合…作中では見えないけど、実際は壁の向こうはどうなっているのかっていうところまで確認しておきたいんです。知りたくなっちゃうんですよね。実際、あと少しカメラが移動すると映画の世界観と関係の無いものが映り込んでしまうから、カメラが止まっているといったことがあります。そうした事情を把握しておくことで“だからこのシーンはこういう撮り方なのか”と分かりますから、編集する際、観客に妙な違和感を感じさせないよう気を配ることができるんです。編集作業をするとき、空間をすべて把握することによって、カメラがどの位置にあろうが、流れを全て把握することができるんです。記録された素材を見ることでも、それを把握するこはできるんですけど、やっぱり生で見ることで、自分で膨大な情報を整理できますから。
(原田遊人さんに持参いただいた資料。編集時、これらに目を通したという)
(すべてを重ねると分厚い電話帳よりも厚い書類の束となっていた)
―――デジタル化で情報の保存や送信が簡単になっても、そういうところって大事なんですね
まあ、僕が役者として活動しているという、“現場”の人間というのもありますけどね。ただ『日本のいちばん長い日』とかは、特にそうなんですけど、わりとクセのある役者が多かったんです。例えば…何かあるたびに、必ず舌なめずりをする軍人がいたんですよ。その映像を見たときに、これは役でやっているのか? 素でやっているのか? わからなくて…。
―――どうしたんですか?
僕は現場にいたので、直接役者に聞きました。そしたらその人は、“えっ僕そんなことしてますか?”って言って来て、素だったのかと、驚きました。現場にいると、その気づきを監督にも直接伝えられるので、そのシーンを残すかどうか、すぐに話し合えるんです。
■編集者を超えた編集「遊人メソッド」
―――現場にいるときから編集作業が始まってるんですね。というより、もう編集という枠を超えてる感じもしますね
そうですね。編集プラス監督助手みたいな感じなのかもしれないですね。
―――言わば、これが編集者・遊人さんのメソッド?
そうですかね。まあ自分の気持ちとして単純に現場にはいきたいという気持ちが強いんですけどね(笑)。
―――原田監督も編集に立ち会われるとのことでしたが、どんな流れで進めるんですか?
シーンごとにまとめたら試写を流してその都度チェックするという感じです。かなり細かいですよ。でもそんな細かい監督でも、編集しながら…あれ、なんで俺は現場でこうしたのかな? って言うときもたまにあります。そのとき僕は、じゃあこうする?とか選択肢を提案しています。
―――そうやって編集のところでも話し合いながら進めているんですね
そうですね。だた量的にはなかなか大変ですよ。フィルムじゃなくなって、記録容量に制限がなくなった分、時間の許す限り回せますから。アングルを変えたりサイズを変えたりして、テイク14とか撮るシーンもわりとあります。見ていてNGが7回を超えたら役者がドツボにハマったなと思うんですけど。
―――確かにそんなに撮ると編集は大変ですね
はい。でも、言うことは逆になるかもしれないですが…例えば、時代物でガラスに映り込んだらマズいものがあると、編集で、CGで消すという作業が出てくるんですけど、それを撮影の段階で1つ減らせるというメリットもあります。
―――なるほど、トータルでは作業量は減り、映画の質も上がると。それにしても編集という作業は、映画製作の最後の番人とも言う感じがしますが、プレッシャーとか感じないですか?
責任感はもちろんありますが、楽しいという気持ちの方が大きいです。まあ怖いという気持ちがあるとすれば、使い忘れた素材があるんじゃないかということですね。編集や映像の良し悪しは監督がジャッジすることですけど、その前に、“あれ?ここに何か映像を入れようとしていたものがあったんじゃなかったっけ?”とか。忘れてたら怖いなと。
―――せっかくの素材ですもんね
はい。なので、それがないようにデジタルで作業している横には紙媒体のメモが山として、たくさんあります。あと、バックアップはしっかり3か所にバックアップしています。それも午前の終わりとかタイミングごとに小まめに。
■原田組作品のテンポ感のヒミツ
―――原田組の作品で印象的なのが、テンポ感のある展開だと思うのですが、どうしてそのようなスタイルに?
一言で言うと、監督の性格がせっかちなんです。次!次!次!…と。よく、つまらない映画って“たりぃな”って言うんですよ。スローな物語というのが嫌いなんです。早く次の展開を見せていく。余韻を残さないことが多いです。
(「日本のいちばん長い日』絵コンテからも、その迫力、画面設計の精緻さが伝わって来る)
―――原田監督の性格が大きな要因なんですね
ただ、『日本のいちばん長い日』では、阿南(役所広司)が死んだあと、奥さんが来て、語りかけるシーンがあるんですけど、ずっと動きがないんです。画面の中で、ちょっと葉っぱが揺れてるぐらい。
―――ほう、なぜそのシーンはじっくり見せたんですか?
シーンとして、じっくり語る奥さんのあと、ジワ~っと天皇の玉音放送に行った方がいいねということでそうなったのですが、もう一つの理由として、編集が一通り進んだところで、あと5分ぐらい足せるぞと、時間に少し余裕ができたのもあります。
―――普段は余ることはないんですか?
ほとんどないですね。撮影の時点で全体量を見据えつつは進めるんですけど、『クライマーズ・ハイ』なんかは、最初3時間ぐらいありました。それを削って削って2時間20分ぐらいにと。そういったそぎ落としていく作業が作品のテンポ感になって、今の原田作品スタイルになっています。
―――ちなみに、編集をしていて監督と意見が違って喧嘩になることとかないですか?
それはほとんどないです(笑)。最初の頃は、もっとこうした方がいいんじゃないかということをけっこう言ったこともありましたが、効率を考えると、まずは監督の望んだものをカタチにしようと。それで監督が行き詰まったりしたときに、こうしたら?と提案すると。
―――基本、監督の意図をくみながらなんですね
それぞれの監督のスタイルに合わせてという感じです。他の監督だと、そのまま僕に“お願い”という人もいますし、そういうときは、それでやります。
【原田遊人さんインタビュー一覧】
(1)映画界デビューは「小道具」でした 『日本でいちばん長い日』編集 原田遊人さん
(2)松坂桃李さんを盗み撮りしたシーンがあったんです 『日本のいちばん長い日』編集:原田遊人さんインタビュー
(3)今夜、地上波初放送『日本のいちばん長い日』知られざる編集の舞台裏! 貴重な絵コンテも公開!
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(c)2015『日本のいちばん長い日』製作委員会
■原田遊人さん情報
株式会社つばさプロジェクト
http://www.tsubasa-project.co.jp/index.html
原田遊人さんのプロフィールページ
http://www.tsubasa-project.co.jp/talent1/eugene_harada.html