『64』映画化にあたり原作者・横山秀夫から言われた、たったひとつのリクエスト
前編のクライマックス・シーンである県警・広報室でのワンシーンでは、警察の対応に鬱憤を溜めた記者たちと、組織の制約とのはざまで苦悩する広報官・三上(佐藤浩市)が互いに激しい火花を散らします。固唾を呑んで見つめてしまうこのシーンには、監督、役者、スタッフたちが、さまざまな思いを積み重ねていたのです。監督の瀬々敬久監督にお話を伺いました。
■原作者 横山秀夫さんから言われた、たったひとつのリクエスト
――本当にオールキャストで豪華ですが、キャスティングの部分では監督の意見はどのように反映されていらっしゃるんですか?
基本的に相談ですよね。プロデューサーの方たちと相談しながらやりましたね。
――警察内部の複雑な権力構造を4時間で見せていくことについて、演出で心がけたことはありますか?
今回、原作の横山さんから「瀬々さん、ひとつだけ注文がある」と言われたことがあるんです。それは「記者だけは疎かに描かないでほしい」ということ。普通の映画だと記者はA・B・Cみたいな振り分け方で、だいたいが人格も何もないような役ですが、今回に関しては記者一人ひとりの人格が見えるように描いてくれと言われました。横山さんが新聞記者出身だからこそだと思いますけど、それはすごく印象的でしたね。
記者もいろんな方がひしめいていてセリフのない方たちもいますけれども、瑛太さんとか坂口(健太郎)くん、ほか何人か以外はオーディションで選んでいるわけです。そこでまずはどの役かは決めないで選んでから、ワークショップ的にいろんな役をふって演技してもらって、それぞれの個性を見定めてから配役を決めたんです。
――記者クラブの人間関係をしっかりと作った上で、ある程度動きも役者さんに任せたりと、ある意味ちょっと演劇的な稽古のような形であのシーンを作って撮影に臨まれたそうですが・・・監督がすべて見守りながら作り上げたということですか?
そうですね、そこは立ち会いました。あと、知り合いの新聞記者の方に来てもらって、記者ってメモの取り方、筆記用具ひとつにしてもいろんな個性があるから、そういうことを説明してもらったりとか、彼自身も県警の記者クラブにいたことがあったので、実際の雰囲気も座学的にいろいろ話してもらったりとか。
実際の新聞記者の方に事前に会ったりすると、みんなある種のイメージは持てるわけじゃないですか。当然現場には元記者の人たちに来てもらって監修をやっていいますし、そういうことは割と丁寧にやったとは思います。
■いろんな種類の役者が集まるからこそ生み出された力
――記者クラブのシーンは特に、生きている空気感のようなものが感じられました。
豪華キャストと言われていますけど、有名っていうことだけではなくて、いろんな種類の役者さん達が集まっているんです。記者役の中には普段はインディーズの映画で主役をやっている人たちもけっこういるわけです。そういう、今は無名でもこれから生き馬の目を抜こうとしている役者さんたちと、いわゆる有名な俳優さんたちが集まって、一緒に化学反応を起こしながら作っていった。
まあ言ったらこう「寄せ鍋」というか「ごった煮」というか、そういうチームだったと思うんですよね。やはり一面的な集団だと、なんか固まってしまうというか…そういういろんな種類の人たちが集まってできた映画だから、なんかある種の「猥雑」って言うとおかしいですけど、そういう力を生んだんだとは思いますね。
――その場に役者さんが来てパッと撮ってしまうのではなく、贅沢な撮り方だと感じましたし、いい空間を見られているという実感があって印象に残るシーンでした。
記者クラブのシーンに入る前に、若手の俳優がみんな集まる中で「討ち入り」の飲み会をやったんですね。その時に浩市さんも「お前ら本気でかかってこいよ」みたいなことを言って鼓舞したというのはありましたし、そういう意味では浩市さん自身も、彼らがこの映画を支えるんだという意識はすごくあったと思うんですよね。そういう集団との対峙が前編のクライマックスですから。
これが前編のクライマックスであり勝負所だという意識がすごくあったので、そういう集団的な熱量の高さみたいなものをどうやって生み出せばいいかってことは、浩市さんも僕達スタッフも考えていたと思うんです。で、そこに若手のこれから伸びていく俳優部も「やってやろう」という気持ちはあったと思うんですよ。だから、みんながそういう風にある方向に向かっていった。それはよかったと思っていますよね。
次回のインタビューでは、主演の佐藤浩市さんをはじめとした豪華俳優陣が、いかにして役柄と向き合ったのか教えていただけます。お楽しみに!
■『64(ロクヨン)』公開情報
*前編公開:2016年5月7日
*後編公開:2016年6月11日
原作:横山秀夫『64(ロクヨン)』(文春文庫刊)
監督:瀬々敬久
出演:佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、緒形直人、窪田正孝、坂口健太郎、椎名桔平、滝藤賢一、奥田瑛二、仲村トオル、吉岡秀隆、瑛太、永瀬正敏、三浦友和
主題歌:小田和正「風は止んだ」(アリオラジャパン)
公式サイト:http://64-movie.jp/