松坂桃李さんを盗み撮りしたシーンがあったんです 『日本のいちばん長い日』編集:原田遊人さんインタビュー
俳優としての自身の生い立ちについてお聞きした前回のインタビュー。今回は、「原田組」の中で、遊人さんが見てきた原田眞人監督の独特の演出「原田メソッド」についてお聞きしました。
■原田メソッドとは型にはまらないこと
―――原田眞人監督の作品の演出などは、よく「原田メソッド」などとも言われていますが、遊人さんから見た原田メソッドとは?
原田メソッドという演出を僕が定義づけるのはおこがましいんですけど、一言で言うと型にはまらないってことなんじゃないかなと思います。もちろん演技について、監督がなんとなく求めている方向性はあるんですが「お前だったらどう表現する?」と…シチュエーションやセリフを与えて、ここが目的地だとゴールを決めたら、役者の引き出しをたくさん見ようとします。だからその分、何も準備してない、何も考えてない役者は大嫌いなんですよね。「お前は何しに来たんだ!」と。
―――もし何も考えてない場合って、原田監督はすぐ見抜くんですか?
見抜きます。僕も2001年『狗神(いぬがみ)』のとき、共演者の女の子が最後の出演シーンだったので、これで最後ってことで、ちょっとおしゃべりをしていたんです。それでそのままリハに入って、普通にセリフを言ったら、ちゃんと考えてきたのかと怒鳴られました。そういう、事前に準備をしていたかどうかというのはすぐに見破られますね。
―――役者も気が抜けないですね
はい。でもその分、事前に自分としてはこうじゃないかと、いろいろ前もって考えて来る役者は本当に好まれます。だからなのか、原田組というのは才能がある人にとっては天国ですねとも言われたことがあります。逆にテンパって、セリフを言うだけの役者だったら地獄ですけどね。
―――なるほど。では、自分で事前にがっちり役を固めて来た方がいいってことですか?
いえ、いろいろな引き出しを持っておいた方がいいということだと思います。考えては来るんだけど、あまり自分でこうだと決めつけ過ぎないことがメソッドですかね。良し悪しは監督が決めますから。いろいろやった上で、それは違う、こういう風にやってと言いますから、それに対応できるコトも大切ですね。
―――事前の準備と柔軟性が大事なんですね
「原田組」に関してはセリフを一言一句正しく言う必要はないんですよ。それをどういう風に言うのか、どういう人間なのか、どういうエネルギーなのか、根拠があるのかというのを監督は見ています。まあ監督も人間なので、言うことがその時によって変わったりもするんですけど…昨日はこう言ってたじゃん、と。でも、監督の判断は監督の判断なので、異を唱えることはないです。
―――即興で応える瞬発力も大事そうですね
『バウンス ko GALS』のときは特にその辺りは面白かったです。アドリブ合戦というのもよく出す人なので。本人はそういうアドリブを活かすスタイルが出来上がったのは『KAMIKAZE TAXI』からだと言っていましたけど。
―――そうした、いろいろな演技のパターンはリハの時点で見るんですか?
いまは撮りながらですね。『突入せよ!あさま山荘事件』から(記録媒体が)フィルムからデジタルになったんですけど、そこからは、カメラをものすごく回すようになりました。それまではリハーサルで何回かやってもらって、良いものを、“じゃあそれもう一回やって”という感じでした。ちなみに最近の作品は基本2カメで撮ります。ワイドと寄りを一緒に。効率重視ということで。それから…仮に役者がセリフを間違えても基本止めるなって言っています。自分以外にカット掛ける人がいたらなんで止めるんだって怒ります。
―――間違っても止めないんですか?
はい。というのも、NGテイクでも、けっこう使うんです。2015年の『駆込み女と駆出し男』では、大泉洋さんが、医者としての心得を言うときに、セリフが出てこなくて目がパチパチってなるシーンがあるんですけど、あれ実際にセリフが飛んじゃってるんです。
山崎努さんは、そのシーン見て、あれ良い芝居だね~って言ってました(笑)。僕は現場にいて、その事情も知ってる分、編集としてはますます使おうと思いました。
―――『駆け込み女と駆け出し男』といえば…大泉洋さんが相手の役者から大きな荷物を受け取ったとき「はい、もらった!」とおっしゃっていました。これは演劇界ではよく聞く言葉で…大道具の搬出入の際、相手が受け取ったと早合点して荷物から手を離して落下事故が発生するのを防ぐため「はい、もらった!(=もう手を離していいよ)」という合図が生まれました。この作品…原作は劇作家の井上ひさしさんなので、そこからの引用なのか? はたまた原田監督が演劇に詳しかったからなのか? ボクは大泉さんのアドリブではないかと観ていますが…いかがですか?
大泉さんのアドリブですね(笑)。あそこはト書きで、荷物を受け渡しするシーンとしか書いていなかったので、特にセリフは決まっていなかったんです。そこで、大泉さんが発したセリフが「はい、もらった」だったんです。監督も、気に入ったから、そのシーンを採用したのだと思います。
■日本のいちばん長い日では隠し撮りも
―――NGテイクも採用されるとなると…撮影現場に入ったら、本番だろうがリハだろうが…気が抜けませんね
確かに役者にとっては、それ使わないでってこともあるかもしれませんね。あと…2015年『日本のいちばん長い日』ではあまりNGシーンを使ったところはないんですけど、盗み撮りはあります。
―――どういうことですか?
松坂桃李くんが演じた畑中の登場シーンって、割と無邪気な顔をしているんですけど、あれ、盗み撮りなんです。準備だけしておいてくださいって本人たちには伝えて…でもカメラは一つ回していると。そのときの表情を使っているんです。だから原田組は油断できないんですよ(笑)。
―――役者として準備はして来いって言うけれども…一方で素の部分もそうやって使うんですね
そうですね(笑)。まあ、その素の部分が、シチュエーションに合わなければ、もちろん使わないですけど。
■相手を活かして自分も活きる演技を
―――例えばですが、キャスティングした役者が、自分の想像と全然違う演技しかできなかった場合、監督はどうされるんですか?
怒りますが、監督自身もそこは柔軟に対応します。そういう過程を経て、良い作品になることも多いので。ただ、好き嫌いはハッキリしていて、監督は本当に嫌いになったら全部切っちゃいます。
―――なるほど。あらためて、原田組の中では、役者はどういうことを意識すればいいんですか?
相手とのやり取りの意識が大事です。相手を活かして自分も活きるということが必要で、自分が自分がと前に出たがると嫌われます。監督は「化学反応」が見たいとよく言っています。2人の役者が携えてきたものが合わさるとどうなるのかと。それは僕自身も編集として見たとき、その化学反応が出ているとやりがいを感じます。
―――撮影現場での緊張感の積み重ねと…それを逐一、編集者の目線で確認している遊人さんがいるからこそ、原田監督独特のリアリティが生まれるんですね
【原田遊人さんインタビュー一覧】
(1)映画界デビューは「小道具」でした 『日本でいちばん長い日』編集 原田遊人さん
(2)松坂桃李さんを盗み撮りしたシーンがあったんです 『日本のいちばん長い日』編集:原田遊人さんインタビュー
(3)今夜、地上波初放送『日本のいちばん長い日』知られざる編集の舞台裏! 貴重な絵コンテも公開!
(4・最終回)「監督には誰でもなれる。ただ、なり続けるのが難しいんだ」
■「日本のいちばん長い日」情報
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通常版Blu‐ray\4,300+税 DVD\3,300+税
(c)2015『日本のいちばん長い日』製作委員会
■原田遊人さん情報
株式会社つばさプロジェクト
http://www.tsubasa-project.co.jp/index.html
原田遊人さんのプロフィールページ
http://www.tsubasa-project.co.jp/talent1/eugene_harada.html