結局、人を傷つけるのも救うのも人『きみはいい子』呉美保監督(2/4)
「虐待」「学級崩壊」「独居老人」といった社会問題について描いた『きみはいい子』(Blu-ray&DVD発売中!)。じつは呉美保監督ご自身も映画撮影後に出産を経験し、現在1人のお子さんを子育て中。今回は、ご自身も子育てをする中、映画に関して、心境の変化などがあったのかお聞きしました。
■自分が出産を経験して…きっと同じものは撮れない
―――撮影後に出産されたそうですが…撮影中は妊娠のことは知っていたんですか?
いえ、映画を撮っているときは、全く出産の予定はなかったです。じつは妊娠がわかったのは撮影を終えた編集中でした。
―――出産されてから心境の変化はありますか?
もしも産んだあとに「きみはいい子」を撮っていたとしたら、こういう作品にはならなかったと思います。もしかすると、撮ることさえ難しかったかもしれません。
―――どうしてですか?
「虐待」をしてしまう母親役として尾野さんが体当たりの演技をしてくれているのですが・・・
ものすごくしつこく、長回し撮影をしているのです。もしも今、同じシーンを撮ったとしたら、早々にカットをかけてしまいそうで。
―――自分の子どものことを想像してということですか?
そうですね。幼い子どもに手をあげるシーンは、以前より見ていて胸が痛みます。やっぱり自分の子どものことを想像してしまうと…いくら作り手と言っても、やはり人なので。
■あらためて見えた作品の変わらないテーマ
―――例えばいま、同じ作品を撮ったら虐待のシーン以外も大きく変わりますか?
変わるとしたら、さっき言った「虐待」のシーンの、その度合いの部分ですね。それ以外の部分は、おそらく同じだと。人は人によって傷つけられることばかりですが、結局それを救うのも、やはり人なのかなと。原作から感じたその部分は、変わらないと思います。
■「虐待」の連鎖を止めるには
―――「虐待」や「学級崩壊」など、人同士がかかわり、連鎖していくところも印象的だったのですが、それを防ぐにはどうしたらいいでしょうか?
やはり、周りの目やサポートが大事だなと思います。いま、自分自身が9か月の子どもを育てているのですが、周りの家族がちゃんと支えてくれて、大きな助けだなと感じています。それでも体力的、精神的に疲れてしまう瞬間はあって、あらためて子育ての大変さを感じますね。
―――それだけ子育てというのは大変なんですね
そうですね。しかもこの先、我が子が成長して、言葉が話せるようになり、さらに深い人間同士のやり取りになると、その関係に疲れることも増えてくるかもしれません。もしかしたら私も我が子に手をあげたくなるかもしれない。ましてそのとき私と子どもの二人きりだったら、大いに可能性はありますよね。
―――1人だとその負担を全て抱え込んでしまうんですね
夫はもちろん、親や友人、ご近所さんでも、誰かの存在が身近にあるだけで、気持ちに余裕が持てると思うので、第三者の目、サポートというのはすごく大事なことだと思います。
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■「きみはいい子」
*2016年1月20日(水)Blu-ray&DVD発売
監督:呉美保
脚本:高田亮
原作:中脇初枝 「きみはいい子」(ポプラ社刊)
出演:高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、高橋和也、富田靖子
配給:アークエンタテインメント
公式サイト:http://iiko-movie.com/index.html