二宮和也さんは天才だと思います 『母と暮せば』企画:井上麻矢さん(4/4)

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大切な人の死をどう受け止めるのか? 映画に込められた大事なキーワードについて語られた前回のインタビュー。最後となる今回は、あらためて…この作品を通して井上さんが感じた企画者として大事にすべきことについてお聞きしました。

 

 

古いものを研究して、どう新しくしたらいいか考えるのがプロデューサーの仕事

———あらためて、企画者として完成したこの映画をどう感じました?

私の場合は、父の意志を上手く表現してくれる人を見つけるというか、灯を繋ぐのが役割と思っていたので…そういった意味でも、この映画は本当に良いものになったなと思います。

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———「こまつ座」での舞台化の予定は?

もちろん舞台化する予定もありますよ! そちらも山田監督が脚本を書いてくださればもっと嬉しいですね(笑)。2、3年後には出せればと思っています。

 

 

———映画や演劇含めて、井上さんが思う「企画者」として大事な要素は何だと思いますか?

描きたいテーマについてとことん勉強した上で、それを時代に合わせてどう新しくできるのか、それが可能かどうかを見極めることが大事だと思います。例えばいま「こまつ座」で『漂流劇ひょっこりひょうたん島』を公演していますが、なぜ今の時代にこの題材をぶつけるのか? そこに自分の答えがないとゴーサインを出せないですから。

 

 

———なるほど。例えば、井上ひさしさんの代表作のひとつ「ひょっこりひょうたん島」を舞台として上演するのにあたっては、どんな意味づけをされたのですか?(*インタビューは昨年12月 舞台『漂流劇ひょっこりひょうたん島』が上演されている渋谷Bunkamuraで行われた)

当時『ひょうたん島』が誕生した頃の日本は、戦後、テレビなども普及し始めた高度成長時代で、その当時の勢いというのは、おそらくもう二度とないと思うんです。いわばもう失われた時代です。そんな中、ダッコちゃんだったり万博だったり時代を表すキーワードっていろいろあると思うんですけど…その過去の記憶を、今の人々がどう受けとめるのか『ひょうたん島』を通して反応を見たかったという狙いがありました。

 

 

———今の若い人が見ると逆に新鮮に映る部分も多そうですね

コレは私の持論でもあり、父から教えてもらったことでもあるんですが、「古いものを研究して、これをどう新しくしたらいいか考えるのがプロデューサーの仕事」だと思います。

 

 

———良い言葉ですね。ちなみに『母と暮せば』では、どんなところが現代を生きる人々に向けた切り口になっているんでしょう?

おそらく、この話をただストレートに描こうとしたら「原爆で息子が死んだ話」というので終わってしまうけど…これを今の時代でやるなら、親子の関係が希薄になっている社会背景を考えて、親子の物語を通して見てもらうということでしょうかね。今、日本には「戦争を知る世代」「知識として知っている世代」「知らないし興味もないという世代」が混在しています。これがもう少し時間が経つと、「戦争を知る世代」が一気に少なくなる。そうなる前にこのテーマを伝えなきゃという想いがありました。

 

 

 

丁寧な時間を紡いだ吉永さんと二宮さんの演技

―――そういう意味では、二宮和也さんが出演されているという点は、戦争作品にあまり興味がない若い女性などが触れる良い機会になりそうですね。

そこは大きいと思います。本当に彼は天才だと思います。実際、お会いしても飾り気がないですし。撮影を見ていてもやり直しがほとんどなかったということです。本当に吉永さんと2人で、親子の対話を作品の中で丁寧に紡いでくれたという感じがしました。

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———2人がそうして淡々と演じているからこそ、いろんなテーマが見えてきそうですね

ハートフルな親子の話もありながら、怖い映像があったり、得体の知れない恐怖もあったりする。そこに問題提起もしっかり仕組まれている。私もこの作品を通して、やっと一人の人間として長崎と向き合えた、向き合うことを始められたかなと思います。

 

 

 

小説版は浩二のアナザーストーリー

———最後に、この作品は小説として井上さんが書かれていますね

はい、小説はこれまで書いたことなかったんですけど、監督といろいろご相談させて頂きながら、自分に息子がいると思って書きました。

 

 

———すでに映画脚本があるものをノベライズ化するというのはご苦労もあったのでは?

浩二の母親への心情を小説として綴っていると、なんだか恋人に宛てた気持ちのようになってしまったことがあったんです。それで監督に相談したら「それでいいんです。あの頃、青年にとって母親は恋人のような存在ですから」といわれまして…それでちょっと気が楽になって書き進めることができました。

 

 

———映画では描かれなかった部分も書かれているんですか?

より浩二の心情がわかるようになっています。実際に、小説を読んで映画の中の浩二の心情がクリアになったという方もいらっしゃいました。ある意味、浩二のアナザーストーリーとして読んで頂けると良いかもしれません。

 

 

———映画を見た後に読んでみるとまた違った発見がありそうですね。ありがとうございます!

 

 

 

 

■「母と暮せば」公開情報

*2015年2015年12月12日(土)~全国ロードショー~

監督:山田洋次

脚本:山田洋次、平松恵美子

音楽:坂本龍一

出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一

配給:松竹

公式サイト:http://hahatokuraseba.jp/